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だから私は……

『――ただいまより、浜松凱旋工業高等学校吹奏楽部GWO定期演奏会、『Beyond Memories』を開演いたします』

 影アナウンスを担当している安元さんの低い声が会場に響く。リハーサルでも聞いたけれどいい声すぎるよね……!?


 ゆっくり緞帳が上がっていき、それに合わせて演奏が始まっていく。

 1曲目はT-SQUARE の『いとしのうなじ』だ。

 パーカスの旋律とリンクして上がる緞帳。ドラムのフィルインから舞台が明転して色のついたライトが私達を華やかにしてくれる。

 曲が終わると拍手と共に顧問の争覇先生がお辞儀をして舞台裏にはけていく。ここからは私達に任せるといった感じで。


 今回の定期演奏会、やっぱり凱旋らしいことをしている。

 それは大会の曲などのクラシック曲をやらないこと。

 大体の定期演奏会は1部~3部構成になっていて1部は大会などで演奏されるような曲を中心としたクラシックステージ。2部・3部はマーチングがメインならドリルステージ。今時の曲をメインにしたポップスステージとかになる


 だが、今回はクラシックステージはなし――という思い切った舵を3年生はしたのだ。……主に七瀬先輩が――だけどね。

『凱旋らしさを出すならこのほうがよくない?』

 そんな発言からこうなったという力技でした。まあ、先生からは『それはいいですけれど、構成はどうするんです?』と冷静に返され、それを考えていなかった3年生は先生から笑顔でお説教をもらったそうです。武井先輩曰く、『指揮棒を持っていたら生きていなかった』と恐ろしい感想付きで……!

 なので今回の定演はポップスメインの曲目。勿論、凱旋らいさ全開の、だけどね。

 

 一部はポップス(T-SQUAREメイン)ステージ。

 凱旋の十八番になってきたT-SQUAREを存分に楽しもらう。特に私のお気に入りはArcadia。疾走感のあるSQUAREの曲をキヨ先輩と新美先輩が見事に編曲している。

