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「嘘だっ、そんな話は信じないっ。ライアン、お前は何を言っているんだっ」


「リューン殿、これほど身を千切られるようなことはありません。が、真実を申し上げているのです。今、リンデンバウムは大変なことになっています。国王陛下の耳に入る前にと、領地の境を守る兵師団がリンデンバウムに不穏な輩の討伐に出かけ、そこでムイを操ろうとしたユリアス神父を拘束した、と聞きました。その際に、ハイドはユリアスに殺され、そして……ムイもその時に、」


ライアンの喉が鳴った。


「やめてくれ、ライアン」


「……リューン殿、まずは正気に戻ったローウェンから連絡があるまで、待ってください。きっと今、彼らがリンデンバウムを立て直しているはずです」


「ライアン、俺はすぐに戻らねばならない」


力強く声を弾ませる。


「ムイが俺の帰りを待っているんだ」


「リューン殿、ムイはバルコニーから落ちて、亡くなったんです‼︎」


「そんなはずはないっ‼︎」


はあはあと背中を上下させて、息を荒げた。


「俺が行って、収拾をつける。馬を用意してくれ、ライアン……」


「リューン殿っ」


「馬を用意しろと言っているっっ‼︎」


リューンの目は瞳孔が開き切っているのではないかと思うほど見開かれ、そして血走っていた。そして黄金の髪は、ふり乱されてその原型を留めていない。剣を持っていれば、今すぐにでも振りかざして暴れ回るのでは、というような凄まじい形相だった。


「ライアンっっ‼︎」


唾を振りまきながら、リューンは腹の底から叫んだ。その怒声は落雷のように落ち、城中に響き渡った。


「……わかりました。けれどリューン殿、これだけは申し上げます。とにかく一度、冷静になってください。事の次第を説明する場面で、おかしなことになって兵師団に拘束されでもしたら、厄介なことになりますよ」


「わかった、」


ライアンは近くにいた兵に馬の用意を命令すると、リューンと一緒に城の城門へと向かって走った。


「リューン殿、決して無理をなさらずに」


「大丈夫だ、ライアン、色々と礼を言うぞ」


「……お気をつけて」


リューンは、馬の腹を力の限り蹴り上げた。驚いた馬は狂ったように走り出し、そしてリューンはリンデンバウムへと向かって走った。


(ムイが死んだなどと、そんなはずはない)


馬は手綱を緩めている限り、そのスピードを落とさない。馬にしがみつきながら、リューンは思った。


(そんなはずはない、ムイは生きている)


目頭が熱くなるのを、苛々としながら手の甲で拭う。


「なぜ……泣くのだ、泣く必要などない」


次に流れた涙も、乱雑に甲で拭った。


「泣く必要などないのだっ‼︎ ムイは生きているっ」


叫び狂いたい気持ちになり、それを抑えるため、リューンは再度、馬の腹を蹴った。


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