プロムナードコンサート バックステージ
やっと初めての演奏会が終わりました。
次は大会……の前に閑話やちょっとした行事に参加です。
プロムナードコンサート当日、俺達の演奏は午後2時からだから午前にリハーサルを済ませ、早めの昼食を取って、本番だ。
「――で、なんでビデオカメラまわしてるんですか」
3年オーボエの関保仁さんは俺にカメラを向ける。
「少し前に言ったよね、アルバム係だって。その素材集めだよ」
「それは聞きましたけど、なんでインタビューっぽい感じなんですか?俺1人でカメラを独占してますけど」
「ほら、バンドの舞台裏とか直前インタビューみたいのってDVDの特典に入ってるでしょう?あれを天馬がやりたいって言ってね」
また部長である天馬さんのアイディアか。悪くないけど急に腕を掴んでカメラをまわすのは止めて欲しい、ビックリするから。
周りを見ると、他にもインタビューを受けている部員がいる。様子を見ると、さらがらプロのアーティストみたいだ。
「ほら、後がつかえるから」
「はい。……そうだなー、初めての人前での演奏なので若干緊張しておりますが楽しみたいと思います」
最後に軽く笑顔をカメラに向けると、関さんは黙って親指を立てて他の部員の所に行く。……やっぱり、他の部員もビックリしてるじゃないか、一言言わないと……。
「た、鷹谷くーーん!!」
「うわっ!どうした鞍馬!?」
鞍馬が泣きそうな声で俺にしがみついてきた!――どうした?って言ったけど、理由は分かっている。
鞍馬はポケモントレーナーの仮装をさせられているのだ。それも女性トレーナー。
「似合っているのに~」
3年ホルンで学生指揮者の沙耶さんはニコリと笑う。
鞍馬は演奏出来るレベルになり、演奏グループに入る予定だったが沙耶さんの「折角作って貰った衣装が勿体ない。着れるサイズ的にしかくんが適任なの~」と言ったのだ。
断言できる、絶対にワザとだ。眼がほんのりとドSになっているからだ……。
「こんなの着て人前に出たら、変態だって思われるよー!」
「それはないから大丈夫~」
沙耶さんは言い切る。正直、俺もそう思う。
軽くメイクをしていて、ウィッグもつけているのでボーイッシュな女性に見えてしまう。……皮肉なことにこんな可愛い女の子あまりみたことないけどな。
「鷹谷くんー」
鞍馬はうるうるとした眼で訴えてくる。や、やめろ!こうかはばつぐんだ!!
「ま、まあちょっとした思い出作りだと思って楽しもうぜ。お客さんも顔までは覚えないよ、な?」
「……分かったよ。頑張ってみる」
鞍馬はふんふんと可愛く鼻息を荒くさせる。……可愛いを外してやりたいんだけどな。
***
「さて、そろそろ本番!楽しもう!!」
『応!!』
天馬さんの挨拶に部員が答える。
「楽しんで演奏して下さいねー」
争覇先生は見学だ。今日は学生指揮者の沙耶さんが指揮を振ることになっている。
すでに広場の”キタラ”ではかなりの人が集まっている。
俺達は急いで演奏の準備を始める。鞍馬たち仮装をした1年は袖で待機している。
譜面台を置き、譜面隠しと呼ばれる紙の板を被せる。この譜面隠しも寛太さんのデザインだという。本当に多芸だな。
「――緊張してる?」
小声で彩矢さんが俺に語り掛ける。
「少しだけですけど。……それよりも楽しみですよ」
「そうだね」
彩矢さんはニコリと微笑む。……鞍馬とは違った可愛さがある。あ、当たり前だよな。鞍馬は男だからな。
俺は観客を一瞥する。中学生っぽい女の子と眼が合う。
弥生さんに言われた通り笑顔で返す。「良い高校オーラを出すのよ!私達の後には東征高校がいるんだから。霞まない様にするのよ!」だそうだ。こうかはいまいちだろうけど……。
***
「どうもー!凱旋工業吹奏楽部GWOです!!」
天馬さんの挨拶で演奏が始まる。
「東征高校さんの前座ですが、是非楽しんでください-!!」
それはいらないだろう……。会場から笑いが起こったからよしなのか?控えている東征高校は苦笑いだろうな。
演奏が始まると、周りの視線はあまり感じなくなった。
鞍馬たち演出チームに眼がいっているというのもあるけど、純粋に自分の今吹ける音を確実に鳴らしていく。
順位や勝ち負けのない演奏。
自分達が楽しく演奏することで、見てくれる人達も楽しくなるのが空気で分かる――。楽しい!まばらな拍手が嬉しい。
これが吹奏楽なんだ。これが……、
最後の曲、TRUTHの弥生さんのカッコいいEWIを使ったアドリブを聞きながら思いにふける。
これが、GWOの演奏なんだ……と。
***
演奏を終え、全ての片づけをして部室に帰って来た。
部員の手元にはジュースが配られている。
「お疲れさまでーーーす!!かんぱーい!」
『うえーーーい!!』
まるでお酒の席の様なテンションで打ち上げが始まった。
一つの演奏会が終わると、簡単な打ち上げをやるのが凱旋流だそうだ。
「ただの演奏会でこんなはしゃぐか?って思ってるのかい、鷹谷君?」
「……半分当たってはいるけどな。でも、この雰囲気は嫌いきゃない」
新美は「それは良かった」と言い、缶ジュースを近づける。
「乾杯」
「ああ、乾杯」
カツンと心地よい音が鳴る。
初めての演奏でこんなに興奮して楽しかったんだ。
これからどうなるのだろう……。
「今日は朝まで飲むぞ~!」
「弥生ってばー。あははっ」
……。このあとどうなるのだろうか。あの人のお酒じゃないよな?
兎に角、今日は楽しかった。明日からまた頑張ろう――。