『相変わらずパーカス鬼畜なんやけど~』

 と、まどか先輩が愚痴っていたっけ。うん、たしかに手数がとんでもないからなぁ……。勿論、フルートも。


 2部は3年生の引退ステージ。後ろの大型スクリーンに対戦格闘ゲームの様に先輩達の顔が映し出される。

 有体に言ってソロバトルというやつで、控室で待機している私達は会場の様子が見れるテレビを見ながら2年後を想像してしまう。


 こんな感じで楽しそうに演奏したいなって……。


 最後に文化祭で演奏したゲーム音楽『9』を3年全員で演奏して大きな拍手と共に2部が終わる。


***

「――よし!もうラストだ。楽しんで行こう!」

『応!!』

 2部が終わりお客さんの休憩時間、その少ない時間に鹿島部長はみんなを鼓舞する。

 短い言葉だった。返事をしたらみんなは一層慌しく準備を済ませる。

 OB・OGの先輩達が準備の手伝いをしてくれている。

 3年生は2部から演奏し続けているので身体――主に唇を確認して木管楽器の人達はリードの状態を確認している。


 正直に言うと、これは中学時代と変わらない光景だ。

 でも、演奏レベルも規模も気合も全てが中学時代とは比べ物にならない。

 強豪校というわけではない。部員も100人を超えるような大所帯でもなければ全国大会に出場なんて眼中にない。


 なのに、チケットは完売。演奏レベルも決して悪くないし、他校では聞いたことのない編曲された曲の数々は聞く人達を楽しませてくれる。

「春果?ぼーとして大丈夫」

「ありがとう飛鳥。全然大丈夫!」


 そう。だから私は……。


***

『ありがとうございました!』

 最後の曲が終わり全員で頭を下げる。

 会場の拍手が弱くなるのを見計らって私達は舞台袖へはけていく。

 私達は控室に設置してあるステージ映像のテレビを見ながら待機をしている。


 去年同様終了のアナウンスが入る。

 そう、今年もお客さんがアンコールを望まなかったらやらないというスタンスを取っている。

 みんな本当にアンコールがなくても後悔しないように演奏を楽しんだ。後は会場次第。ただ……、

『9……8……7……』

 暗転した舞台のスクリーンにゲームのコンティニー画面が表示される。

 アンコールをするならこのカウント中に!と言わんばかりに……。

『流石に去年の方法は突飛すぎたからな。2部の演出と絡んでいるし丁度いい』

 と、そんなやり取りがあって去年よりもコールしやすくなっているそうで。

 それだと、去年の先輩達の理念にあった『本気のアンコール』にならないのでは?と思ったけれど、アンコールが弱かったりしたら本当にやらないとみんなで決めている。

 こういうところも大好きだなぁ。


 でも、こんなことをしても意味なんてないとも思う私がいる……。


 だってそうでしょ?



『アンコール!アンコール!!』


 会場から聞こえるアンコールに私の顔が綻ぶ。

 完売御礼は伊達じゃないんだから!

「春果、気持ち悪い顔してどうしたの?」

「……気合に満ちた顔って言ってよ」


「アンコールするぞ!!全員準備!」

『応っ!!』


***

 まどかさん率いるパーカスが先に舞台袖から出てきて頭を下げる。

 そして打楽器で曲の出だしを叩き始める。

 凱旋お馴染みのスカパラの『paradise has no border』。

 次々とメンバーが一礼をして楽器の準備をする。

 最後に鹿島部長が指揮台に上がり大きく一礼。

 そして、アンコールが始まる……!


 そうして、GWO定期演奏会は大盛況で幕を閉じた。



***

 数日後、私は部室のドアを開く。

 少し早くきてしまったのか、まだ誰もきていない。

「おはよう」

「鷹谷先輩、おはようございます」

「随分と早いですね」

 私もだけど、そう切り出す。

「3年生が引退したからね。技術向上のためにも練習内容の見直しをしないと。家じゃどうもやる気でなくてね」

 鷹谷先輩は「音楽流しても?」と私に確認を取る。頷きで返すとコンポにCDを入れて曲を聴きながらノートを開いてペンを走らせていく。

 私も椅子に腰かけて音楽に耳を傾ける。

「寂しいですね」

「3年生のこと?そればっかりはしょうがないよ。それにあっという間に新入生が入ってくる。この期間はとっても大事だよ?1年生が入部したら個人練習に割く時間が確実に減るからね。ここで如何に頑張れるかで春先さんの3年間が決まると言っても過言ではないよ」

「うっ!そ、そこまで言います?怖いこと言わないで下さいよ!」

 私が軽く体をのけぞると、ははっと軽く笑い鷹谷先輩は指を部室の外に向ける。

「練習、してきたら?」

「はい!そうします」

 私は部室の壁にかけてある練習場のカギを取って部室のドアを握る。そして、そこで止まる。

「どうした?」

「先輩!来年はアクト大ホールでやりましょうね!!」

「…………!!」


 それは演奏会終了後の打ち上げの場で新部長が言った言葉。

 来年は東海金、定演は大ホールを満員にする。

 強豪校でもない私達にはかなりの難関だと思うけれど、私達には頼れる先輩達がいるから出来てしまうかもしれない。


「そうだね」

 鷹谷先輩の返事に笑顔で返して部室を後にする。


 楽しそうだという理由で入った凱旋工業吹奏楽部。

 想像以上に楽しい吹奏楽部の一員になった。

 

 そして私は2人っきりという状況化と雰囲気で思わず言ってしまった言葉に顔を赤らめながら……、でも、事実だしと肯定して正気を保っている私は……。


 だから私は…………!


 部室で小さな声が聞こえた気がした。


「……青春を謳歌してるね春先は」 

 

嘘だと言ってよ!2025年だなんて……!


はい、おめでとうとうございます。庭城です。


時が経つのが早すぎませんか!?あーー、助けてYO!


ということで、(?)これで春先さん視点でのお話は終わりです。

次からは主人公である鷹谷視点で最後まで書いていくつもりです。


更新が遅くて本当に申し訳ございません。

絶対に完結させて次の作品など色々と書きますので今年もよろしくお願いいたします。

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