ようこそ、吹奏楽部へ!!⑤ 失態その2
お待たせしました!(待ってないです)
まさか、二か月も更新出来ないとは思いませんでした。
色々ありましたが、これからは『毎週更新』を目標にします!
……多分、破ります(笑)
翌日の放課後、俺と新美は吹奏楽部の練習場へ向かっていた。……鞍馬はいない、クラスで用事があるそうだ。
「あんなに一緒に行くのを楽しみにしていたのに……」
「おい!今生の別れみたいに言うな、後で行くって言っていただろ」
まあね。と、新美は軽く笑う。
「そういえば、親には吹部に入るって話したのかい?」
「ああ、驚かれたけどな。てっきり運動部に入部すると思ってたみたいだからな。許可は貰ったから大丈夫だよ。「勿体無い」とは言われたけどな」
「鷹谷君運動神経いいもんね、確か」
「そうか?バスケもバレーもテニスも野球も卓球もセパタクローも人並み程度なんだけどな、俺って」
「ツッコミどころはいくつかあるけど、バレーとセパタクローはくっ付けても良かったんじゃない?」
新美は呆れた表情をしていた。何で呆れているのかはよく分からないけれど……。
「――鷹谷くーーーーん!」
遠くの方から、鞍馬の声が聞こえてきた。急いで来たのか、思ってたよりも早いなと後ろを振り返ると――ガタイの良い生徒にお姫様抱っこされた、涙目の鞍馬の姿が見えた。というか、もの凄い速さで俺達を素通りして行ったのだ。
「……た――くーーん」
あっという間に離れていく鞍馬を見ながら、俺達はその場で立ち尽くしていた。
「……鷹谷君、ドナドナって知ってる?オレの脳内で流れてるんだけど」
「……俺もだ、新美。だが、別につらい場所に連行される訳じゃないからな。多分、デザイン科の視聴覚室――吹奏楽部の練習場行きだろう」
新美がどうして分かるんだ?と怪訝そうな表情をしているが、簡単なことだ。
「あの人、吹部の先輩だろ?面識はないけどドラム叩いてた人だ、俗に言う強制勧誘ってやつだろ?」
「ドナドナ勧誘って感じだけどね。……いや、ドナドナも強制って意味合いがあるから違うな。――神隠しか?」
「隠れてねーよ。人攫いで良くないか?」
それだ。と、新美が人差し指を向けて口角を上げる。それだ、じゃねーよ。
「……人聞きの悪い言い方で納得するな」
背後から低い声で囁かれる。
後ろにいたのは、眼が隠れる程の長い髪をした長身の男子生徒だった。上履きの色からして三年生か。
凱旋高校では、上履きの色で学年の違いを明確化している。青・緑・赤の三色で青が三年で一年は赤である。よって、この人は三年生の生徒だと分かる。……長い。
「吹奏楽部の練習場は授業でも使うから一年生には分かりずらいと思ってな。親切に送迎してるだけだ」
「親切に送迎するんですね」
「……俺達を悪人にするな」
低音声の三年は新美を軽く睨んで肩を竦めた後、フッと笑う。
「……部長の送迎はかなり強引だけどな。お前達はどうする?俺に送迎されるか、自分の足で収容されるか」
「じ、自分の足で行きます」
結局ドナドナじゃないか!と言う思いを飲み込んだ。
「行くぞ、新美」
「まあ、元々行くつもりだったし」
「ああ、そうしてくれ。俺はドナド……勧誘をしているからな」
俺達は低音声の三年に軽く頭を下げて、練習場へと向かう。……ドナドナが流行りそうだ。
低くていい声だったな。と新美が呟きながら、ドナドナを口ずさむ。
「もうドナドナはいいだろ!」
***
練習場に着き、簡単な受付を済ませる。
鞍馬の姿を探すと、もうフルートを吹いていた。俺と眼が合うと笑顔で手を振ってきた。さっきの涙目は何だったんだよ。
俺と新美は昨日と同じ様にサックスを吹かせてもらうつもりだ。
サックスパートを見ると、彩矢さんと弥生さんがサックスを吹く準備をしていた。
昨日は色々と悪い印象を与えてしまったからな。今回からは失礼のないように苗字で呼ぶように徹底しなければ。
「修善寺さん、こんにちはです」
俺はぺこりと頭を下げる。
「え!あ、あーうん、……こんにちは」
彩矢さん、何だか歯切れが悪いな。どうしたのだろうか?おそらく、昨日あれだけ「彩矢さん」と呼んでいたのに急に「修善寺さん」に変えたからだろう。慣れてもらうしかない。
「お!また来たねぇ鷹谷と新美ー、もう吹部に入る気満々かい?」
二ヒヒと笑う弥生さんには「そのつもりです」と笑顔で返す。
「……サックスだけじゃなくて、他の楽器も経験してみてもいいんだよ」
「え?」
彩矢さんの発言で俺は完全に虚をつかれた。
俺の方を見ずに、心の声を溢したような声色が冗談とは言えなかった。
その発言の意図は「入部するなら他の楽器にして欲しい」って事か?……マジか!そ、そんなにも嫌われてしまったのか。
