チケット完売御礼
時間が出来た時に再筆しようかな?
「……マジで?」
優里はホールのガラスに貼られているポスターを見てそう呟く。
そこには『完売』と赤いステッカーがポスターの前売り券の部分に貼られていた。
高校の吹奏楽部で完売なんてあるんだ……と眼を丸くさせる。
「聖錬高校なら分かるけどさぁー。凱旋の吹部ってそんな人気あったの?」
「高校の吹部事情にそこまで詳しい訳ないでしょ?」
優里が煮え切らない顔をしながら聞いてくるが私にだって分かりはしない。
静岡県の強豪校、浜松聖錬高校は定期演奏会を2日間もやり、チケットは完売。それに中ホールではなく大ホールでだ。
聖錬と比べてしまうと凄さが伝わりずらいが、十分凄いことだと思う。
「とりあえずチケット買っておいて良かったね」
「ホント。まさか売り切れるとは……」
私達は眼を合わせて苦笑いを浮かべる。
凱旋の文化祭の日に、部員が販売していたチケットを買っておいて正解だった。
***
「凄い人の数……」
「姉さん、突っ立ってないでこっちに来なよ」
私がホールのロータリーの人数に驚いていると、弟の斎に腕を引っ張られる。
「ちょっと痛いじゃない……!」
「早くしないと良い席取れなくなるだろ?」
「まあ……、そうなんだけどさ。私達の定演でも、完売なんて出なかったなーって思ってね」
「演奏面は姉さんのところが上だと思うけどね。凱旋は演奏面というよりも演出――魅せ方が上手いんだよね。個々の個性が良く出てると言うか、吹部らしくないところがいいみたいな?」
斎は自分で言って首を傾げる。まあ、言わんとしていることは分かるので私もそれ以上ツッコまない。
他とは違う魅力があるのは間違いない。きっと今回も変わったことをしれくれるのだろうな。
***
「――――ふっ、なるほどな……」
首をゆっくりと横に流して翔は鼻を鳴らす。
「翔?どうしたの急に笑って」
「いやなに、観客の話が耳に入ってね、どうやってsold outにしたのかが分かっただけだよ」
「えっ!ホント!?ちょっと教えてよ」
「大したことじゃない。大志が上手くやったんだろうなって思ってな」
「……上手いことかけたつもり?」
大したと大志をかけるとは……。
私がジト目で翔を見ると、そっと眼をそらして会話を続ける。図星だな。
「まあ、話を続けよう。周りの女子高生の話を聞くに、大志がチケットを上手いこと渡したんだろうよ。大志は女子に人気があるからな」
「翔が言うと皮肉に聞こえるけど?」
私のジト目は一層力が増す。……が、翔は全く気にならないのか、私の眼を見返して微笑む。
「大志の方が上さ……。それと仲間を上手く使ったんだろうな」
「ん?どういうこと」
「耳を澄ませてみろ……。可愛い男の子に貰ったとか、カッコいい部員からつい買っちゃったとかな。おそらく大志が指示を出したんだろうよ」
「…………」
「どうした茉凛?」
「耳を澄ませてもそんな情報聞き取れないし、大志がそうやって動いたっていう証拠がないじゃない」
こんな人ごみの激しいロータリーで周りの会話を聞き取れるわけないでしょ。
「たしかにな。だが……先輩に頼まれたり任されたりしたのなら、大志は予想以上の行動力を出すって分かるんだよな。今回はきっとそんな感じがする、気になるなら演奏後に大志に聞いてみるといいい」
この自信満々よう……、もうこれは確実だ。
「翔が言い切るならたぶんそうなんでしょうね。あんたら兄弟探偵にでもなれば?」
「それもいいかもな、面白そうだ」
「真に受けない……!さ、並ぼう?」
「ああ……」
私は翔の手を握り、開場待ちの列に並ぶ。
さあ、大志たちの演奏はどんなものでしょうね?
***
「凄いや鷹谷くん!本当にチケット完売しちゃったね」
くらやんはくせ毛をぴょこぴょこ動かして興奮する。
「くらやんのお蔭だよ」
俺がそう言うと「えへへ」と嬉しそうに笑う。
「ショタ好きを瞬時に見極めてチケットをさばく。オレじゃなきゃ見逃しちゃうね」
「うるさい新美……!適材適所で動いてもらっただけだ」
「1人10枚というノルマをこうも簡単にやってしまうとはね、脱帽だよ」
「つーか、鷹谷よー。お前10枚さばくのめっちゃ早くなかったか?」
「カズと同じくらいだろ?俺は楽器講習会で連絡先交換しておいたサックスの人達とか茉凛ちゃんというツテがあったからな」
「そんなの卑怯やなー。まあ、僕達の分までさばくのに協力してくれたんは嬉しかったけどね」
「僕はスポンサー先の人が全部買ってくれたよ!」
「ああ……、あの人か」
『あの人って?』
「……おい、本番直前に余裕こいてるタコどもは誰だ……!」
1年で固まって駄弁っているところを玲哉さんに叱咤を受ける。
「……まあ、チケット完売にかなり貢献した件を考慮して許してやるから……気持ちを切り替えろ」
『は、はい!!』
俺達は急いで着替えを始まる。
何故か本番直前に駄弁ってしまっていた。
みんなどこかでリラックスしたかったんだろうな、俺も含めて。
だが、それも終わりだ。長い一服はもう済んだ。
本番まであと数時間。いよいよだ……!




