~夏の終わりにふと思ふ~
「――さあ、これからが俺達の真の戦いだ!」
天馬さんはアニメのような台詞を吐く。天馬という名前とそれに負けない容姿を持っているこの人が言うと、違和感がないので羨ましい限りだ。……いや、俺は言うつもりないから羨ましくはないな……。
アニメ調の台詞なので真面目そうな感じではないように聞こえるが、実のところ本当に真の戦いなのである。
夏休みが終わればもう九月――3年生にとっては就職活動の始まりなのである。
前期のテストまでの成績で最終的な順位が決まり、順位の高い順から希望する企業に応募が出来るそうだ。
勿論、企業側からの要望もあるので、必ず受けれるわけではないらしいが、工業高校の特権でかなり多くの求人応募があるそうだ。
俺も覚えておかないとな、2年後だけど。
そして、10月には文化祭と定期演奏会が迫っている。
3年生が進路関係で忙しくなるので、俺達1・2年生も頑張らなければいけない。
そう思うと、夏休み中に2年生に部活を纏めさせる方法はそういった意味でも有効だなとしみじみと思う。
「――さてと、演奏する曲についてだが――結構自分達で編曲する必要がある曲があるな……。清田、新美、つーか1年、出来るか?」
1年の括りにされても困る。俺やくらやんも手伝いはしているが、メインでやっているのはキヨと新美だからな。
「やれるだけやってみます。編曲に掛かる費用は部費で落ちるんですよね?」
キヨの質問に対しては、玲哉さんが答える。
「ああ、しっかりと領収書とかを保存しておくのが第一条件だ。あと、出来るだけ安く抑えてくれ」
「尽力しましょう」
……なんで新美がドヤ顔で言うのかは謎だが、まあ、新美も編曲には尽力しているから当然?なのかな……。
「――よーし!何とか曲も決まった。楽譜管理係は楽譜の準備、楽器管理係もフォローするように。演出係とアルバム係は動画部と話し合いをして、カメラの準備や照明の有無などを決めていくように。――それぞれ纏まったら逐一俺か副部長に連絡するように!もしいなかったら次期部長に報告!いいな?」
『応!!』
「夏休みが終わっても大変な日が続く!もうひと頑張りして楽しもうか!」
『はい!!』
「――今日の部活自体はこれで終わります。この後は各係で動くように。明日、進捗具合を確認しますのでそのつもりで!じゃあ、ありがとうございました!」
『ありがとうございました!!』
***
「楽しみだね」
ふんふんと鼻息を荒立てて興奮するくらやん。相変わらず可愛い……と言いたいところだが、最近、演奏中は凛々しい顔つきになるのでテンションの違いに驚く。
トランペットのヤスケンも同じ類なのだが、くらやんの方は……雰囲気というかオーラのようなものが漂ってきている感覚になるのだが……新美曰く「アニメの見すぎだよ、坊や」らしい。――うん、新美には言われたくないよな。
「これ、マーチングやってたら相当ハードスケジュールだよな?」
ヤスが予定表を眺めながらぼやく。確かにそうだな。
「この前、俺は先生が演奏面で反対していると思っていたけれど、スケジュールのことを加味してやっていないのかもな」
「いいとこつくね鷹谷くん。オレが中学の時はマーチングもやってたんだけど、まあ大変だったよ。定期的にマーチングの練習をやらないといけなかったし、マーチング以外にも演奏会ってたくさんあるからね。中学の時の定演でドリルステージをやったけど、中々酷かったね」
「成程な。俺達は忙しいけどあれこれ詰め込んでないから、丁度いいバランスで練習出来てるんだな」
佑都が上手く話を纏める。つまりは、そういうことだ。
学校によって活動範囲はまちまちだ。しかし、凱旋は出来る範囲のことだけをやる。中途半端なレベルになってしまう可能性のあることはしない。
他校からすれば「怠慢だ」、「自分達は全部両立して結果を出している」と言われるかもしれない。
言わせておけばいいさ。全部の高校が出来ることではないのだから。
ましてや、強豪校でもなく、音楽を小さい時からやってきた人で構成されているわけでもない。
「楽しそうだから」で集まった元運動部の連中の集まり――それが凱旋高校吹奏楽部だ。
「……何を真剣な顔で考えごとしてるのさ?」
「……インターネットで吹奏楽特集があってな。つい……」
変なことを考えてないで、自分のやるべきことに集中しよう。
時間は残酷なほど早く過ぎていくものだからな……。