生まれて初めての事態だ、女子に面と向かって嫌われてしまうなんて……。
俺は引きつる顔を遮二無二戻し、声を発する。
「――そうですね。新美、俺他の楽器で体験さしてもらうよ」
「え、何でサックス吹かないの?」
サックスの先輩に嫌われているからだよ。とは、この場では言えないな。帰りに言おう。そして、嫌われていると分かった以上、視界に入らない、接点を持たない様にするか。
結構ショックだが、今日が終わるまでは冷静に表情を崩さずにポーカーフェイスを保て、俺。
「ちょ!鷹谷ー、あんたサックスパート志望じゃないの?あんだけサックス吹けるのに……」
「いやいや、色んな楽器を吹いてみたかったので……じゃあ新美、俺はフルートでも吹いてみるよ」
俺は彩矢さんと眼を合わせることなく、その場を後にする。
***
「――上手いじゃんか。鷹谷君って言ったっけ?七瀬からは「サクパ(サックスパートの略称)に入れるから!手を出すな」なんて言われてたんだけどな。どうだ!フルートパートおすすめだぞ?」
フルートパートの二年生にお褒めの言葉を頂いた。お世辞だと分かってはいるが、今は嬉しい。
「そうだよ鷹谷君!僕よりも上手に吹けちゃうんだもん、教えてよ!」
俺はどうやらフルートもなんとか吹ける様だ、助かった。サックス以外でも何とかやれるな。
「――他の楽器も体験してみたいので、検討してみます」
体験が終わるまではこれでいこう。そう心に留めた。
***
「――修善寺先輩に嫌われた?何をしたのよ」
体験が終わった後の帰り道、新美と鞍馬に今日の出来事を伝えたら、新美に面倒くさそうな顔をされた。そんな顔をすんなよ、泣くぞ?
「俺が聞きたい。サックスの様子はどうだった?」
「先輩二人で何か話していたけど、オレには関係ないと思って聞いてない、サックスを吹くのに夢中だった。今は反省している」
「何でニュースの容疑者コメントみたいな言い方してんだよ。……とりあえず、残り数日は色んな楽器を体験してみてから決めるよ。嫌いな奴と近くで演奏するのは嫌だろうしな、出来るだけ近づかない様にするさ」
重たくなってしまった雰囲気を濁す様に苦笑いを浮かべると、鞍馬が潤んだ瞳でこちらを一瞥する。――何故潤む?
「鷹谷君フルートも凄く上手だったし、修善寺先輩としては他の楽器も体験して、一番ハマったのをやった方がいいって考えたんじゃないのかな?そんな直ぐに嫌わないよ!」
「それは俺も考えたけどな。彩矢さんの声がそうとは言ってない感じがしてな。……冷たい声色をしていたんだ」
「……君がそう感じたんならそうなのかもね。でも、好きな楽器をやればいいとオレは思うけど」
新美はそう言って肩を竦める。言うと思ったけどな。
俺は昔から自分の事よりも相手の事を考えてしまう。
相手が喜ぶ様に動いてきた。
クラブチームの奴等に気持ちよくプレーさせ、ムードを壊さぬ様に努めていた癖の所為かな、これは。
それがチームを上手くまとまる画期的な方法だったし、友好的な関係を気付く手助けだった。――そんな自分が大嫌いだった筈なのに、結局やってしまうのだ。
今回もそうなるのか?――それは嫌だな。しかし、彩矢さんに嫌われる方がよっぽど嫌だと感じる自分がいる。別に、彼女に恋をしている訳ではないんだけどな。
「何を考えているか知らないけど、神経質になり過ぎだよ。修善寺先輩が鷹谷君を嫌いになる理由がない。ただ、他の楽器を勧めただけで、君が曲解したんだよ」
「……新美」
俺が深く悩んでいるように見えたのか、口調はいつも通りだが語気は少し強めだ。
「昨日といい、今日といい、修善寺先輩に気を使い過ぎだよ、そんなタイプなのかい?元気いいな~。全く、君って奴は――」
「――何か良い事でもあった、訳じゃないからな。……そんなんじゃないよ」
新美は肩を竦めせ、軽く微笑む。
「まあいいさ、気楽にやろうよ」
「……だな」
俺と新美は思わず口元を緩める。
新美の言葉で、重かった空気から解放される。……有り難い。たった一言の言葉で気持ちが安らぐ。
これが友情ってやつなのかね?知らないけど。
鞍馬は状況を読み込めていないようで「え?どういうこと?」と首を震わせていたが、俺達は鞍馬の表情を見て笑う。
「な、何で笑うの?」
「いやー、何でだろうね?鷹谷君」
「さあな」
俺達は鞍馬を優しく揶揄いながら帰路に着く。
気の合った奴と居れないことが一番嫌だな。他人の眼よりも友人の気持ちをもっと酌もう。
体験入部中、俺がサックスの体験をする事は無かった。彩矢さんとも眼を合わせずにやり通す。――そして、本入部の日へと時間は進む……。
キャラクターの紹介がどこかでまとめてやりたいですね。
後、主人公の性格……自分を投影しているかの様な錯覚が……気のせいだと思いたいです。