ようこそ、吹奏楽部へ!!⑥ やっと入部!
どうも!熱いですね。
毎週更新するとかほざいていた奴はFOXDIEで倒れました。
入部体験も終わり、入部当日になった。
俺達一年はデザイン科視聴覚室の入り口で並んでいた。入部挨拶というやつだろう。
指揮台には鞍馬を連行したガタイのいい部長と低音声の先輩がいた。あの人は副部長なのか?
他の部員は指揮台を囲む様に椅子に座っている。映像とかで見る合奏体制の配置だ。これが本来の形なのだろう。見学の時のは、新入生用にあのような楽器ごとの配置に分けていたのか。
指揮台にいた部長は軽く咳払いをし、ニッと笑みを浮かべる。
「一年生、吹奏楽部へようこそ!俺は部長の天道天馬!!よろしく頼むぜ!」
名前といい、何とも漫画の主人公の様な人だ。親指を立てて決め顔をするあたりスポーツ漫画の主人公だな。
「……自分は副部長の須藤玲哉。よろしく」
対照的な二人だな。鋭い目付きがギラリと俺達の方に眼を配る。
「……さて、一年生には自己紹介をしてもらう。名前と課と中学の部活、後はやりたい楽器なんかも言って貰うと助かる。それじゃあ、君から」
玲哉さんは淡々と進行をする。天馬さんは「冷めてんなぁ」と肩を竦めて笑う。
一年生はそれぞれ名前・課・中学の部活、そしてやりたい楽器を紹介していく。
不味いな、俺は中学は部活動じゃなくてクラブチームだ。それに――皆希望楽器を発表していく。俺は決まっていないのに……。
自己紹介が始まっていく。皆、希望楽器が決まっているようだ。躊躇いがちではあるが希望を言っている。
考えている内に俺達の手番になっていた。
鞍馬は軽く呼吸を整えて口を開く。
「く、鞍馬!……しかのすけです。課は電気課で中学はテニス部!フルート希望です!お願いします!」
鞍馬……、名前を誤魔化す様に他の部分を早口で言うとは、何というか……。
『可愛いーー!!』
案の定女性部員から声が上がる。
鞍馬は「ふぇぇ?」と深刻な顔色で俺の方を見る。
俺を見られても困る。新美は口元を手で隠し「そりゃぁ、そうなるわな」と笑っている。俺の変わりに助けてやりなよ……。
さて、俺はどうするか……。よし、適当に誤魔化そう。
「鷹谷大志です。電気課で中学はサッカーをやっていました。希望楽器は――考え中です!よろしくお願いします!」
俺は自分の出来る範囲の作り笑顔を浮かべる。
周りからはクスクスと笑い声が聞こえる、よし!とりあえずは成功だな。
そんな俺の思いを断ち切る様に声が飛んでくる。
「鷹谷はサクパが貰いまーす!」
椅子に座っている弥生さんが手を上げ、二ヒヒと笑みを浮かべながら野次を飛ばす。……この人は!
「だってよ、鷹谷君。しょうがないけどサックスにしなよ」
新美は俺の肩を叩いて肩を竦めてみせる。おいおい、新美君。君は誰の味方だよ?つーか、何だよ?その「やれやれだ」みたいな顔は!
「――じゃあ鷹谷はサックス希望で。別に決定事項ではないから安心しろ。あくまでも楽器選考をしやすくするためだ。……大勢の前でサックスのご指名を貰った以上、決定みたいなものだがな」
玲哉さんはフッと鼻で笑う。本当ですよ、目立ち過ぎてもうサックス以外候補がない。というか、選ばざるを得ないような……。
俺は疲れた眼で弥生さんの表情を確認すると、「イエーイ!」と矯正している歯を見せつけてくる。……この人には頭が上がらない気がする。
弥生さんに呆れながら、彩矢さんに眼を移すと、俺の方をチラチラと覗いている様に見えた。
やっぱり嫌なんじゃないのか?大丈夫なのか?
