合宿終了!
「いやー、昨日はうとうとしていて気付いたら鷹谷くんの布団に入ってたよ~。悪いと思ったけど暖かくてつい」
山盛りのご飯を片手にくらやんは照れ笑いをする。ツッコミどころが満載だが、昨日の覚醒したくらやんはどこにいったのだろうか。今、俺の前にいるのはいつもの可愛いくらやんだ。
まあ、いいか。眠くて思考回路が変だった……ということにしよう。
「――ところで、さっき何か新美くん達と会話してなかった?」
「いいや。何も」
俺は涼しいくらいの笑顔で返す。くらやんは「そ、そっか」と顔を赤くする。何故、赤くなる。
「もういじり尽したからいいけどさ、君がくっつくことに関しては私は一向にかまわん!」
「新美、うるさい。そのネタ分かる人少ないし、新美は俺の父親かよ」
新美は「親友さ」としたり顔で言い切った。梅干しの種をぶつけたかったが、悔いとどまった。
くらやんは「え、何の話ー?」と興味津々でくせ毛をぴょこぴょこと動かすが俺が答えることはなかった。
あの後、俺と彩矢さんはテレビでよく見る記者から質問責めされるタレントのようだった……。
お互いに黙認。いや、彩矢さんは喋ったかもしれないけれど、正直、みんなが思っている状態にはなっていないし、彩矢さんにその気はない――と思えなくはないが、それは自意識過剰だろう。忘れよう。
今の状況を思い出せ。これは合宿――大会に向けての総仕上げだ。集中し直そう。
***
食事を終え、パート練習に入る。
前日に指導してくれた松田先生の指導内容を元に、各パートで練習をしていく。
俺は争覇先生とマンツーマンで指揮の振り方から大会での所作に至るまで、必要な要素を無駄なく指導される。
メモをとる暇がない。後で書く時間をとらないとな。
「あ、そうだった。――鷹谷くんにこれを渡さないと」
争覇先生が手に持っていたのは長方形の木材調の箱――指揮棒入れだ。勿論、中には指揮棒が入っている。
「大会用の指揮棒。鷹谷くんに渡しておくね」
「はい……!」
いつも使っている指揮棒よりも上質なのが触って分かる。いや、後生大事に箱に入れているからそう思うだけかもしれないけれど。
「……軽いですね」
俺は指揮棒を軽く振ってみる。木製ではなくプラスチック製なのでテンポを確認する際に、譜面台を指揮棒で叩く行為は出来ない。大会用なのだから、そんなことは出来ないことは重々承知である。
「軽いけれど、重たいよ」
争覇先生は笑みを含みながらも、芯のこもった口調でそう言った。
その通りだ。決して軽いわけではない。責任という重さは計り知れない。
「今回は私の所為で大変な眼に会ってしまったけれど、こんな機会は滅多にない。鷹谷くんの成長につながることを期待していますよ」
「はい!」
***
午後は体育館を使用しての本番さながらの練習だ。舞台の準備から演奏終了まで時間を計り、無駄なくスムーズに行えるかの確認だ。
争覇先生は体育館の奥に椅子を置き、そこからスピーカー越しに指示を出していく。
1回通して、悪いところを確認。短めの休憩をはさんでもう1回。これを何度も繰り返す。――途中でグラウンドに出て演奏。
これは、体育館のような響く場所で慣れ過ぎないように、外に出て本来の音がどれくらいか確認するためだ。
やはり、外での演奏は響くものがないため、音の良し悪しが如実に出るな。残りの日数、使える時は外で演奏するのもありだなと思う。
「――それじゃあ、最後1回通しましょう!」
俺は堂々と胸を張り、指揮台でそう伝える――!
『応!!』
こうして、合宿は終わりを迎えた。
次はもう本番だ。まずは地区大会――ここで終わるのだけは阻止させる。
「当たり前でしょ」と弥生さんに言われる。その通りだが、果たして俺達の演奏の評価はどうなのか。まだわからないのだ。
大会が待ち遠しい。




