閑話:いまだからこそ――
『定期演奏会お疲れ様ですー』
「どうも、ありがとー!」
双蘭高校の定期演奏会の翌日のこと、茉凛ちゃんの家に無理やり呼び出された俺と兄貴は、いつものように茉凛ちゃんに労いの言葉を贈る。
今回のような出来事は小学校からやっている。
大きなイベントが終わる度に家に呼ばれて「祝って!」、「褒めて!」と矢継ぎ早に要求が飛んでくるのだ。もう慣れたものだ。
「はあ~、まだ大会が残っているけれど、少し肩の荷が下りた感じ」
茉凛ちゃんは肩を軽く回し、俺をチラチラと見てくる。
「はいはい」
俺は茉凛ちゃんの後ろに周り、肩のマッサージを始める。
「流石、大志-。ああ~気持ちいい」
「それはようございますね」
俺は感情を込めずにそう言う。
その様子を見ていた兄貴が微笑を浮かべる、手伝えよな……。
「そうだ、大志の定期演奏会はいつ頃なんだ?」
「え?何でそんなこと聞くんだよ?」
「考えろよ」
「……分かっていて言ってるんだよ。来ないでくれよ」
「大丈夫、絶対に行くからね!」
「……秋頃やるらしいよ。凱旋は他校と違って、少し遅いみたい」
「うむ……。凱旋は就職に強い工業高校だからな。就職試験が終わった秋頃にやるのはベストな判断だろうな」
「ああー、そういえば凱旋の定演って行ったことなかったんだよね。どんな感じなの?DVD見た?」
「DVD?そんなものがあるのか」
「うん、記念に作る高校って結構いると思う。双蘭のもあるよ?恥ずかしくて見せてないだけで」
「後で見せてくれるのかな?」
兄貴はそう言って茉凛ちゃんの髪を優しく撫でる。おいおい、帰っていいか?
「……今度ね」
顔を赤くしちゃって……本当に帰っていいか?俺の家向かいだけど……。
「で!大志のところは作ってるの?」
「あるよ……相当凄いのがね」
「大志が相当って言うってことは……」
「興味深いな」
「俺が定演に出たら見せるよ。部長の話じゃあれよりももっと凄くなるみたいだからね」
定演は天馬さんが吹部に入ってから徐々にレベルが変わっていったそうだ。動画部との連携を強めているし、天馬さん達が3年になったことで遠慮なく好きなことが出来る……。今年の定演は荒れるだろうな、いい意味で。
「気になるー!大志、今すぐ見たい!」
「まあまあ、大志が出ている定演の映像の方が興味深い。大人しく待とうじゃないか。それよりも2人とも……」
「ん?」
「なによ、翔」
「今は目先のことに集中することだな」
「分かってるわよ、羽目を外すのは今日だけよ。ね、大志」
「まあね。兄貴こそ、学校生活も大事だけどプロの方もしっかりやれよな?俺が言えることじゃないけれど、甘い世界じゃないだろ?」
「ああ、問題ない。これから高校は夏休みに入る。そろそろ本腰を入れていく。霞まない様にお互い頑張れよ」
『絶対に霞むわ!!』
兄貴が本気を出す――。頼もしくもあり、恐ろしくもある。
遠回しだけど、兄貴なりの発破のかけ方……。当然、俺も茉凛ちゃんも分かっている。既に全員の眼が宴会ムードから本番の目付きに変わっている。
「身体がたぎってきたな……、久しぶりにバスケでもするか?」
「さんせーい!でも、あんたら兄弟は手加減すること!」
「分かっているよ。そろそろ兄貴にも勝ちたいところだしな……!」
「ふっ、いいだろう」
***
いつものように、昔から変わらない。急に呼び出されて、祝って、身体を動かして茉凛ちゃんが駄々をコネて終わる……。
いつもやっている筈なのに、新鮮でどこかしんみりとしてしまう感情があることに気が付いた。
いつまでも出来るとは限らない――これから兄貴はプロとして手の届かない存在になるし、茉凛ちゃんも大学によってはあまり会えない可能性が高い。
いつまでも、いつものようにとは行かない。それは全てにおいてそうだ。
だからこそ、今を楽しもう――。




