合宿開始!
「大変なことになったなー!」
合宿が始まり、宣言通り来てくれた講師の松田先生は開口一番そう言った。俺もそう思う。
「こういったケースは初めてだからアドバイスの仕様がないなぁ。しかし、先生や部員が納得しているのなら頑張るしかない。とりあえず、1回通してみてくれ」
『はい!!』
前回レッスンがあった時から約1か月。俺達の演奏がどれほど変わったか聞いてもらう。――俺の指揮もだ。素人なりに頑張ってみたが、プロからみてどうなのか感想を聞こうじゃないか――。
俺はゆっくりと指揮棒と左手を上げる。それに合わせて楽器を構えていく。本番さながら、部員の顔を一瞥して指揮を振り下ろす――!!
「――――驚いた。特に指揮者……たいしたもんだ。先生のケガと代役のことを聞いて、凄く心配したんだけどな。いい意味で取り越し苦労だった」
松田先生は苦笑いをしながら優しく手を叩く。よ、良かった……。
「やるでしょ?今年の吹部は」
争覇先生は笑顔でそう尋ねる。松田先生は「恐れ入ります」と笑いながら手を上げてみせた。
「――よし!不安材料はなくなった……が、演奏面はまだまだだな。みんな、急いでグラウンドに集合してくれ。――外で演奏するぞ」
***
「――どうだー!外で演奏すると自分達の音がどれほど弱いか分かっただろう?反響のないところで演奏することで問題点が山の様に出てくるもんさ」
丁度、グラウンドが空いていたので急いで楽器を運んで1回通してみたが、先生の言う通り、あれほど盛り上がっていた音がか弱く聞こえる。
「基礎練で大分鍛えていたお蔭でそこまで酷くはなかったと思うが、演奏している自分達はどうだ?納得できるか、この演奏で県の代表校として東海に出れるレベルなのか。――部室に戻ろうか、今の演奏も録音してあるんだろ?確認してみようじゃないか」
『はい!!』
俺達はまた急いで楽器を運ぶ――。持ち運びが大変な打楽器を手伝いながら、松田先生の言葉が胸にささる。
東海大会に出るということは、県の代表になるということ。つまりは、静岡県の看板を背負って演奏をするということだ。
当たり前のことと言う人がいると思うが、そう考えると県代表として恥ずかしい演奏をするわけにはいかないと思えてくる。
自分達の演奏だけを考えるのではない、他の高校の人達の分まで良い演奏をする必要があるのだ。
それが東海大会、または全国大会というものなのだろう……。
***
「――うん!聞いている感じ行ける可能性は大分高いと思う。本番まであと少し、頑張ってくれ!」
『ありがとうございました!!』
朝9時から夜の19時までひたすら合奏を繰り返した。先生がいる間にひたすら悪いところを見つけて貰い、明日の個人練習・パート練習で直していくという算段だ。
それにしても流石に疲れた……。体力というより、精神がヘロヘロになっている。演奏をしていない俺でこれだから、演奏をしていたみんなの疲労はピークだろう。
この後はゆっくりと身体を休めて明日に備えるべきだろうな……。
「腹減ったなー!食事係、急いでご飯の準備!他の奴等はバーベキューの準備だ!肝試しも控えている、急げよ!」
『おうよ!!』
……な、なるほど。疲れが1周してハイになっているな?――明日の午前中は全員使いものにならない気がする。メニューを考え直すかな……。
***
『俺達の青春にカンパーイ!』
夜の20時過ぎ、天馬さんのくさい挨拶で遅めの晩御飯となる。
今日はバーベキューだそうだ。どうやら合宿の恒例みたいだ。
くらやんが今日は満月だと言っていたが、生憎の曇りで一時見えたと思ったらすぐに隠れてしまう。
くらやんは「むぅぅ」と頬を膨らませる――が、大量のお肉やおにぎりを頬張るとたちまち笑顔になる。可愛い奴め。
「――おおーい!差し入れ持ってきたぞー」
「お前が大会で指揮を振る1年か!?やるねぇ」
「関!カメラしっかりまわせよ。オフショット映像の素材はあり過ぎるくらいで丁度いい」
「わかってますよ……」
途中でOBの先輩達が高そうなお肉と共に現れる。
そして写真やビデオカメラであちこちを撮られる始末。悪いことではないんだが、テンションが高すぎてついていけない……。
天馬さん筆頭にばか……大騒ぎだ。疲れてないのかね?
本当に……楽しい部活だよ、まったく。
「――よーし、後片付けをさっさと済ませて風呂に入るぞー」
楽しい食事も終わり、後片付けの時間に入る。この後はお風呂だ。
「――くらやん、一緒に入るつもりか?」
俺は意味不明な質問をする。
「当たり前だよ!」
そうだよな、俺が可笑しいんだよな、はは……。
すると、新美が俺の肩を優しく叩く。
「気持ちは分かる」
他の1年も無言で頷いてくれる。お前等……!
「な、なんなのさぁー」
合宿1日目はまだ終わらない。もしかしたら、これからが本番なのかもしれない……。




