後輩の本音
「……サッカーが楽しいと感じなくなったからですかね」
鷹谷くんは私の問いかけに対して、少し口ごもるがゆっくりと話してくれた。
私の急な質問に対してもすぐに応対してくれる気遣いが嬉しい。
素直な心境を語ってくれるのは、茉凛さんからおおよそのことを聞いたと判断したからだろう。
「自分ではあまり言いたくないことですけれど、サッカーのレベルは高かった方だと自負しています。クラブチームでスタメンでしたし。ですけど、高校でも通用出来るとは思えなかった。兄貴の存在が大きかったからというのも否めないですけれどね……。兄貴の様になれなくてもサッカーは出来ますし、高校の推薦を貰うことも出来ました。けれど、やる気が出なかった――というより、気が付いたんです」
「気が付いた――?」
鷹谷君は私の問いにゆっくりと頷く。
「はい。僕はサッカー――スポーツ事態が好きじゃないってことが。たとえサッカーや他の競技が他の人よりも出来たとしても、楽しむことが出来ないんです」
「それは何故――?」
「僕は人一倍周りが見れるほうです。それはスポーツではかなりの利点だと思います。チームプレイを重視する球技において周りの状態を瞬時に感じ、プレーに移せるのですから。ですが、僕は周りの感情まで感じ取ってしまう癖があります。それが良くないんですよ……クラブチームに所属していた時、周りは「自分こそが1番だ」なんて思ってプレーをしている人が多かった。まあ、上手なのは認めているんですが、だからと言って傲慢な態度をしていいか、仲間のミスを激しく叱るのはどうかと思うんですよ」
「要するにみんな偉そうってこと?自分勝手が多いとかそういう……」
「ええ……、それはとても。そんな環境化でやってきた所為か、チームメイトが不満をもらさないようなサッカーをするようになっていきました。シュートしやすいパス、パスミスをしないプレー、円滑なコミュニケーション……。サッカーをやっているはずなのに、やっていることは相手の顔色を窺うことばかり。周りからは評価は高かったですけれど、自分のしたいことは出来なかった……」
「……なら、鷹谷くんがしたいサッカーって?自分も同じ様な態度で接してもいいんじゃないの?」
「……役割というのがありますからね。僕は人前で目立つのは好きじゃないので、プレイスタイル自体は理に適っていると思ってます……。僕がやりたかったのは勝ち負け関係なくチームメイトと笑いあえる仲間が欲しかった……。授業や遊びでやるスポーツは勝ち負けはそこまで関係ないから面白い。あれが理想ですけれど現実的に真剣にスポーツをやるとそんな甘えは通用しない。真剣になればなるほどサッカーが楽しくなくなるんです。真剣勝負の末に勝利して喜び合うのは分かるんですけれど、勝つまでの過程が辛い……、そんなところですかね?」
鷹谷くんは重い息をゆっくりと吐き出す。と同時に、やはり私と同じタイプなのだと再確認する。
人の視線、評価が気になって思い切ってやることが出来ない歯がゆさ。
上手だからこそ、引くに引けない感情……。
「逃げたと思われても構いません。実際に逃げた訳ですから。でも、逃げて良かった。と今は思っています。吹奏楽が楽しいから」
「うん……」
同感だ。私もそうだった、弓道からみんなの期待から逃げる様に、弥生に誘われるまま吹奏楽に入り、とても充実している。
「吹奏楽だって大会があって、そこには勝ち負けが必ず発生します。でも、それだけじゃない。勝負だけが吹奏楽じゃない、楽しむことが出来る。それをみんなで出来る。出れない人がいない、文字通り全員で参加出来る……。自分達が頑張った分返ってくる――敵が自分自身なのが気に入ってるんです」
「――――!!」
鷹谷君は照れ隠しをするように微笑を浮かべる。
茉凛さんの言った通りだ――。戦う相手はいつも自分……、鷹谷くんには合っているんだな、吹奏楽。
「……こんなところでいいですかね?」
薄暗がりの公園でも分かるくらい鷹谷くんの頬が赤い。
普段見せない素顔が見えて少し可愛い。
「うん、ありがとう!モヤモヤが消えたよ」
「それは良かったです……が、僕の恥ずかしい語りはなんで必要だったんですか?彩矢さんが真面目に聞いてきたので真摯に対応したんですけれど……」
「あーー、ごめん、本当に興味本位なんだ」
私は小さく合掌のポーズをして謝る。
「――そういうことにしておきます」
鷹谷君は溜息を一つ零し、優しく微笑む。
おそらく、私の事情もある程度予想がついているんだろうな……。言いたくなさそうだから、深くは聞かない様にしてくれている。
口にしない気遣いが有り難い――。
「また今度ね……」
「はい」
小さく零した本音を優しく包み込むように返事が返ってくる。
「――ところで、今日の話した内容は2人の秘密にしてもらいたいのですが」
「勿論!誰にも言わない。本当にありがとう、急な質問なのにしっかりと返してくれて!」
「――じゃあ、この後の始末をお願いしてもいいですか?」
「この後の始末?」
なんのことだろうか……?
「周りに野次馬がたくさんいますからね」
「えっ――!!」
私は慌てて辺りを見渡すと、GWOのメンバーがちらほら……。
「あうう……どうしよう?」
「――失礼ですけれど僕が彩矢さんに説教されていた。とでも理由ずけすればいいかと……他校の女子と仲良くなるのはいいけれど練習に身が入っていない。とか?」
「そ、そうする。本当にごめんね大志くん」
「……い、いえ。大丈夫です。それじゃあ今日はここで――」
鷹谷君は慌てた様子で頭を下げて、公園を後にした。
珍しく動揺が顔に出ていたな、どうしたのかな――あれ?今私、鷹谷くんのことなんて呼んだ?
「――大志くん」
ああ!!つ、つい。茉凛さんのがうつっただけだから!
そう自分に言い聞かる。
でも、大志くんって呼んでも別にかまわないよね?
私は赤くなった頬を手で冷やしながら、公園を後に……出来なかった。
「あーやちゃん!2人でなにを話していたのかな~」
満面の笑みで弥生とフルート2年の凛が私の前に現れた!……隠れていたって言ったほうが正しいか。
私が解放されるまで、かなりの時間を有するのは言うまでもなかった――。




