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新部長は策士だった

気圧の変化でダウンしておりました庭城です。よくなるんです(笑)


みなさんも急な気温の変化にお気をつけください。(天気予報か)

「早いところ決めてしまおう」


 次期部長になる鹿島くんは部室で表情を変えずにそう言う。

 副部長の相田くんはホワイトボードの前に立っている。


 先生に大会の自由曲の選曲を任された私達2年生は、部活終了後に部室に集まった。


「去年は何をやったんだっけ?」


 弥生が気怠そうに尋ねる。


「熱帯ジャズ楽団バージョンの『君の瞳に恋してる』だな。音源も残っている、聞いてみよう」


 鹿島くんは弥生の失礼な態度にも怒ることなく、淡々とコンポを弄る。

 去年録音した演奏が再生される。


 誰もが知っている『君の瞳に恋してる』をジャズバージョンに編曲したものでテナーサックスのソロが目立つ曲である。……ちなみに私がソロを吹きたくないと言ったのと、弥生がソロを吹きたいと言った関係でソプラノサックスソロに変わっている。勿論、ソロは弥生がやった。


「……いい編曲なんだよな、どうする、今年もこれにするか?」


 テナーサックスが目立つ曲の所為か、私を見て言う。


「……うーん、私の一存で決めるわけにはいかない……かな」


 あまりやる気になれない。去年はバリトンをやっていて、急にテナーに変わった関係もありソロを交換する体制が取れたが、今年は流石にそうはいかない。

 あまり目立ちたくないというのが本音。ソロって凄く緊張するし、私のレベルでは「下手だな」と言われてしまうんじゃないのか、という不安が募る。


「他にやりたい曲はあるか?」


 部長の発言に対して、周りから声は出ない。――みんな、私を含めて頭を傾げることしか出来ない。


 私達2年生の代はとにかく控え目な部員が多い。というよりも、怖い人と、アニメ・漫画好きな人が半々いるような学校だ。私達が変というよりかは、3・1年がチャラい人が多いんだよ、うん。


3年生は部長があれこれ決めて、周りは「部長に任せる」といったスタイルを取っている。

 反対意見も出てると思うけど、副部長が上手く纏める。何より、部長のカリスマ性が高いのか反対する人がいないし、部長のアイディアはいつも面白いものが多い。


 私達は違う。この間、鹿島くん達が言っていたように部長たちのようなことは出来ないと。

 だからこそ、控え目でもなるべく部の為に動けるようにしないと……と、思っても私はそうそう自分から動ける性格じゃないんだよね……。


「――俺は去年と同じは嫌だな。課題曲が同じなら、自由曲は変えるべきだろう」


「何かいい曲でもあるん?」


 可愛い関西訛りのまどかが尋ねると、鹿島くんは「リストアップしてある」と紙をテーブルに置いて、コンポを弄る。


「どれどれ~……『宝島』ってド定番じゃない!後の曲は――知らないんですけど」


「七瀬も喜ぶと思うんだがな――」


 鹿島くんの言葉を遮るように曲が鳴り出す。――そして、言葉を続ける。


「――聞いての通り、本家の『宝島』だ。吹奏楽バージョンはみんな聞いたことあると思うけど、本家――スクエアの方も良くないか?」


 ……うん、凄く良い。私個人としてはこっちの方が好きかも知れない……。


 サンバテイストの吹奏楽と違って、爽やかな演奏。同じ曲なのに、こんなに違うんだ。編曲した真島さんは凄いな。


「――吹奏楽をやっている人からすれば、「いつもと違う」と思うだろうな。そこがいいと思っているんだ」


「どういうこと?」


 鹿島くんの伝えたいことが分からず聞いてみる。


「凱旋の持ち味って、他校とは違う面白味があるバンドだと思うんだ。ジャージしかり、EWIしかりだ。だから、他校が演奏しないような変わった曲で、尚且つカッコいい、吹奏楽のイメージを壊すようなスタイルが凱旋流なんじゃないかって……」


「そうだね。その通りかも」


「亘るんのほうがカッコよろしいな~」


 鹿島くんはもう部長として色々と考えていたんだ……。天道部長とは違う、でも、内に秘めた思いは部長に相応しいものだった。


 部長決めの時に天道部長が強く推薦していた理由が分かったかもしれない……。


「――でだ、他のリストアップした曲も流すんだが、相当難しい。俺達のレベルで出来るかどうか……でも、出来たら凄く楽しいはずだから、この中から決めたい。いいかな?」


 控え目な私達は無言で首を縦に動かす――。



***

「――よし、決まったな。これでいこう」


「――ところで、この曲って、楽譜あるの?」


 弥生の発言に場が凍り付く。


「ち、ちょっと私の所為!?でもさー」


 まあ、弥生の言う通りだ。この曲の吹奏楽の楽譜ってあるのかな?


