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ブラバン・B・アンビシャス ~吹奏楽で大志を抱け~   作者: 庭城優静
大会編:ブラバン・B・アンビシャス
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プロのレッスン!

「1年生は初めまして、2・3年生は久しぶり!プロの楽団、シデンウインドオーケストラのサックス奏者、松田龍成だ!よろしく」


 松田先生は笑顔で親指を立てる。なんだが飛びぬけてテンションの高い先生だ。天馬さんに似てる……。

 長めの黒髪にパーマをあてており、もみあげはブロックをいれている。醤油顔によく似あっている。

 ストライプの入ったお洒落なシャツにベストと黒いパンツ。大人の男性の憧れみたいな格好の男性だ。


「今日はよろしくね、松田先生」


「おっ任せ下さいよ、後輩たちをビシバシ指導してやりますよ!」


「今日のレッスンは無料だっけ?」


「ええ?いやいや、それは流石に……なぁ?」


 いやいや、俺達の顔を見られても困る。


「レッスン終わりがたのしみですね~」


 争覇先生は「ふふふ」と不敵に笑って教室を出て行く……。


「あーあ、調子に乗るから~」


 弥生さんが揶揄う。いいのか?相手は年上だし先生だろ?


「うるさいぞ七瀬!お前こそ1年でどれだけ上手くなったか聞かせてもらうからな!」


 ……いいみたいだ。周りも笑っている。フランクな先生のようだ。


「ま、冗談はこのくらいにしてやりましょうかね――」


 眼がキリッと変わっていく。兄貴と同じだ、このスイッチが切り替わる感じ……。

 優しいけれど、謎の威圧感を放っている。これがプロか……。


 松田先生はアルトサックスを取り出す。同じサックスの筈なのに光沢が全然違う気がする。……そして、音もだ……!


 素早く楽器を準備して、音を軽く鳴らす。その軽く鳴らす音が教室内に響く。

 大きな音なのに音割れはせず、部屋を包み込むようなまろやかな高音。

 

 疑いなどしていないけれど、本当にプロなんだなと思ってしまった。それに凱旋のOBってことは、俺のように高校で吹奏楽に出会って、そしてハマってプロにまでなったっていうのか。小説の世界だな……。


「よーし、1人ずつ音を聞いていくぞー」


***

「ストップ。どうしてそこを雑に吹いちゃうんだよー、見せ場だろ?もっと音を聞いてもらえるように吹かなきゃ」


 和やかな雰囲気の中、レッスンが進んでいく。この人の教え方は上手というよりかは、やり易いだ。

 争覇先生は教え方が上手で無駄がないのに対し、松田先生は笑いを合わせながら部員が演奏しやすい空気を作り出すのが上手い。人柄の成せる技というべきか。


「バリトンの君」


「はい」


「うん、いいね。……だが、もっと音色に拘ってもいいかもな。ちょっとバリトンを貸してくれるか」


「はい!お願いします」


 講師の先生が生徒の楽器を吹くのはあまり珍しいことじゃない。衛生的にはあまりよろしくないのは分かっているが、上手な人に吹いてもらうことで自分では気づけていない点などが出てくることがある……と新美から聞いた。


「名前は……鷹谷くんね。去年バリトンだった修善寺さんもそうだったがバリトンのレベルが高くていいねぇ。OBでバリトンを吹いていた人が上手かった所為かね?」


 松田先生はバリトンを構えながらニヤリと笑う。……高校時代、バリトンだったのか。


「ちなみに、楽団でもバリトンを担当しているからな。君は厳しめに指導してやるよ」


 そう言って、俺が出したことの無い響きのある音色でバリトンを鳴らす。……新美、よく上手だと言ってくれるがやっぱり俺はまだまだだな。

 バリトンの音色を聞きながら、俺は微笑を浮かべる。

 悔しくて苦笑いをしているのではない。この楽器でこれだけの音色が出せるということは、俺でも出せれるということだ。相手がプロだろうと関係ない。楽器の所為にしないていい、演奏者の腕次第で俺のバリトンは……もっと輝く――!



***

「お疲れ様~。松田先生、今日はありがとうね」


「いえいえ、可愛い後輩の為ですからね」


「あら嬉しい。じゃあ無料(タダ)でもいいのよね?」


「プロはお金を貰ってなんぼなんで」


 争覇先生と松田先生は昔なじみだそうだ。どうりで仲が良いわけだ。ちなみに、レッスン代は払ったそうだ、当たり前か。


「そうだ、合宿の日って何日ですかね?」


「7月の終わりの予定だけど?」


「よし!予定が空いてる――合宿の日も来ますよ」


 周りから「おお!」と喜びの声が上がる。俺も嬉しい、大会前にプロの意見を聞けて、さらに指導もしてくれる。いいこと尽くめだ。


「ありがとね、松田先生」


「いえいえ。それにしても……今年はいけるかもしれないなですね」


「やっぱりそう思う?私も本腰を入れないとね!」


「えっ!今までよりも……ですか?」


「もちろん!」


 争覇先生の綺麗な笑顔に、松田先生含めて全員が固まる。


「……頑張れよ、お前等」


『はい……』


***

 7月に入り、大会まで1か月をきろうとしていた。

 日曜の午後、自主練に来ていた部員も帰り、部室は俺と部長の天馬の2人だけだ。


「玲ちゃん、今年はいけるかもだよな?東海」


「ああ、今年の1年生は豊作だったな。特に鷹谷」


 鷹谷を学指揮に任命してから基礎練や合奏の質がどんどん良くなっている。水瓶が頑張っているのかと思っていたが、問い詰めたところ「実は鷹谷くんが~……」と聞いた時は呆れてしまった。


「そうだなー。鷹谷も凄いが他のメンバーも良い奴が揃った。今年で引退するのが惜しいような、良いような」


「なにをいってるんだ。引退でいいだろう。俺達は大会に全てを懸けているわけじゃない。俺達の代で東海に行けなくても来年行ってくれれば本望だよ」


「それはそうだけど……って、大会前に来年のこと考えるなよ玲ちゃん。今年はいけるから大丈夫だって」


「……そうだな」


 俺と天ちゃんは顔を合わせて笑う。


『プルルルルルルル』


「天ちゃん、電話」


「おお!だれだ……って争覇先生だ。もしもーし、天馬です」


 争覇先生が天馬に電話?何かあったのか?


「――ええっ!!ほ、本当ですか!?――ええ、はい。――ええ……わかり、ました。またお電話します。はい……失礼します」


 嫌な胸騒ぎがする。これほど動揺した天馬を見るのは初めてかもしれない。顔が一気に白くなり、声に生気がない。他の部員がいなくてよかったかもしれない、こんな天馬は見せられない。

 天馬が変な息づかいで俺の方を見る――。

 この時、何故か天馬の口が開く前に「ドッキリであってくれ」と願っている自分に驚いた。

 

 天馬はゆっくりと口を開き、最悪の言葉を放つ――。


「……争覇先生が事故にあった」

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