次のステージへ……
「いただきまーす!」
くらやんの声が教室に響く。
お昼休みになり、凱旋で固まって昼食を取っていた。
場所は空いている教室。
午前のレッスンが終わってすぐに茉凛ちゃんが「一緒にご飯食べよ」と言ってきたので、「凱旋のみんなと食べるから食事する場所ない?」と軽くスルーしてこの教室を得たのだった。
茉凛ちゃんは「冷たいな~」と口を尖らせながらもこの教室の使用許可をくれたのだ、流石は部長といったところ。
「――で、どうだった鷹谷くん、他校のレベルは。顔とかスタイルの話じゃないからね?」
「わかっているよ……!そうだな、みんなしっかりと吹けていたな。俺もそこまで酷くはなかったみたいで安心したよ。周りの女子も優しかったしな」
講習はかなり楽しかった。基礎からしっかりと教えて貰えたし、悪いところを具体的に指導してくれる。休憩時間も他校の生徒と仲良く話し合いが出来たと思う。
それよりも、比べるのは失礼だと思うが、他校のアルトを聞いていると新美の上手さが際立つ。
他の人が少しとちってしまうフレーズも、新美はすんなりと普段の練習で吹いていたからだ。
「一様これでも中学からサックスをやっているからね。そんな差はないさ。それこそ、鷹谷くんのレベルと対等に吹ける1年が居る方がびっくりだけどね」
「おだてても何も出ないし、自分が上手だとは思えないね。もっと精進するさ」
俺はそっとお弁当のウインナーを一本、新美のお弁当の上に乗せる。
「ボクも頑張るよ!……あと、周りの女子の人達がボクを見て可愛いって連呼するんだよ!何でだと思う!?」
くらやんがフンと鼻を鳴らして怒る。
『なんでだろうねー』
俺達は一斉に口を開く。謎のコンビネーションである。
「しっかしまー、鷹谷。お前の知り合いの部長さん、美人だよなー、スタイルも良いし、背も高い。なんだありゃ?てか、お前らは」
佑都は笑いながら俺と茉凛ちゃんをいじる。凱旋女子2人も首を縦に振って同感している。
「俺はともかく、茉凛ちゃんは美人だよな。そこは同意だけど、長年の付き合いの俺からするとただのお節介焼きのお姉ちゃんって感じだからなぁ」
なんだありゃ?と言われても、あれが鷲峰茉凛だ。としか言えない。
「……鷹谷って過小評価が過ぎるよな。あと主人公特性が高すぎる」
佑都の呆れた声に同意するように『たしかに』と周りがユニゾンをする。……なんだよ!それは。
***
「凄くいいですよ鷹谷くん!中学もサックスをやっていたの?」
「いえ、運動系の活動を主に……」
午後の部になり、サックス講師の浅見先生からお褒めの言葉を頂く。お世辞だと言うのは、言われなくても分かっている。自分が納得出来ていないのだから。
「……上手だよね鷹谷くん」
隣にいる同じバリトンサックスを吹いている双蘭高校のブレザーを着ている1年生縣 楊果が小さく囁くような声色で話しかけてきた。
「そんな、全然だよ。楊果さんのブレスコントロールには敵わないよ、勉強になるよホント」
楊果さんは長い黒髪をイジリ「そんなことないよぉ」と照れながら綺麗で艶のある声で反応する。
「……鷹谷くん、同じバリトン同士がんばろうね」
「うん、もちろん」
照れながらそう言う楊果さんに俺は笑顔で返す。
「そこー!いちゃつかない。演奏曲の準備に入りますよ」
浅見先生は微笑しながら手を2回叩く。
『はい……!』
演奏曲『サタデーナイト』一度は聞いたことのある曲だ。BGMなんかで使われることが多いのか分からないが、どこかの場面で聞いたことがあるのだろう。楽譜を見ても曲のイメージがつかなかったが、先生の模範演奏で「ああー」となった。
この曲を完璧に――とはいかないだろうから、出来る範囲でやるしかない。
先生、周り、盗めるところは盗ませてもらう。
俺は眼を光らせて練習に臨む。
「……鷹谷くん、眼が怖いよー!楽しい曲なんだからもっと楽しそうに!」
「あ……すいません」
***
「――以上で楽器講習会を終了します!ご参加してくださった皆さんお疲れ様でした!この後は……」
双蘭の第二体育館での演奏を終え、指揮を執った双蘭高校の顧問の先生の締めの挨拶で楽器講習会はおひらきとなった。
その後、凱旋は少し離れたところに集まり、パートリーダーの佑都が口を開く。
「――楽器の積み込み完了ー!お疲れさまー!!」
『うえーーい!!』
「解散!……と言いたいところだけど学校に戻って楽器の搬出をして、部長の連絡事項を聞いて終了らしいんで、もうひと頑張り!……ってことで、各自学校に戻る様に!!」
『応!!』
ぞろぞろと身支度を整えて、校門を出ようとした時だった。
「大志!!」
小走りで茉凛ちゃんが俺に近づいてくる。
「どうしたの?」
「吹奏楽、楽しいでしょ?」
何を言い出すかと思えば、やはり心配性で世話好きなお姉ちゃんのような内容だった。
「……うん、楽しいよ。まだ始めたばっかりだけどね」
「そっか。ねえ大志!一緒に帰る?」
「いや、学校に戻らないといけないから。また今度ね」
「そ。――それじゃあ、また今度ね!!」
手を振りながら小走りで校舎に戻っていった。
「まったく……。俺達も学校に戻ろうぜ新美」
「君、恋愛ゲームに出てた?」
「出てねーよ!
「ちなみに、他校の部員と連絡先交換した?」
「ん?まあ、10人くらいとは……それが?」
「……いや、何でもないよ色男くん」
なんなんだよ、一体……?
***
「おーう、お疲れー!!しごかれたか?」
学校に戻ると、丁度部長の連絡事項の時間になっていた。
俺達1年は急いで椅子に座る。
『…………』
なんだ……?空気が少し重たい気がする。まるでこれから大事な試合をする前のような空気がする……。
「――よし!全員集まったな。来週の土曜日に行われる合同演奏会の楽譜と……来月の頭に行われる中部日本吹奏楽コンクール、通称”中日吹”で演奏する課題曲と自由曲の楽譜を配る――!」
重たい理由はこれか……。
いよいよ、吹奏楽の本番に入っていくのだ……!




