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ブラバン・B・アンビシャス ~吹奏楽で大志を抱け~   作者: 庭城優静
大会編:ブラバン・B・アンビシャス
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夏に向けてのレッスンの開始

「楽器別レッスン?」


「そう、楽器別レッスン」


 俺の問いかけにオウム返しをする彩矢さん。

 話はほんの数分前に戻る。


 平日の部活動終了後、天馬さんの口から「大会が近づいてきたので楽器別のレッスンをやります」と連絡があったのだ。


「争覇先生がパート練習を指導するの。他にもレッスンの先生を学校に呼んでレッスンをすることもあるんだ」


「へー、楽器講習会のような感じですかね?」


「そうそう。基礎から演奏曲まで見て貰えるの。基礎が出来ていないと基礎練だけで終わってしまうこともあるから、しっかりとね」


 俺は黙って頷く。それはかなり気合を入れないといけないな。

 折角来てもらって、基礎をもう一度見直しとかで終わってしまったら、時間がもったいない。まあ、基礎をキチンと見直すのはいいことだけれど、出来るなら時間いっぱいまで大会の曲練習を見て貰いたいところだ。

 

 そのために学指揮としてやれることはやってきたのだ。大事な時間を、毎日の練習で対応できていない所為で消費したくない。

 限られた時間をより活用できるところが上にいくのだから……。


***

 あくる日、サックスパートのレッスンが始まる。

 空いている教室を整理し、先生用の椅子と対面するように椅子を配置する。これは楽器講習会と同じだ。

 先生の楽譜を置く机、横には音程や音の確認をするためのキーボード――ハーモニーディレクターと呼ばれるものを準備する。


 レッスンが出来る状態を見計らったように、争覇先生が笑顔で教室に入ってくる。


「――準備は出来ましたか~?」


「だ、大丈夫です」


 パートリーダーの徹さんは緊張した声で返す。

 無理もない、これからのレッスンは今までで一番大変なのだろうから……。


「そうですか、それじゃあ……」


 先生は椅子に腰かけ、机に置かれている指揮棒を握る!


「レッスンを開始する――!」


 全員の顔が緊迫していく。今までは大勢……といっても小編成なので35人くらいの部員相手の指揮ではあるが、今日は5人……。


 弥生さんがレッスン前に零した冗談がふと頭をよぎる。


「……死者がでなければいいけれど……」


 もしかしたら冗談ではないのかもしれない……。


***

「――以上だ。もう少し努力するように」


『……ありがとうございました』


 先生が教室を出ると同時に肩の力を落とす。


「……みんな、生きてるー……?」


 図書館で会話をするかのような小さな声で弥生さんが生存確認をする。


「……なんとか」


「大丈夫です」


「七瀬先輩、岸先輩が……」


 新美は眼を瞑り首を横に振る……おいおい、やめろよ。……たしかに、燃え尽きて真っ白になっているけれどな。


「あー……堪えるね」


 岸先輩の言う通り、ボロボロになるくらいの指摘の嵐だった。

 争覇先生は、普段は音程のことはほとんど言わない。音程よりも大きな音で自信を持って吹いてもらいたいという考えがあってのことだ。

 合奏で音程、ピッチとそこの注意をされると音程ばかりに力が入り、逆に合わなくなる。実体験だからそう思っているだけだが。

 今回は違う。1音1音、音程から音色、音の出だし、終わりの処理を事細かく指示を出すのだ。

 怒らないし、大声も出したりはしない。淡々と鋭い眼光を向けながら指摘をするのだ。そういったところはとても大切なのだが、ただ単に怖い、それに尽きる。


「今回はプラス思考の君でも黙ってしまうんだね」


「……まあな。基礎練での内容だけでは処理しきれていない部分が多すぎる。パート練習にも力を入れなければいけないな」


 俺は髪を弄りながら、今日言われた指摘箇所をメモし直す。


「……やっぱりプラス思考だね」


 教室のドアをノックされる――玲哉さんだ。


「お疲れさま。……まあ、そうなるよな」


 玲哉さんは俺達の顔色を見て苦笑いをする。


「お疲れのところ悪いが急いで楽器を片付けてくれないか?もう時間は8時になるところだ」


 俺は腕時計で再確認をする。――本当だ、8時15分前……。4時から開始したから、約4時間もレッスンしていたのか。どうりで身体が疲れているわけだ。

 いつもこれくらいの集中が続けば上手くなるのだけどな……身体というよりも精神を鍛えないとな。


「楽器を片付けながらでいいから聞いてくれ、連絡事項だ。――まず鷹谷は2日後のベースパートのレッスンにも参加してもらう。それから夏休み前に木管レッスンが入った」


 ベースパートにも参加するのも驚いたが、木管全体でのレッスンもあるのか。


「講師は松田龍成先生……プロの吹奏楽団【シデンウインドオーケストラ】のサックス奏者だそうだ」


「プロ……」


 俺はその言葉に強く反応する。兄貴と同じ、プロの選手――いや、奏者か。一体、どんな人なのだろうか――!?



「ああ、毎年来てくれる凱旋(うち)OB(卒業生)の人だっけ?」


「うん、年齢も若くて優しいよね」


「あの人に励まされた時には泣きそうになったよ」


「そうだな、全体レッスンでも世話になっているからな。……争覇先生のレッスンに比べれば可愛いものだ。だが、手は抜くなよ?」


 あれ?みんな知っているのか……俺の期待を返してくれ。


「ああー、……なんかパリっとして、とろっとした感じですよね~」


「新美――それとなく会話に入るな!たこ焼きだろ、それ」


「わかんないじゃないか、本当にそうかもよ?」


「そんな話があるわけ…………」

***

「おいーす!やってるか?可愛い弟子達よ」


 数週間後。パリッとして、とろっとした雰囲気の男性――松田龍成先生が現れたのだった……。

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