桜の導く恋の行方
初めての投稿となります。桜霧 風華と言います。今回書いたのは、夢の華と月の花という自分で作ってみた恋愛小説になります。約束を守りたい主人公をこれからどうなっていくかを頑張って書いていきたいと思います。
第一話 町娘
「ありがとうございました!」
声が響き渡る。ここは町にある小さな茶屋。お客さんが店を出たあとの揺れる暖簾を眺めて湯呑をとって台所に向かった。丁寧に洗って風通しの良いところに置いた。私の名前は、山本 薫【やまもと かおる】ここ、山本屋を営んでいるただの町娘。とても小さな茶屋だけど、ちょっとした人気があった。いろいろ考えていると
「よ!薫、元気にしてたか?」
「小次!」
暖簾が揺れて店に来たのは幼馴染の、倉橋 勝奏【くらはし しょうそう】だった。昔は小次【こじ】と呼ばれていたため、今でも小次と呼んでいる。今は奉行所で刀を持って町の安全を守っていた。
「薫、お茶と団子くれ!」
「わかったから、ちょっと待ってて!」
急いで台所に向かおうとすると
「待て!2人分だからな?」
「え?」
よく見ると後ろに誰かが立っていた。黒くて短い髪に腰から小次と同じく刀をさしていた。
(あ、、この人もきっと奉行所で働いてる人なんだ、、)
「こいつは、しぶ、、、」
小次が何かを言いかけたときに
「おい」
後ろにいた人が言いかけた小次を止めた。なぜだかはわからない。何を言い出すかと不安がよぎった。
「自分で言う」
その一言で、場の雰囲気が少しずつ緩んでいった。
「はいよ~」
気楽に言う小次を見て、そんな人なんだと心に言い聞かせた。溜息がもれたあと、目を伏せたままで答えた。
「渋川 光雷【しぶかわ こうらい】だ」
目を合わせてくれないせいか、声がとても冷たく感じられた。私も何を話していいかわからず、とりあえず答えた。
「どうも、、小次がいつもお世話になってます」
かなり片言だった私に小次が呆れたようにこっちに来ていた。
「お前は母親か?」
いたずらのように言い放ち、私の頭をつついた。私も小次も笑っていたけど、やっぱり渋川さんは、笑ってくれなかった。本当に人間だろうかと、本気で思ってしまった。ようやく話がまとまって台所へと向かった。お茶を用意してからお団子をお皿へとのせた。
「おまたせ~」
そっと机に置くと、小次は美味しそうにお団子を食べていた。
「やっぱり薫の作る団子はうまいな!光雷も食ってみろよ!」
「あぁ」
あまり乗り気ではなさそうだったけれど、やっと口に入れてくれた。その時、目を見開いて固まっていたから心配になって声をかけた。
「お口に合いませんでしたか?」
尋ねると目が普通になり、目を伏せてまたつぶやいていた。
「いや、うまい」
「よかった、、」
安心して顔が緩んでしまった。けれどそれを聞いたおかげで笑顔になれた。ふと何かに気づくように渋川さんはこっちをしっかり見て言った。
「名前は?」
「え?」
「苗字から聞いていない。聞いておきたい」
(さっきまでとは、ちがう。なんだろう、、この気持ち。前もあった気がする、、)
そんなことも思いながら笑顔のまま答えた。
「山本 薫といいます」
「わかった。覚えておく。美味しい団子をありがとう。山本」
その一言に心臓がとくんとはねた。自分の気持ちもわからないまま戸惑っていると、
「光雷、そろそろいこうぜ?」
「あぁ」
2人は仕事もあるだろう。すっと立ち上がって帰る支度をしていた。
「薫!じゃあな!お代はここに置いとくぞ」
「はーい」
机にお代を置いてから2人は去っていった。2人が去って行ったあと湯呑とお皿をさげて、台所に行き、洗った。人に喜んでもらえることが嬉しいけれど、あの2人に言われるともっと嬉しくなった。あの2人のように人の役に立ちたいと思っている。けれど私は茶屋を営む町娘、、、彼らとは生きる道が違う。だとしたら1人でも多くの人に笑顔でいてもらおうと1日に力を入れるのだった。
(どうしてかな、、今日だけはいつもと違う気がする、、、)
心の中のもやもやしたものを抱えながら、暖簾を下ろして店を閉めた。1日の疲れを休めるように布団を敷いて横になっていた。私は昔のことを思い出し、目をつむる。
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「おーい!薫も来いよ!」
「待ってよー!」
小さかったころ、小次と一緒に山に山菜を取りに行ったことがあった。その時はぐれてしまい、1人山道を歩いていた。必死に叫んだけれど誰も来てくれず、そのうちに夜になってしまった。泣きながら歩き、大きな大樹の穴の中でうずくまっていた。
「小次、、」
名前を呼んでも来ない人に、さらに涙が溢れた。すると、
「こんなところで何をしてるんだ?」
顔をあげると、男の人が立っていた。顔は覚えてないけど、とても優しい笑顔の人だった。彼は私の傍に来て優しいまなざしで見つめてきた。
「誰、、?」
涙でぬれた目をこすりながら問いかけた。彼はすっと笑って、
「いずれわかるさ」
「何それ、、」
言ってもらった言葉が面白くて思わず笑ってしまった。ふと目を離したとき、彼は私の頭を撫でてきて、
「もう泣くなよ。笑顔のほうが似合ってるからな」
「うん!」
大きくうなずくと、私に手を伸ばして私の手の平に何かを指で書いていた。
「なんて書いたの?」
まるでいたずらするように、私に教えてくれた。
「これは桜って読むんだ。桜のように可愛らしく笑っていてくれ」
優しい彼の言葉1つ1つが私にあった涙を消してくれた。彼はすっと立ち上がって、
「じゃあな」
別れを惜しむような顔をして去っていこうとしていた。そんな彼に私は叫んだ。
「ありがとう!おかげで元気になれたよ!」
彼は振り返って私を見ていた。そして
「俺こそ、お前に会えてよかった。お礼ならその時言ってくれ。必ず迎えに行く。だから待っていろよ?薫、、」
それだけを残して彼は去っていった。そのすぐ後に小次が来てくれてすぐに帰ることができた。帰ったその日に彼について話したが、そんな人は町にいないと言われた。不思議なことだと思っていたが、手に残った桜の文字は私にだけ見えている気がした。その出来事がずっと忘れられなかった。
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改めて手のひらに桜の文字を書いてみる。
(彼が誰だったのかも分からないけど、近いうちに会えるかな、、?)
そんな夢みたいな出来事を信じたいと今も思う。揺れていた灯りを消して眠りについた。1人暮らすこの家が急に寂しく感じた。両親が亡くなってから、もう頼れるのは小次しかいなかもしれない。1人で営む茶屋に少し孤独を感じていた。
(明日も頑張らなきゃ!それが両親との約束だから、、)
心の中は不安でいっぱいになったけど、ちょっとした思いで頑張りたいと思えた。
(父さん、、母さん、、私必ず頑張ってみせるよ)
そして心地よい草原を歩く夢を見ながら、夢の中に引き込まれていった。たくさんの花に囲まれながら、、
読んでいただき、ありがとうございました。これからも気が向いたら投稿したいと思っていますので、次回も頑張ります。