終わりはいつだって悲しい。だからこそ楽しい
1か月更新が当たり前になったうつけ者、庭城です。
なんとか次回は1週間以内に……!
「よーし!今日もこの曲を練習しようか。リハーサルでもしかしたら演奏するかもしれないからな。どんな時でも対応できるようにしておくのはいいことだ」
天馬さんはそう言って曲のセットリストが並べられているホワイトボードの端に1曲追加させる。
曲は『speed』、セットリストに入らなかったが編曲もいい感じで演奏しないのが勿体ないと思っていた曲だ。どこかの演奏会で演奏しようと考えて、今回は延期したのだ。
流石にもしかしたらで曲練習するのはどうかと思ったが、まあこの高校ならと諦める。
万が一、曲を急に振られても大丈夫なようにはしておかないとな……。あくまでも万が一だ……。
***
「――やりやがったな……!」
俺は笑いながらドラムの3年生を睨む。
3年生のドラムは満面の笑みで俺に合図を送る。周りに知らせろってか……、予定とは違う曲を演奏するって。
アンコールが決まった時、全員のテンションはもうお祭り状態だった。まるで大会で金賞を取るかの如くの盛り上がり様だった。
だからって、曲を変えなくてもいいだろうに……。
予定とは違うドラムとベースの動きに周りが驚き、俺はお客さんにばれないように必死に曲変更をジェスチャーで伝える。
そして、アンコール1曲目『speed』が演奏される――。
アンコールを1曲で終わらせない。テンポよく次の曲へと移っていく。
まさかのアドリブには驚いたが――悪くない。練習通り上手く言っている。1つ、余談を言うならば文化祭の時に失敗したホイッスル投げをばっちり決める事が出来た。渡しても問題のないお客さん――茉凛ちゃんにだ。
演奏は問題なく演奏されている。テンポが速くなっているかもしれない。音程が滅茶苦茶かも知れない。でも――そんなのを差し引いても楽しいが勝ってしまう。
楽しそうなメンバー、感動で少し目元が潤むメンバー、演奏者だけでも色んな表情が垣間見える。
もう次でラストだ……。3年ともお別れ。こんな楽しい一時ともお別れ、そんなの色んな顔があるのは当たり前だ。
さて――俺はどんな表情で演奏しているのかね……。
1年の初めての定期演奏会の俺が言うことではないが、大盛況の盛り上がりで俺達の演奏会は終わった。
***
『おおおーおおーおおー…………』
肩を組んでアンコールで演奏したアイアンメイデンの『Fear Of The Dark』のコーラスを歌う男達。もとい3年生。
「元気だなぁ……」
「本当にね」
俺が引きつった笑いをすると彩矢さんがクスクスと同情するように返事をする。
ここは学校。只今絶賛打ち上げ中である。
片付けを済ませて、学校に戻ってきた俺達をOB・OGの先輩達が打ち上げの準備をして待っていた。
机の上にはオードブルやお菓子、差し入れで頂いた食べ物がズラリと並んでいる。
パートごとに机が離れており、簡単な立食パーティーといった感じだろうか。
みんな楽しそうに打ち上げを楽しんでいる。
俺はその光景を見て軽く微笑み、パンフレットに挟んであった感想などが書かれたアンケート用紙を流し読みしながらほんの少し前を思い出す――。
***
俺は深いため息を零す。
演奏会が終わった。しかし、演奏会の後始末……後片付けの方が疲れるとは思わなかった。
アドレナリンの分泌が終わったのか、力が全然入らずヘロヘロの状態で舞台をかたしていく。
「だらしないぞ!ほれほれ」
キビキビと動く天馬さんに横腹を突かれる。この人が1番疲れている筈なのにそんな顔を微塵も見せずに舞台道具を運んでいく。
「……凄いな」
