閑話?茉凛ちゃん(双蘭高校)の定期演奏会その②彩矢編
「大志はどうですか?」
大志くんのお兄さんの翔さんは、優しい笑顔でそう問いかけてくる。……カッコいい人だな。
背は大志くんよりも高い、177くらいかな?副部長の須藤先輩と同じ背丈だけど、体格は全然違う。着痩せする体形なのかガタイが凄いがっしりしている感じではないけれど、筋骨隆々なのは間違いない。何せプロのスポーツ選手なのだから……。
「……どうされました?」
「えっ!ああ、すいません」
お兄さんの体形を凝視していて話のバトンを返していなかった。
「いえ、こちらこそ。質問が抽象的過ぎました、大志は役に立っていると思っていますが、実際どうなのか聞きたくて」
翔さんは鷹の様な眼でこちらを見てくる。大志くんよりも短い髪を上げている所為か躍動感が増して本物の鷹のようだ。
「お兄さん、そこは役に立ってるか?じゃないんですか~」
私はまどかの発言に頷いて同意はしなかったが、眼で同じくと伝える。
「ああ、そうですね。普通は。まあ、大志なら卒なくこなしていると思ったので。お役には立っていないですか?」
「いえいえ!凄いです」
「彩矢ー、テンパり過ぎやぁ」
「ありがとうございます、それが聞けてホッとしました」
「仲が良いんですねぇ、兄弟のことをそんな心配出来るなんて」
たしかに。躊躇いなく「役に立っている」前提で話を進めるあたり、失礼だけど普通の兄弟ではないと思った。
「大抵のことは心配いらないんですけどね、今回は僕自身ももしやってみたら上手く出来るか心配なジャンルといいますか。双蘭の吹部の部長の話によると「上手すぎて腹が立つ」と聞いていたので、後は馴染めているのかが気になったんです。役に立っていると聞いたのは周りからの信頼度を図る指針です。彩矢さんとまどかさんの反応を見るに大丈夫そうですね」
ああ……こういうところもそっくりだ。もの凄い観察眼と頭をフルに回転させている感じ。
「あれ?私達の名前をいつ知ったんですか?」
「あ、たしかに……彩矢のことはさっき私が言いましたけど、私の名前は言いましたっけぇ?」
「ああ、そこの受付で差し入れを渡す時にメッセージカードを付けてますよね。僕が出した時に『凱旋工業』と書かれたカードがありました。彩矢さんとまどかさんだとそこで分かったんです。まどかさんが彩矢さんの名前を呼んだので、貴方がまどかさんなのだな。と判断しただけです」
「よく見てますねぇ……」
デジャブだ。初めて大志くんに会った時と同じ流れだ。
簡単に言うけれど、よくまあ見ているものだ。
「大志に比べたらまだまだなんですけどね。ああ、長々と話してしまってすいません。いい席が取れなくなってしまうので列に並びましょうか」
翔さんはぺこりと一礼して、その場を後にする。
「……なあ、彩矢」
「……ん?」
「何なん?あの兄弟」
「私が聞きたいよ」
「カッコ良くて、腰が低くて、優しいって反則やん」
「ま、まあ。そうだね……あの人彼女いるからね」
「言わんでも分かるよ、居ない方が可笑しいし、私じゃ無理。一緒に並びたくないなぁ。あ、列じゃなくて恋人としてね」
まどかは苦い顔をしながらたははと薄く笑う。
「とりあえず並ぼうか?」
「そうね~、あ、そういえば鷹やんのお兄さんが言ってた「良かったな」って何なんやろね?」
「あー……なんだろね」
私は何となく分かってしまった。というか、この間、公園に呼び出してあれだけ聞いといて分からないというのは失礼過ぎる……お兄さんも心配してたんだな。サッカーを辞めたことに……。
***
「双蘭はやっぱり上手いなぁ、夏もいい結果出そうやね」
「うん、そうだね」
「凱旋の定演と毛色が違うのが面白いよねぇ、まあ凱旋が可笑しいんやけどな」
「はは……言えてる」
凱旋の定演は他とは違う。お蔭で他の高校の定演をより一層楽しめるのだが……凱旋の定演も十分楽しいから音楽は置くが深い。
それにしても、茉凛さんはやっぱり凄い。上手だし他の部員もレベルが高い。
演奏面だけじゃない、3年生の引退のあいさつも丁寧で堂々としている。後輩たちからすれば、こんなにも頼りになる先輩がいなくなるのはきついだろうな。
茉凛さん達3年生よりも、後ろにいる後輩たちが涙ぐんでいる。
「双蘭には全国行って欲しいね」
「そうね。そのためにはあそこと戦う必要があるんだよね~」
「……浜松聖錬高校」
全国に何回も出場している浜松――いや、静岡№1の高校。
「勝つ必要はないんだけどね、聖錬と同じレベルにいないと厳しいかもだよねー。何せ他校の聖錬レベルの高校が集まるんだから、私達が目指している東海大会は」
「そうだね……」
分かっている。全国への厳しさと言うのは――。中学時代に味わっているから余計に……。
それでも言って欲しいと思う。私達に全国がないからか、尊敬している先輩の高校だから……かは分からないけれど。
***
演奏終了後、ホール出口に双蘭の部員が並んであいさつをしている。
「――あ!彩矢ちゃん、来てくれたんだ!ありがとうね」
「凄く良かったです」
「ありがとねー。いつかゆっくりと話せる時があったら、話そう?」
「是非是非!」
「うん、それじゃあね!今日はありがとう」
あまり部員と長話していると後ろのお客さんに失礼だから、あまり会話が出来なかった。
いつかゆっくりと話したいな……。
***
後日、大志くんから「茉凛ちゃんからです」と連絡先が書いてあるメモを貰った。流石、茉凛さん。
私は嬉しくてふふふと笑みを零す。
「……」
「ん?どうしたの大志くん」
「いえ、その……何でもないです」
大志くんは逃げるように練習場から去っていく。……?どうしたのだろう、大志くんらしくない。
「彩矢―」
「ん、弥生どうしたの?」
「こっちの台詞。あんた色気出し過ぎ」
「へ……?色気」
「何かいいことあったか知らないけれど、そんな可愛く笑われると男どもはイチコロだから気を付けなさいよね、前科持ち」
そ、そんなつもりはなかったんだけど!?
……あれ?じゃあ、さっきの大志くんの行動って……まさかね。
いつも間にか、大志くん呼びが定着していたけれど……まあ、いっか。




