新サービス業
「どうも、わたくし人生デザイナーです」
目の前に現れたスーツ姿の女は、僕に名刺を渡して告げた。
車にはねられて瀕死の僕にである。
「……あの、それどころじゃないんですけど……」
「あなたをはね飛ばして走り去った車は自動車保険に入っていませんでした。賠償金を恐れ、死にものぐるいで逃げ出した……というのがことの顛末のようです」
にこやかなスマイルを張りつけたまま、女は丁寧に語る。
「えーと……じゃあ救急車呼んでくれますか……?」
もうすぐ死にそうな僕の前で、女はひたすらにこやかに笑っている。
「実は、わたくし先程あなたを跳ね飛ばした男性と契約したものでして」
視界が霞んできた。早く済ませてくれ。
「あなたをひき逃げした挙句事故死というのは人生デザインとしてはあまりにも……ということで、あなたの肉体を損傷前に戻します。ついでに、自転車も」
それ、助かるってことか……?助かるならなんでもいい。この女が誰かすらどうでもいい。考えてる暇があったら死んでいる。
「念の為、記憶も消去させていただきますがご同意頂けますか?」
「同意します……」
「では、こちらにサインを」
折れていない方の腕を懸命に伸ばし、血文字でサインを書いた。
***
「……と、言うことで、お客様は車の不具合で事故死ということになります」
人生デザイナーと名乗った女は、俺の目の前で再びにこやかに語り出した。
「は!?待てよ、それじゃ死んでんだろ!!」
「わたくしどものサービスは、人生デザインの調整です。規約にも書いておりますよ?お客様御本人の死を帳消しにするわけではないと」
詐欺だ。運命を変えられると思ってすがりついたのに。
胸ぐらを掴もうとしても、身体は動かない。というか身体がない。
「地獄も満員でしたので、このようなサービスが必要になっております。何卒、ご了承ください。これでお客様も、スムーズに転生が可能です。幸い、はねた方が生きておられましたので、来世に響く業も軽減されております」
女は背筋をピンと伸ばし、相も変わらずにこやかに笑っていた。