 私達は一斉に鹿島くんを見る。――相田君が口を開く。


「こないだの部長のあいさつでも言っていただろ?今年は1年の個性が強い」


「だから?」


「あれば一番いいけど。……なければ作ればいいんだよ。個性の強い1年に――――」


 はて、誰のことだろうか……?

 


***

 帰ろうと思った矢先、亘さんに壁ドンからの顎クイからの足の間――股付近に膝が寄せられる……。くっ、う、動けない!


「いや、どうなってるのよ?」


 新美が素っ頓狂なことを言う。抗えることは無理だろう、男に壁ドンからの顎クイからの足の間――


「もういいよ……で、何があったの?」


 俺に聞かれたても困る。……ついでにくらやんが「はわわー」と慌てられても困る。亘さんに聞いてくれ。


「君達、シコシコと楽しいことをやっていると風の噂で聞いたんだけど……」


「まあ、毎日シコっては……」


「黙れ新美。一体何のことですか?」


「曲を作っているとか聞いたんだけど、そうなのかい?」


「ええ、まあ……。あ!自由曲の件ですか?」


「流石に察しが良いね。この曲なんだけど頼めるかい?」


 やっと壁ドンを解放してくれる。というか、何で俺だけ?


 亘さんは1枚の紙を見せてくる。紙には話し合いをした後が強く残っている。そして、『Megalith』と書かれた曲名に赤ペンで囲まれている。


「この曲は……!」


「キヨ、知っているのか!?」


「――知らない。一度言ってみたかった。謝るから殴らないで――いたい、いたい!」


 くらやん含め全員からビンタが浴びせられる。


「キヨくんが言わなかったらオレが言うつもりだったのに、くそっ!」


 新美はほっておこう。話が進まない。


「この曲は『Megalith(メガリス)』。『TRUTH』の曲を吹いているバンドT-SQUAREの隠れた名曲だ。難しいがカッコいい。どうだ、編曲してみないか?」


「ほ、本気ですか?」


「ああ、出来なかったら違う曲に変えるだけだ。出来そうにないか?」


 亘さんは無表情だが挑発するように俺達を一瞥する。


 上手い発破だと感心する。ちらりと横目でキヨを見ると、「上等だ」と言わんばかりにご機嫌斜めな表情をしている。


「――とりあえず部室で聞いていいですか?楽譜があるかも知れないし」


「よろしく頼む。いい返事を待っているよ」


 亘さんを少々舐めていたな。この人は自ら動く天馬さんとは違い、周りの部員の性格を上手く使える人なのかもしれない。

 内に秘めた気持ちを心の中でメラメラと燃やしていたのか。

 そう思うと恐ろしい新部長だ。まあ、俺の勝手な解釈だけどな。


「キヨくん!この曲の楽譜がインターネットで販売してたよ!……吹奏楽用じゃないけど」


「それで十分。ありがとね、くらやん。新美ン、どうする?」


「オレとキヨくんはピアノやってたからコードなんかは何となくだけど分かるから、後はパート分けだね。みんなに手伝ってもらおう」


「よし!明日は部活も休みだし早速取り掛かろう」


「うん!!」


「……ところで、新美、キヨ。1つ聞きたいことあるんだけどいいかな?」


『ん?』


「2人ともピアノをやっていたんだよな?」


『うん』


「なら、学指揮とか向いていたんじゃないのか?」


『んふふー』


「笑いごとじゃないー!」



 こうして編曲作りが始まった。

 ハッキリ言って、そんな簡単に出来たら苦労はしない。やる気を出させるために言ったに過ぎない。……フラグではない。




***

「出来たーー……」


「思ったより早く出来たね。……どうしたのさ、鷹谷くん?鷹がドロップキックくらったような顔して」


「そんな突飛なことされたことない……!本当に編曲出来てしまうとはね、驚いた」


「かなり手伝ってくれた君に言われてもね」


「いや、俺は何もしてないって。メロディーラインをどこのパートにやらせたらおいしいか、曲に合っているかくらいしかやってない」


『それで十分だっての』


 曲制作において新美とキヨの息はピッタリだ。


「さ、度肝抜かせてやろう」


 キヨはニコリと笑うが眼が笑っていない。相当頭にきたんだな……。


 ともあれ、俺達の編曲作成1曲目が無事完成された。

 明日が楽しみだ……。


「ねえ……言いづらかったんだけどさ、佑都くん呼ばなくてよかったの?」


『…………』


 明日がこないでほしい。

 そんな歌詞のようなフレーズが頭を過る。


 翌日、「なんで呼ばなかった!」と言われるのは、言うまでもなかった……。


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