プロジェクトTiUW
「……いよいよこの時がきたな」
天馬は考え深そうに深い息を吐き出す。
俺達3年生の集大成となる最後の定期演奏会……。本音を言うと「やっと終わった」と思う奴もいるだろう。文化祭が終わったので、自動車学校に行くことが許されるのだ。
吹部の3年は俺含め、無事に就職・進学が決まったので後は問題を起こさぬように楽しむだけとなっている。
ほとんどの3年はイベントが終わり自動車学校の話で盛り上がっているが、俺達は定演が終わるまでお預けとなる。
「――その分、楽しもうぜ!」
相変わらずどこかの漫画から出てきたような喋り方をする天馬を見ていると、つられてやる気が出てきてしまうから不思議なものだ。
「準備はいいか?」
『応!!』
俺達は声を揃えて呼応する。
そうだ、始まるんだ。――――プロジェクト『TiUW』が……!
***
「3年生は何をやっているんですかね?」
定演まで残り3週間となっている。それなのに3年生はこそこそと何かをやっているようなのだ。
曲練習をもっとやりたいんだけどなぁ、と心の中で思いつつ個人練習を続ける。
「――そういえば、TiUW?をやるぞって小声で話してたみたいだけど?」
「TiUW?」
彩矢さんが聞いたという言葉を俺は疑問を込めて反芻する。
聞いたことの無い単語だ。というか、「ティーアイユーダブリュー」とアルファベットを言っているだけだ。意味が分からない。
「何かしらの略語なんじゃないのかい?」
新美は興味なさそうに譜面を捲り、楽譜を見ながら指を動かす。
「ふっふっふ……、あんたら分かっていないようね」
弥生さんがいつものように不敵な笑みを浮かべる。失礼だけど言わせてもらうと……きっとろくなことじゃない。
「これは引退曲の隠語……。つまり3年生限定演奏のことよ!」
「なるほど……!で、曲名は?」
「……知らん!」
おいおい……。不敵な笑みをしないで欲しい。
だが、定演前にやることと言えば、3年生なりの思い出作りだろう。動画部の録音室にこもっていることだしな。
「曲名はあえて伏せて定演で流すとか、演奏をするとかですかね?」
「そんなところでしょうね。彩矢、私達も来年は何かやりたいわね」
「……そうだね。結局何をやっているのかは不明だけど……」
「ああ……そうそう。キヨくんが「これは秘密」って言ってたんだけど、3年生用にT-SQUAREの『Twilight In Upper West』を編曲したって言ってたなー。まあ、それと今回のは無関係だろう…………おやぁ?」
『おやぁ――じゃない!!』
3年生のマル秘企画あっさりと見破ってしまいました……。Twilight In Upper Westの頭文字をとったのか、たしかにTiUWじゃあ何のことだか訳が分からないからな。
「……で、そのTwilight In Upper Westってどんな曲なんだよ?」
「ああ……、あれ?どんな曲だったけなー……っていててっ!」
気が付くと天馬さんが新美の頭をぐりぐりと押さえつけていた。いつの間にか戻ってきていて、尚且つ盗み聞ぎされていたのか……。
「どんな曲か聞かせてやるよ。レコーディングも終わったからな」
天馬さんは鼻を鳴らしながらCDを俺達に見せつける。
***
Twilight In Upper West……、T-SQUAREの名曲の1つだ。
ピアノの綺麗な旋律からアルトサックスの情感のこもったバラード曲だ。ちなみに、GWOバージョンではオーボエソロとなっていた。……このオーボエがまたいい味を出している。流石は関さんだ。
騒がしくなく、しっとりとしたバラード。いつもの3年生っぽくないところに、本当に終わりだというのを知らせてくれる曲だ。
「――原曲はアルトサックスのソロなんだが、今回はオーボエソロとなっている。ピアノも使わない、いつものスタイルだ。……実はこの曲は定演では演奏しない。3年生のステージが第2部で用意してあるし、第一、俺達がこういったしんみりとした演奏で引退すると思うか?」
うん、思わない。周りが一斉に頷いているのを横目で見て薄く笑ってしまう。
「これは定演終了後のBGMで流すつもりだ。後は……定演のDVDのエンディングでも流す予定だ。俺が部長になって思ったことは、もっと形に残る思い出を残したい!って思いだ。俺達引退する奴等だけで演奏した曲を形に残す。今まで撮ったくだらないやり取りから真剣な演奏集なんかを押さえたDVD……。楽しそうだと思わないか?」
天馬さんが部員に言い聞かせるように熱弁を振るう。3年生はそれを見て口角を上げる。
「定演だけが集大成じゃない。俺達がやってきたしょうもない活動の一つ一つが集大成なんだ……。だから……強制はしないけど、2年生、1年生は俺達のやってきたことを受け継いでいってもらいたい。大変なこともあるし、お金もかかるけど……楽しそうだろ?あっという間なんだよ、3年間なんて。やりたいことをやればいい」
『…………』
天馬さんの熱い思いに俺達は声が出なかった。引退式で言うのならともかく、まだ定演まで期間が多少なりとも残っている状態でここまで言えるなんて、凄い部長だ。
「……あっ、これ……引退の時に言った方が良かったんじゃないか?」
「この阿保んだら……!」
玲哉さんが頭を抱え、部員は大きく笑い、俺はここにいれたことに幸せを感じていた……。
天馬さんのうっかりは放っておくとして、発言自体は胸に響いた。
天馬さん達が3年になって、やっと自分達のやりたいことが出来るようになった。
俺達はそれを最上級生になる前に受け継ぐことが出来る……つまり、今以上に面白おかしいことがやれるってことだ。
伝統を無くすのも、新たに追加するのも俺達次第。
だが、1つだけ絶対に守るべき決まりは出来たと思う。
俺たちなりの集大成を造っていかなければならないということを……。




