百聞は一見に如かず
体育祭や行事、テストなどを終えて、いよいよ意識が大会一本に変わっていく。
もう少しで2か月を切るところ……ここからが正念場だ。
普段はあまりやる気がない部員も、きちんと練習に意欲的に取り組んでくれている。練習内容を厳しめにしても大丈夫かもしれないな。いや、厳しくするよりも効果的な方法を取るべきだ。あれをやろう……。
「沙耶さん、弥生さん。少し相談が――」
***
また合奏に新たな練習法が発表された。
指揮台の隣に机が置かれており、その上に録音機械が設置されるようになった。
「動画部から使わなくなったICレコーダーを貰った。これで毎日合奏の音を録音していく。そこで気になった点や課題を見つけ出し合奏の質を上げていく」
天馬さんは力強く説明をする。
うん、良い案だと思う。私は黙って頷く。
自分達の音を聞くことで、どんな風に演奏しているのか、どこが上手に演奏出来ているのか、どれくらい成長しているのかを記録として保存する……。
とっても大事なことなのに、いままで考えたことがなかった。
私は自分の未熟さを痛感する。
「とってもいい提案ですね~。費用を大幅にカットしているところもポイントが高いですね」
指揮棒を持っていない優しい争覇先生は、にっこりと笑い小さく手拍子を入れる。
「では早速一回通してみて、自分達の演奏を見返しましょう。きっと浮き彫りになるはずです、どこを直すべきか、何をするべきか。――さあ、楽器を構えなさい……!」
『は、はい!!』
争覇先生はいつの間にか指揮棒を握って、ハイパーモードになっていた。
相変わらずのギャップに狼狽えながらも、大きな返事で返す――。
***
「トランペットはDからのメロディーラインを――」
「ベースラインはもっと音が欲しいな。だが、決してテンポを乱さずにだ」
「パーカス!もっとクレッシェンドを強く!」
いい傾向だ。作戦成功だな。
天馬さんに録音機器を手配してもらい、学指揮で録音した内容を元に指示を出す。
指示を出すだけではなく、お互いに意見を出し合う。これが大事だ。
自分の楽器の音は分かるが、他人の楽器の音の良し悪しは分かりずらいもの……。ましてや、俺含めてほとんどが吹奏楽未経験者達の集まりだ。
自分の楽器だけじゃなく、周りの音を聞いて、意見を出すことで見聞が広がる。
俺は意見を出し合っている間に入り、激しくならないようにバランスを見て舵を取る。
みんなのモチベーションが上がっているのは、成長の度合いが分かるようになったからだろう。
少し前は全然ダメだったけれど、今日録音した音を聞いてみると良くなっているのが部員全員が分かる。
……よし、俺も頑張るかな!
「鷹谷、今のところ音が雑じゃないか?」
「大志くん、ここはもう少し音量を落として周りの音を……」
……よーし!頑張るからな……!




