緊急会議
物語が加速度的に進んでいく――。
……はじめからやれよ(笑)
「単刀直入に言う。争覇先生が交通事故にあった」
周りから声にならない音が聞こえる。無理もない……。
俺だってついさっき耳に入った出来事だからな。
争覇先生の電話は、先生の旦那さんだった。
「妻が子供を庇って車に……」
という、なんとも言えない内容だった。
俺と天馬は至急、3年生を部室にくるようにラインではなく電話で連絡を入れた。「とりあえず来てくれ」と伝えて。
「……で、どうなったんだよ」
フルートの石川壮太が小さく零す。
「命に別状はない。旦那さん曰くいつもどうりの元気だそうだ」
全員から安堵の息が漏れる。……しかし、それでは腑に落ちない点がある。それを学指揮の水瓶が聞いてくる。
「――じゃあ、なんで3年を集めたの?」
周りも「たしかに」といわんばかりの表情を浮かべて、天馬の方を見る。
天馬は目頭を強く揉みし抱き、答える。
「……庇った時の衝撃で腕の骨が折れてしまったそうだ。……全治2か月だそうだ……」
「ちょっと!2か月って、それじゃあ――」
「そう、先生は大会で指揮が振れない」
……これが大きな問題点だった。
凱旋には争覇先生以外にも2人の副顧問がいる。しかし、2人とも音楽を知っているわけではない。教師故の何かしらの部活の顧問に就くものだ。
つまり……
「……つまり、争覇先生以外の指揮者を選出して大会に出る。ということか?」
トロンボーンの飯塚琢磨がそう告げる。
その通り、争覇先生以外の指揮者を選び、大会に出る。その為に誰に指揮者をやって貰うかを今決めるために3年生を緊急招集したのだ。
暫くの沈黙……の後、色々と意見が出てくる。
「他の学校の指揮者に頼むとか?」
「OBにお願いするのはどうよ?」
「1か月あれば先生の腕も大分良くなるんじゃないのか?」
だが、天馬は首を横に振る。……俺も同じ考えだ。
「今から指揮者を探すのも大変だし、やってくれる人がいたとしても毎日振ってくれないと合わせる俺達も大変だ。言いたくはないが費用もかかる。先生に無茶はさせられない。俺の方から3年で話し合うと伝えてもらった」
「じゃあ、学指揮の中から指揮者を選ぶって言うの?」
水瓶が真剣な面持ちで聞いてくる。いつもの口調も消えている、真面目な時の証拠だ。
「俺はそうした方がいいと思っている。みんなはどうだ?」
天馬の質問に対し、俺達は「天馬に任せる」と言葉の言い方は違うがそう伝える。
天馬は「いつも悪いな」と頭を下げる。
「今に始まったことじゃない」
俺の一言で周りの空気が少し和む。
「……待って、学指揮は3人いるけれど、誰が振るの?」
水瓶が眉を寄せて俺達に言う。
「……それが俺達を呼んだ真の理由?天馬」
オーボエの関が感情をあまり込めずに聞く。
「そうだ。水瓶・七瀬・鷹谷。この中の1人を、今年の大会で指揮を振ってもらう」
「……私は無理。そんな大舞台で指揮を振れる自信がない。――というか、最後の大会、出来たら吹きたい」
「そうだよな……。岸、七瀬が抜けたらどうだ?」
「3年だけの秘密にしてほしいんだけど、新美くんがいれば何とかだと思う。音の厚みが弱くなるのはしょうがないけど……」
「天馬……こんなことは言いたくないけどさ、七瀬の指揮じゃ厳しくないか?……いや、下手とかそういうんじゃないけどさ、あいつと比べるとさ」
「俺も司ちゃんの意見に賛成だな。あいつの指揮は見ていて分かりやすい。水瓶はどう思う?」
「うん……指揮者の話になった時、彼がやるのが適任だと思った……。ちょっぴり悔しい気もするけれど、私や弥生ちゃんをすでに超えているよ。最近の学指揮考案メニューも彼が考えたものだし」
「天ちゃん。ベースパートからすると、あいつが抜けると結構痛い。……そこで悩んでいるんだろ?もう誰が振るのかは決まっているんじゃないのか?」
「玲ちゃん。……まあな」
「新美くんは中学の時、バリトンをやっていたみたいだから、新美くんがバリトンで……彼が指揮を担当するっていうのは?」
俺達は岸の発言に黙って頷く――。
「天ちゃん……」
「……ああ。その前に1つだけ約束してくれ。仮に――地区大会で終わるようでも、絶対に責任を押し付けるのだけはなしにしよう。――いいか?」
「勿論」
「異議なし」
「かまわない」
「出来る限り協力する」
「……いいんじゃない?」
「同じく」
「右に同じ」
「不謹慎だけどテンション上がってきた」
「天ちゃん、満場一致のようだが?あいつで決定でいいな?」
「――よし!それでは今年の夏のコンクール!指揮者は鷹谷!バリトンを新美にやらせる。いいな――?」
『応!!』




