中日吹編③能ある鷹は爪を隠しながら策を練る
練習が本格的になってきた。
争覇先生からの細かい指摘を受け、パート練、個人練で直す。また指摘を受ける、または直せていないと注意を受ける。それの繰り返し。
その日の合奏レベルで2曲やれる時もあれば、1曲目の課題曲で合奏が終了する時もあったが、カンタベリーコラールだけは必ずやる。演奏時間が6分を少し超える曲なので時間を食ってしまうが、この間から始めた新しい基礎練を鍛える為には欠かせないし、継続的にやることが上達のコツだ。
「ストップ……。今やっている曲はマーチ、行進曲よ。一定のテンポキープは当たり前、私が言いたいのは裏拍を感じて演奏しなさいということ。そうすれば音に変化が訪れる。まずはそそこから。それとブレスの意識が無くなっていないか?基礎練の意味を忘れない様に。それから――……」
先生の指導は止まらない。
俺はあらかじめコピーしておいた総譜に先生の指摘事項をメモっていく。
俺には先生や先輩のような音感の耳をもっていない。今出来ることは指摘事項をまとめ、基礎練習に上手く取り組めないか、演奏の違和感……つまりは吹けていない箇所を見つける耳を鍛えることくらい。
今はそれでいい。大事なのは考えることだ。
自分なりでいい、少しくらい間違ってもいい。
時間を有効に使え。自分に言い聞かせる。
***
部活終了後、俺は出来る限り部員と会話をするようにしている。
一言で良い。相手に自分のことを認識してもらえればいいのだ。
これも自分の行動範囲を増やすためだ。指示を快く引き受けて貰うためには多少の信頼関係がないと上手くいかないもの。
力を入れている部員には部活の話を、あまりやる気がない人達とは雑談をする。
己を知ってもらい、「まあ、やってやるか」と思って貰えれば有り難い。
1年のペーペーの言うことを真摯に対応してくれる人の方が少ないのだ。
卑しい考えだが、どうすれば簡単に誘導できるか。と思ってしまう。上級生になると基礎練を慣らしてしまう癖がある。それでは駄目だ。このバンドはもっと伸びる。しかし、強要はよくない。皆が皆、本気で取り組んでいるわけではないからだ。
楽しくやりたいだけ――。そう思っている部員は少なくないだろう。俺だってその内の1人である。しかし、メリハリが大事だ。今は大会、真面目に取り組むから面白いのだ。
「随分と力が入っているね、鷹谷くん」
「まあな、学指揮になった以上生半可な態度じゃ失礼だからな。何度も言っているが基礎を集中出来、夏の大会に効果がを出すには今からやらないとな。また1つ、新しい基礎練を思いついたところだ」
「やっぱり君の案だったか……面倒な練習ほどまとまってやった方が効果は出やすいからね。なるべくきつくない様に頼むよ」
「分かっている。今はな……」
「嫌がっていた割には適任なんだよなぁ、君って……」




