大会が近いからこそ、やるべきことがある
高校での初めての夏休みが始まった!……が、俺達吹奏楽部は休みなど当然なく、毎日練習に明け暮れていた。
「鷹谷、アルトもいけるじゃない」
俺のアルトの音を聞いて、弥生さんは微笑を浮かべる。
「全然吹けなくて悔しいですよ」
バリトンは新美は使用しているので、俺は暫くアルトで練習に参加している。
同じサックスでも、アルトとバリトンでは勝手が全然違う。アンブシェアも違うし、音は高くて音程が取りにくい。というか、俺はバリトンのような低音が好きなんだなとあてがわれたアルトに眼を配りながらそう思う。
「生意気な後輩め」
弥生さんは少しむくれた顔をしながら軽く頭にチョップを入れてくる。……彩矢さんもだ、どうして?
***
「大会まであと少し、こっからが勝負だ。曲の理解度を深めていい演奏をしよう」
『応!』
「――明日から合宿になります。こないだ配布した役割分担表を見直して時間を有効よく使うように。それじゃあ今日はここまで!ありがとうございました!」
『ありがとうございました!!』
今日は早めに部活終了となり、明日の合宿の準備に使う。といっても、場所は凱旋高校なんだけれどな……。
凱旋には合宿用の建物が立てられている。各部活動がここで食事や寝泊まりをするのだ。もちろん、食事などは自分達で準備をする。食事係はこの後、食材の調達に行くそうだ。
「――学校で合宿ってする意味あるのかね?みんな、家から遠くじゃないでしょ」
「思い出作りも兼ねているものだろ。施設を借りたりするとお金もかかるだろうし」
新美は「たしかに」と細い眼を一層細くさせる。
「そういえば、明日の夜は満月だってニュースで見たよ。楽しみだね」
くらやんは「えへへ」と無邪気に笑う。満月が楽しみって、意外とロマンチックなことを言うんだな。意外だ。
「先輩に聞いたけど、肝試しもあるみたいだぞ~」
佑都がお化けのポーズをとり、くらやんの肩を強く叩く。
くらやんは「ええっ!」と泣きそうな顔をしながら、俺の服を掴む。可愛いから止めろよ!
「……君は何にキレているのさ」
何故か心の中を読んできた新美にツッコまれる。に、新美も経験してみろ!相当くるんだからな。
周りを見ると合宿を楽しみにしているような雰囲気になっているのに気づき、俺は息をほうと吐く。
そういえばここのところ張りつめ過ぎていたな。指揮者に任命されて眉間に皺がよりっぱなしだった。
凱旋に大事な「楽しむために頑張る」というスタンスを忘れていた。大会でもそれを貫いていかなければな。
辛く大変な時こそ、楽しめる環境にする。
俺が楽しまなくて誰が楽しむ?
メリハリをつけてこそ、効果的な練習になる。
そう思うと先程新美に言った合宿の意味を再認識する。
思い出作りもそうだけど、ささやかな息抜きも入っているのではないのか?と。
だってそうだろう、大会で上を目指すだけが吹奏楽じゃないんだから……。
大会に向けて意識を音楽一本にするのもいいが、みんなで同じ空間でリラックス出来た時こそ、自然な揺らぎのない意識になっていくのだろう――と俺は思っている。
どうか、そう思った合宿になってくれることを願っている。




