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最後のやり残し

 動画部の作業場の1つである放送室に吹奏楽部のいつもの面々が集まっている。

 まるでラジオ曲のように録音スタジオと編集室が分れており、お金がかかっているが、この学校のお金の使い方は正しいというか、良い使い方をしている。

 

「……ここでの録音も後2回か~」


 水瓶はしみじみとヘッドホンをつける。


「ああ、後は定演で最後となる。文化祭は2年生に渡した方が良いだろうからな」


「何となく始めた企画だけど面白いものだったなー、定演じゃあ3年全員になるから打ち合わせした方がいいな」


「――天馬くん、そこはいつも通りの台本なしのほうが面白いと思うよ」


「そうか?……まあ、台本あってもどうせその通りにいく連中じゃないからな!」


「お前が言うな……」


僕は軽く笑った後「じゃあ始めようか」と編集室から話しかける。


 いまからやるのは吹奏楽部の演奏を編集した動画に対して音声を乗せる作業……副音声入れの作業だ。


 3年生が引退して天馬くん達が部を纏める時に始まったこの企画もあっという間に定着化してきた。

 初めは編集して動画にするまでがDVDの内容であったが「俺達の副音声入れたら面白そうじゃないか?」と言う天馬くんの発言で急遽始まったのが事の始まり……。


 録音室に設置してあるディスプレイに動画を流し、それを見て吹奏楽部がコメントを入れる。

 形を残すのが好きな天馬くんは「毎回やろう!」と言って、練習風景や大会のDVDにも副音声を入れている。


 こんなことをする部活はここぐらいだ。だけど、それがいいんだよな。

 他人の部活だけど、楽しそうな顔をした人の映像を作るのは動画部冥利に尽きる。


「おおーい!まだか監督~」


「はいはい、始めよう――!」


 僕の合図と共に動画が再生されていく……。


「……はい!副音声のコーナーですよ!お相手は部長の天道天馬!そして……?」


「副部長の須藤玲哉。そして……?」


「学生指揮者の水瓶沙耶でお送りしまーす!」


「今回の副音声は8月に行った…………」


***

 今日は日曜日、自主練習の日だ。定演も近いことがあってかなりの人数が練習場に顔を出す。

 ……着た時にはいた天馬さん達が居ないところを見ると、どうやら副音声を取っているのだろう。

 

 俺も夏の大会のDVDを見ながらコメントを残した記憶がある。

 ある日の日曜日、「暇か?暇だな!」と強引に連れてかれたのが始まりだったな……。

 

 ああいった活動の記録が定演のDVDに入るのか……もの凄いボリュームになりそうだな。


 そう思っていると「疲れたー!」と大きな声を上げながら天馬さん達が練習場に帰ってくる。


「お疲れ様です」


 俺の前を通る玲哉さんに声をかけると「おう」と優しく返事が返ってくる。


「いつものですか?」


「ああ……。今回もぐだぐだだったけれどな、楽しかったよ……。後は定演の時に3年全員でやるつもりだ。まあ、その時には引退しているけどな」


「……そうなりますね」


「これでやり残したことはないな。後は定演で演奏して引退(おわり)だ……」


 ……止めてほしい。そんな顔をされたらもう一緒に演奏出来ないという、当たり前の現実が襲い掛かる……。


「玲哉さん……」


「……早いところ引退して自動車学校行きたいんだよな」


「玲哉さん!?」


「ふんっ……、冗談でもあり本心でもある。定演で泣くなよ?」


「泣きませんよ。玲哉さんこそ……大丈夫ですよね」


「ああ。泣くほど思いが溢れるとは思えないな。ただ……楽しんで終わりたいとは思っている。俺も天ちゃんも……3年生(あいつら)も」


「そうですね……」


 熱心に曲練習をしている3年生を見つめる。


「大会の時もこうであってほしかった。って面してるぜ?」


「えっ!いいえ、そんな風な顔をしたつもりは……」


「冗談だよ。来年頑張ってくれ。来年も……面白おかしい連中がくるだろうからな」


「来年()って……」


 今年入部した俺達が面白おかしい連中みたいな言い方だ。


「水瓶先輩!そんなフリフリのスカート着ないですよー!」


「ええ~くらやん絶対似会うのに~」


「弥生ー!パンフのパート紹介の文、変なこと書いたでしょうー!」


「ええ、ああ!鷹谷ラブって彩矢の台詞のところに書いたわね、大丈夫!まだ間に合うから……」


「もぉー!!」


「……鷹谷くんのところにも同じようなこと書いてたけど……バレてないなら、いっか……」


「…………」


 俺は周りの様子をみて肩を落とし、そっと玲哉さんの顔を伺う。


「今年()。の間違えだったかな?――類は友を呼ぶって奴だな」


 玲哉さんは珍しく……いや、俺が見てきた中で1番の笑みでそう言うのだった。

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