新たな課題と新たな部長
夏の大会が終わり、新たな夏のスケジュール表が配られた。
中身を見ると……本来予定されていた練習日が休みに変わっていたり、ちょっとした場所での屋内演奏や訪問演奏が追加されいた。
大会が終わるってことは、そういうことなのだなと思う。
本来、大会に割く時間を違うことに使うという―――終わったことだ、後悔はない。というより、プレッシャーなく楽しく演奏出来るのはいいことだ。
それに、大会が終わったからと言って、3年生はご健在である。定期演奏会がある10月末日まで支えて貰いたいところだ。
「――スケジュール表に明記してあるが、夏休みの間にやる課題がある。SJ&Pコンテストへの応募だ」
SJ&Pコンテスト……?
1年以外の部員は分かっているのか困った顔をしていない。
すると、玲哉さんの説明が入る。
「SJ&Pコンテスト――正式名称はシンフォニックジャズ&ポップスコンテスト全国大会だ。『宝島』や『オーメンズ・オブ・ラブ』の編曲で知られる真島俊夫さんが主宰している大会だ。あまり知られていない大会だが、今年も凱旋は応募するつもりだ」
大会の詳しい説明が長い間始まった。要約するとこうだ。
過度な演出を抑えた吹奏楽によるジャズとポップスの演奏会。通称、ジャズポと呼ばれているらしい。
プロムナードコンサートの時のような演出重視ではない、演奏で魅せる大会だそうだ。
エントリーする為には、音源を提出して選ばれた団体のみが来年の2月での本大会――実質の全国大会で演奏することになる。
曲は課題曲と自由曲を合わせて12分以内。音源応募の期限は10月末日まで……つまり定期演奏会と被る。
「――だから夏休みの時間が取れる間にこの大会への曲練習が入る。10月は文化祭や定期演奏会でそんな余裕はないからな。――それと大事なことがある。2年生は薄々分かっているとは思うが、音源応募が済むまでは俺達3年ではなく2年生が主体となって部をまとめてもらう。3年生は時期的に大会に出られないし、録音時も演奏はしない。完全にサポートに回る。――やりずらいとは思うが、3年がいる間に部のまとめかたを把握しておくと後々楽になるからな」
天馬さんがバトンを繋ぐように話をした。
成程……。良い案だな。3年がいる間に引き継ぎをじっくりとサポートして貰いながら部活をやっていく。2年生も、支えてくれる3年生がいる前で指示を出した方が、練習にもなるし悪いところをすぐに直してくれる利点があり、理にかなっている。
「――これの利点は皆さんが予想していることの他にもあります。それは練習した曲はそのまま定期演奏会での演奏曲のリストに加わることです。もし音源審査で落ちてしまっても定演でしっかりと活用出来る。そして、2年生の教育にもってこいの環境ですねー」
争覇先生はそう言ってにっこりと笑う。抜け目がないなと思う半面、先生の言った利点が、みんなが俺が思った考えと同じなのかは難しいところだ。
「――よし!それじゃあ、恒例になってきた次期部長決めを行うぞー!1年は空き教室を使って練習してこい。以上――!」
***
「誰が部長になるのかなー」
くらやんはくせ毛をぴょこぴょこ動かす。練習にあまり身が入らないようだ。まあ、気持ちは分かる。
おそらく1年はこうやってそわそわしていたのだろうな。誰がなるのか、どんな話し合いをしているのかなどを……。
「ジャズポだっけか?聞いたことないよな。新美、お前知ってる?」
ベースのまっつんがベースを弾きながら新美に尋ねる。
「オレも初耳だね。吹奏楽の大きな大会って、夏・マーチング・アンサンブルとかだと思ったけど」
「ああ、そういや凱旋ってマーチングやってないよな。他の高校だと多いんだろ?」
「争覇先生のことだから、演奏がしっかりと出来ないのに動きながら吹けるわけがないって言いそうだけどな」
『納得』
俺の発言に皆が頷く。まあ、そういうことだ。
「俺はいいと思うね、ジャズポ。あんまり動くのって好きじゃないからさ。演奏で魅せた方がカッコいいよな?」
『同感』
今度はヤスの意見に同意する。――まあ、ノリのいいメンバーだ。
「――ところで、鷹谷くん」
「どうした、くらやん」
「3年がいるのに、2年が指揮を執るって気まずくない?何か利点でもあるのかなー?」
「…………」
俺はくらやん含め、1年全員に説明を入れる。
――その後、雑談で時間が過ぎていってしまったのは言うまでもない。
「――あ、関係ないけど曲制作のコツが掴めてきたよ。新美ンと一緒にシコシコやっててね」
「こう、ご期待」
「ホント、関係ないな。後……俺やくらやんも参加してただろうが……」
まあ、それは文化祭や定期演奏会で花開くことを願っているが、今は新部長が優先だ――。
***
「――と、いうことで!次期部長と副部長はあいさつ」
「いたっー。背中叩かないで下さい、現部長。――天道部長の後を継ぎます鹿島亘です。よろしくお願いします」
亘さんが背中をさすりながら、丁寧に頭を下げる。やはり、亘さんか。
「正直、部長のようなテンションは出来ないですけど、部をしっかりとまとめたいと思ってます」
流石に天馬さんみたいな人になるのは厳しいだろう。だけど、落ち着いた亘さんの仕草を見ていると、どこか安心するところがある。心配はいらなそうだな。
「副部長をやります、相田正久です。鹿島を支えれる様に頑張ります」
……これまた落ち着いた性格のクラリネットの正さんが副部長になるのか――3年のコンビと比べると、カリスマのようなものはあんまり感じないが、親近感は凄く感じる。豪ではなく柔といった感覚だ。前者が天馬さん達で、後者が亘さん達だ。
なんだか、二人掛かりで大きな力を抑える役目のような気がする……なんでそんなこと思うのだろうか。
「僕と正では役不足に見えると思いますが、今年の1年はいい意味で個性が強い。部長まで個性が強いと部がまとまらない気がしますので……」
ああ、そういう……なんだかすいません。
納得のいく人選であった。
「――では、早速指示を出します。学指揮、基礎練の準備を」
「はい!――って、あれ?」
もう1人学指揮がいるはずなのだが、2年生で……。
弥生さんのほうを見ると、口元を上げて無言で親指を上げる。「任せたわよ!」と言わんばかりに……。
いや、手伝ってよ……。




