-aki-第1章
ちょっとした、あきらくんの、過去
「ねぇ、あきちゃん。聞いて」
「…………」
「これからきっとあきちゃんは、運命の人に出会う日がくるの」
「うんめいの人?」
「そう、それはとっても素敵な人なんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ、その人は絶対、大切にしないとだめだよ。貴方にとってとても素晴らしい人になるんだから」
そう言った彼女は、だいがくという場所に行かなければ行けないと言って、次の日から姿を見せなくなった。
彼女との出会いは奇跡に近いものだったと思う。
驚くほど家族に興味がない両親に育てられた自分は、誰かに愛されるという感覚を知らないままに過ごしていた。小学校に入り、自分の家族が少しおかしいのだと感じるようになったそんなある日、公園でブランコを漕ぐ彼女に出会った。
「こんな遅くに何してるの、お母さんたち心配してるよ」
「…………」
「おーい、キミのことだよ。小学生?」
「…………」
19時。誰もいない家に居ることが辛くなり、机の上に置かれたお金を手にしてふらふらと歩いていた自分は、家の近くにある公園に入っていたらしい。
彼女はラフなジャージ姿でブランコを漕いでいたが、自分が反応をしない事に気を揉んだようでブランコから降りて近寄ってきいていた。
「ねぇ、帰った方が……」
「……家に誰も居ないから」
何となく、口から漏れたその言葉は、本当に言いたかった言葉では無かった気がする。
でも、彼女は自分の言葉を聞いて、その日から一緒に夕食を食べてくれるようになった。
彼女の家に招かれることは一度も無かった。
でも、彼女の家の残り物を公園で食べたり、ファミレスでご馳走だと言いながらパフェを頼んだり、自分の家に招き彼女に料理を作ってもらった時もあった。
そして、
学校での出来事をただ楽しそうに聞いてくれ、
テストで満点を取った時にとても褒めてくれ、
危ないことをしようとしたら怒ってくれた。
誰かに心配されたり、励まされたり、叱られたりそれらの感情を初めて無償で受け取らせてくれた人物は、確かに彼女で、だから『僕』にとって彼女は女神のような存在になっていたんだと思う。
「…………あきは、かおりちゃんがいい」
「ふふ、運命の人だったら、きっとまた会えるよ」
「じゃあ、その時は……」
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