俺が思わずそう零すと「当たり前だ」と低い声が背後から聞こえる。玲哉さんだ。
「OBの先輩達も手伝ってくれているからな。片付けを済ませて学校に帰るまでは気を抜くわけにはいかないだろう。あいつは部長なんだから」
「そうですよね……」
「まあ……打ち上げになったら酒でも入れてるのか!?って思うくらいテンションが高いと思うけどな」
玲哉さんの呆れ顔に俺は微笑で返す。実際、そうなる予感しかしない。
「玲哉さん、1つ聞いていいですか?」
「手を動かしながらなら」
俺は急いで付近にあった譜面台を手に持つ。
「アンコール……どうして変えたりしたんですか?」
「それがな、天ちゃんと顔を合わせた時以心伝心したんだよ。あ、『speed』演奏したいってな。よく合わせてくれた、感謝する」
「僕にも一言言ってくれればもっとスムーズに出来たのに……」
「それじゃあ面白くない……だろ?」
「ま、まあ……」
玲哉さんはニヤリと笑い舞台袖に歩いていく。
このさじ加減は一緒の舞台にいないと分からないだろうが、その通りだと思い言い返すことが出来なかった。
いや――言い返すのは野暮だと思ったんだろうな。
「お疲れ鷹谷くん」
「おう新美、お疲れ。って、ちょっと早いけどな、まだ片付けが済んでいない」
「まあね……。いやー楽しかったね」
「ああ、楽しかった」
「アンコールでアタフタしてるのは見ていて楽しかったね」
「そこかよ!……やめてくれ。どれだけ冷や冷やだったことか」
俺以外が知っていないのなら、とんだピエロだったけれど、そんなことはないと周りのリアクションで分かっている。俺が対応しなかったらと思うとゾッとする。
「ふふん、たしかに。部長が急にドラムを叩いた時は驚いたけどね。ナイスな判断だったね」
新美はしたり顔で親指を立てている、逆方向に持っていきたいなぁ……!
「……冗談はさておき、本当に言い演奏会だったよ。中学の時とは比べられない程にね。部長の言葉は痺れたね」
「たしかにな……。お客さんに向けて言う言葉ではないと俺も思ったけれどな」
「でもあの場で言ってくれたからこそ、胸にくることだってあるものさ。オレ達もこれから部長の言ったことの様な感覚を覚えていくだろう。楽しいだけじゃない、辛いこと嫌なことなんて山の様に出てくるだろう。その度に思い出していこうじゃないか。継続していくことの喜びを、終えた時の胸の寂しさを……。たとえるならそう――大志。大志を抱いていこうじゃないか」
「新美…………」
新美はふざけることなく、真剣な表情で言ってのけた。
感情が高ぶっているから言える言葉。友の心の中……。
だから、俺も真摯に対応しないと失礼だ。
「新美…………何言ってるんだ?」
「あれ?ジーンとこなかった?」
「くるか!!」
俺の渾身のツッコミと共に俺達は舞台の中心で笑いあう。
そして――頭を叩かれる。
「笑ってないで手を動かせ!!」
『すいません……』
頭を叩いた玲哉さんは心なしか笑っているような気がした……。
***
俺は頭を擦りながら笑っていた。
「何かあったの?」
俺の様子が可笑しかったのか、彩矢さんがオレンジジュースを飲みながら俺をじっと見つめる。……その上目使い反則ですよ。
「いえ、熱烈な感想を書いてくれた方がいたので……」
「へえ、見せて。……凄い。私達の演奏を見てこの凱旋に入るだって」
「ええ、凄いですよね。吹奏楽が好きなんでしょうね。部活動で高校を決めるなんて、凄い熱意ですよね。僕達は強豪校でもないのに」
強豪校でもない。演奏がとびきり上手いわけでもない。そして、他の高校とは違って凱旋は工業高校……。
『大丈夫かな』
俺と彩矢さんの独り言がユニゾンする。
彩矢さんは驚いた後、丸くした眼をゆっくりと戻して綺麗に笑う。