俺は期待を込めて新美に助けを求めると「新美浩太郎です。課は――」とお手本の様に自己紹介をしていく。俺はそこに期待を込めたんじゃない!参観日のお母さんじゃないんだよ。
***
一年の自己紹介が終わり、部長の天馬さんが口を開く。
「――よし!それじゃあ、各パートリーダーは一年の楽器を正式に決定する様に動いてくれ。楽器が決まったら、余っている楽器から使用する楽器の選定、譜面台、JBC、合奏に必要な準備をしておくように!今日は例年通り各パートで終わりを決める様に!以上!!」
『応!!』
天馬さんのメリハリのある説明が終わると、一斉に掛け声が聞こえる。ここでは「応」と返事をするようだ。まるで体育会系だな。
周りが一斉に動き出し騒めき出すと、弥生さんが「新美~、鷹谷~」と悪戯をする顔付で俺達を手招きする。もう少し普通に呼べないのか?この先輩。
***
俺達は空いている二つの椅子に腰を下ろす。
「ようこそサクパへ~。あんたら二人がくると私は思っていたね、うんうん」
白々しいリアクションだ。
弥生さんを軽く無視して、彩矢さんに意識を向けると、やはり俺を見ないように目線を下げている。歓迎していない態度が目立つ。
やっぱり、嫌なんじゃないのか?……しょうがないな。
「いやいや弥生さん、まだサックスやるとは決めてないですから。ははは」
苦笑いを浮かべ、後ずさりをする。この流れでフルートパートへ行こう。あそこにはおそらく鞍馬もいるし……。
そう考えて、腰を上げようとした時だった。
彩矢さんに服の袖を掴まれる。
「――彩矢さん!?」
俺はつい下の名前で呼んでしまった。俺らしくもない。
彩矢さんは俺の眼をジッと見つめ、綺麗な唇を動かす。
「……私の傍にいて」
上目遣いの潤いを持った藍色の相貌が、俺の動き……呼吸までも支配する。
暫くの沈黙が過ぎ、弥生さんが急に吹き出す。
近くで爆笑している弥生さんが視界に入る。このことから推測されるのは……。
「僕にバリサク(バリトンサックスの略称)をやって貰いたいってことですよね?修善寺さんのテナーが僕の隣になるので……!――そういうことですよね?」
自分でも驚いてしまうほどの確認攻めだ。落ち着け、俺。
「ええ?――私、そう言わなかった?」
俺の質問の嵐に面を喰らった様な顔をしている。
1つの核心を突く質問を彩矢さんにぶつける……。
「……今の言い方、弥生さんに伝授されたんじゃないですか?」
「え?どうしてわかるの?」
彩矢さんは眼を丸くする。丸くしたいのは俺の方なのだが……。
俺は細い眼で弥生さんを睨むと「誤解は解けたかい?」と笑う。
彩矢さんは「ねぇ、どういうこと?」と弥生さんに問い詰めようとするが、弥生さんは二ヒヒと笑うだけだった。
まだ、全てが把握出来たわけではないが、新美の言った通り、俺の考え過ぎだってことなのかもしれない。まだ、確定は出来ないけれど……。
俺は肺に溜まっていた嫌な空気を吐き出す。そして――
「バリトンやります」
俺は諦めの様な安堵の様な声でそう言う。
すると、彩矢さんから「……良かった」という囁きが耳に入る。いまいち状況が掴めないな。
新美からは「やれやれ」と声が漏れた。新美君は何かしたか?一仕事終わった顔をするなよな。
「――あのー、その二人で決まったのかな?七瀬さん。決まったのなら自己紹介してもいいかな?」
申し訳なさそうにサクパの三年の先輩が口を開く。
体験の時には姿が見えなかった人だ、おそらく勧誘に出ていたのだろう。太めの眉に大人しそうな目元、失礼な言い方だが俺のイメージしている文化部系の顔立ちをしている。
「良いですよ岸先輩、私と彩矢は見学の時に紹介済みなんで」
「ああ、そうなんだね。えーと、三年でパートリーダーをやってますアルトサックスの岸徹です、よろしく」
俺と新美は頭を少し下げる。
「見ての通り、サクパは七瀬さんが仕切っている様なものだから、七瀬さんの指示に従ってくれると嬉しいな」
徹さんは申し訳なさそうに苦笑いをする。何とも消極的な人だな。
「駄目ですよ岸先輩!弥生に任せたら滅茶苦茶になっちゃいます!!」
「……同感ですね」
「おおー?何だ新美~、先輩に向かって早くも下克上かー」
「いたたたた、チョークスリーパーかけるの止めて下さい」
「今のは新美が悪いだろ。……まあ、否定はしないけど」
「鷹谷~!!」
「あはは!」
徹さんを除く四人でワイワイと騒ぐ。
俺達の一連の流れを見て、徹さんは「上手くいきそうだね」と微笑を見せる。
***
「それじゃあ、色々と教えていくから覚悟するように!!」
2年生が中心となって、俺達の楽器や譜面台、教本であるJBCという赤い色をした本を渡される。後は前任者が使っていた楽譜が入ったファイルや、教本やファイル類を入れるケースなんかも渡された。
「凱旋には音楽の授業がないから、音楽室がない。だから、この視聴覚室を練習場にしてんのよ。毎回、準備室に楽器をしまう必要があるから、ファイル入れとかあると便利なのよ。地べたに楽譜を置くのって見栄え悪いでしょ?そういうこと」
「部活の内容だけど、部活は基本的に毎日あるの。水曜日と日曜日は個人練習の日になっているから休みは水・日って思ってもいいかもね。実際に日曜はかなり休んでいる人が多いしね。練習は基礎練習をやって、個人練・パート練を経て合奏をやって終了」
成程。毎週水曜はLHRがあるから部活をやれる時間が少ない。少ない時間の為だけに楽器を準備してそれを仕舞って、机などを元の位置に戻すのは無駄が多いってことか。パーカッションなら尚更だ。でも、サックスなら――。
「毎日吹けるね、鷹谷君」
言うと思ったよ新美。考える事は一緒か。
「――よし、大体の準備も終わったし、一通り説明をやった。今日の部活はこれで終わろうか」
徹さんは肩を揉みながら俺達に呼びかける。
「よし!じゃあ早速サクパの歓迎会に行くわよ!」
「は?歓迎会!?」
俺は弥生さんの聞きなれない言葉に過剰に反応をする。
歓迎会……をするのか?部活動って。
「上下関係がある部活動出身だとびっくりするよね。私もそうだった」
彩矢さんは俺の表情を見てクスリと笑い言葉を続ける。
「……中学の部活が大変だった人はのめり込むと思うな。私と同じで」
彩矢さんの笑顔は綺麗なのに悲しさを感じる表情だった。
未練を断ち切れないような、断ち切っている部分もあるような。俺の宙ぶらりんな心境を投影しているような。そんな感じがした。
「さあ、行きますか!!」
弥生さんの大声で我に返る。
俺は急いで身支度を整えて、皆と一緒に歩き出す。
いい加減、吹奏楽やれよって感じですよね。
早く書きたいです。(書けよ)