頭角、現す
「本当にごめんなさい」
争覇先生はそう言いながら深く頭を下げる。右腕にがギプスが付けられていて、指揮が出来る状態じゃないことを再確認する。
しかし、子供を助ける為のケガだ。咎められる理由もないし、言えることも出来やしない。後日、警察から感謝状をもらえるかもしれないな。
「鷹谷くん、大変な役回りだけど任せても大丈夫?」
「ええ、やれるだけ頑張ってみます。皆さんの力を借りてですが」
「ありがとう。私は指揮は振れないけれど指導は出来ます。安心して指揮を振ってね」
「はい!」
先生がいるってだけで相当有り難い。先生の言葉通り指揮が振れなくても指示は出せれる。いつもと変わりはしない。後は俺がみんなが吹きやすい指揮を目指すだけだ。
***
「トランペットー、音が汚いですよ~やる気あるんですか?」
「……」
先生は指揮台の近くで椅子に座り楽譜を見ながら指示を出す。指揮棒を持っていないので、いつもの怖いオーラは出ていなくて、綺麗な笑顔の美人教師ではあるのだが……その優しいテンションから出されるダメだしというのは中々堪えるものがあるな……。
「……鷹谷くん?」
先生は考えごとをしていた俺に対し、笑顔で圧をかける――どっちでも怖いじゃないか……!
「すいません!――トランペット今のところもう一回お願いします。それから――今の小節の4拍目の音はユニゾンです。もっと綺麗にそろえて下さい。1週間前にも指摘されたところです。ご注意を――!」
『はい!』
俺はそう指示を出しながら楽譜に付箋をぺたぺたと貼っていく。
「――ストップ。……クラリネット、今のパーカッションの演奏、どう思いますか?」
「えっ?……えーと、クレッシェンドした最後の音なんだけど、もう少し軽く叩いてもいいんじゃない?」
「なるほど――先生、どう思いますか?」
「ええ、山路くんの言いたいのは、音を強く鳴らすイメージよりも響かせる綺麗な音が良い――そういうことですか?」
「はい。そう思いました」
「うん、そうした方がいいですね。強く鳴らすのでなく、響かせるイメージで、音量は十分聞こえますから。いいですか?」
「はい!」
「それじゃあ、もう一度頭から――……」
***
「――鷹やん。なんで授業みたいなことしてるの?」
部活終わり、キヨがそう聞いてくる。
「ああ――、自分の楽器の音はわかっても、違う楽器のことってあまり分からないもんだろ?だからあえて指摘があるパートではないパートに意見を聞くことで、周りの音を聞く習慣が身に着くんじゃないかなって思ってな」
「なるほどね……急に聞かれる側からするとひやひやもんだけどな」
「ははっ、悪いな。俺が実力不足だから先輩や部員の声を聞くことが大切なんだよ。考えないと上手くならないからな」
「実体験かい?耳が痛い話だ」
新美が耳をかきながら話す。
「さてね。色々やってみて効果が高かったことをメニューに取り組みたいだけかもな」
「指揮してる時に何か付箋みたいの貼ってなかったぁ?」
指揮第から近い位置でフルートを吹いているくらやんからは見えたのか。
「ああ。指摘があったところに付箋を貼るようにしてるんだ。しっかりと直ったら付箋を取る。これを繰り返して付箋がなくなれば演奏が良くなったって一目瞭然だろ。それでつけてるんだ」
「よくまあ、考えるものだね。鷹やんのこれからが楽しみですな」
「精進するんだな」
「何でバトル漫画みたいな台詞を吐かれなきゃいけないんだよ!」
「えへへ」
その後、他の1年も集まって、練習場は軽い会議室状態になっていた。
1年の中で意見を出し合う。いい環境というか、いい雰囲気になってきた……!
大会まで残り1か月。合宿で総仕上げだ――。