俺もつられるように顔が綻ぶ。……しかし、
「なーにイチャラブしてんのよー!このラブラブカップル!!」
と、いい雰囲気のところでいつもの様に弥生さんに揶揄われる。
赤くなる彩矢さん。ニヤニヤする弥生さん。我関せずと言った様子で料理を頬張る新美。そんな様子を見て微笑む徹さん。
程よいバランスで成り立っているこのメンバーも今日で変わる。徹さん――3年生は今日で引退。もうこのメンバーで笑いあうことは出来ない。少なくともこの関係では最後。
次あったとしてもその時はOBと在校生といった関係性になる。
当たり前だ。終わりは必ずある。だからこそ、その時その瞬間が楽しいのだから……。
「俺が引退しても全然大丈夫だね、サクパは」
「そんなことはないですよ」
「大丈夫だよ。2年生2人はしっかりとしているし、1年はもっとしっかりしている。頼りなくて申し訳ないよ」
「徹さん……」
折角の打ち上げなのに、ナーバス気味になっている徹さんに困ったように返事をする。
「ごめんごめん、サクパって3年俺だけだろ?長年続いてきた伝統?みたいなものが俺の所為で薄れるのは嫌だなって思ってたんだけど、何の心配もいらない。勝手に解釈してより良くしてくれる後輩がいるんだからさ」
「……1名暴走気味ですけどね」
俺は徹さんだけに聞こえる声で言う。
「ははは、たしかに。でも、鷹谷くんなら大丈夫でしょ?後は任せたよ。もうバトンは渡したからね」
「……はい!」
普段控え目であまり思いを口にしない徹さんの最後の言葉は天馬さんとはまた違った重みがあった。
俺はどれだけ3年生に支えられてきたのかをひしひしと感じた。――感じてはいたけれど、引退するってなった時にその思いは強くなるのだろう。
引退しないでほしいなんて変なことは言わない。ただ……、一言だけいいたいことがある。
俺は盛り上がっている3年生に向けて言葉には出さず、心の中で「ありがとうございました」と言う。
「よーし!時間もいい感じだ!今まで触れないでいてやった鷹谷と修善寺のベストカップルイジリを慣行するぞー!!」
『いえーーい!!』
『えっ!?』
俺と彩矢さんは眼を丸くさせる。おい待て止めてくれよ……!!
「今夜は全て白状するまで返さないぞ~」
「うふふ、楽しみ~」
ニヤニヤと笑いながら近寄ってくる3年生を見て、薄く笑みを浮かべ、敬意を込めて俺はこう叫ぶ。
「さっさと引退しやがれーーーー!!」
***
定期演奏会から1か月がたった。
他校はマーチングの大会やらで忙しいと思うけれど、俺達も次々と組まれていく演奏会のスケジュールに合わせて日々練習をしていた。
年が明けるとアンサンブルコンテストが控えている。相変わらず吹奏楽部って奴は大忙しだ。
「――今から部活動を始める……前に1つ報告がある」
部長の鹿島亘さんが冷淡な口調で話し始める。
「これを見てくれ」
指揮台から見せたのは1枚のプリントだった。何が書かれているのかまでは分からない。
「以前録音して提出したSJ&Pコンテストの結果が届いた。俺達は来年の2月、東京で行われる本大会に出場する。全力で楽しもう」
忙しさはより忙しく、楽しみために沢山の苦労を味わう。
だが、この部員なら大丈夫だろう。
そして、『大志を抱くあの日』まで、欠けることなくやっていきたい。
吹奏楽を続けて良かったと言うために。このメンバーと一緒にいれて楽しかったと言うために……。
俺達は大きな声で部長の言葉に返事をする。
『応!!』
何も考えずにぶわーと書きました。
いつか直すかもしれません。
そして、終わる感じ満々ですがまだ終わりませんので、どうかもう少し猶予を下さい……!(何の?)




