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サイクリングストリート  作者: けろよん
新たな道へ

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44/69

第一の戦い 麻希 VS 苺

「苺さん、任せましたわよ」

「マッキー、頑張って」


 翼と美久に声を掛けられ、それぞれの第一走者がスタート位置に付く。

 みんなが見守る前でフラッグが上げられ、下ろされた。


「おおっと、これは開幕から凄まじいスタートだあ!」

「これはとても僕と同じ自転車とは思えませんね」

「でも、現実! これが自転車なのです!」


 萌香と掛太郎が驚き、興奮するのも無理はなかった。それほどに麻希と苺のスタートは凄まじいもので、まるでロケットの発射を見ているようだった。

 二人は南下する長い道をあっという間に走り切り、バニシングウェイに乗った。


「これは……まさか苺さんが負けているんですか?」


 走りは麻希がリードしていた。萌香はそのことに驚いていた。


「苺さんは我が校の一年生でもっとも足が速いと言われている生徒で、翼様も当然最初から差を見せつけるつもりで選んだと思うんですが……その苺さんに勝つなんて一体彼女は何者なんですか?」

「魔王ですよ」

「魔王?」


 掛太郎の短い言葉に、萌香は目をぱちくりとさせてしまった。


「彼女こそが先の事件で勇者を苦しめた魔王なのです」

「おお、苺さんの相手は魔王だったー! 頑張れ、苺―!」



 会場の大型スクリーンで麻希の走りを見ながら、結菜も驚いていた。


「未来の機能は切ったはずなのに何であんなに速いの」

「補助を必要としなくなったからだろうな」


 声を掛けてきたのは葵だった。

 悠真は今頃になって恥ずかしさに気づいて悶えている姫子を宥めるのに忙しかった。

 結菜は兄と同じ落ち着いた大学生である葵に訊いた。


「補助……?」

「ああ、人間は誰でも最初は補助を必要として自転車に乗るものだが、走るのに慣れたらもうそんな物は無くても普通に走れるだろう? 麻希はもうあのスピードを物にしているのさ」

「へえ」

「それにあの苺という子。足はあるが自転車の腕はまだまだだな。この戦いはパワーで押し切るのはきついぞ」

「そうなんだ」


 結菜にはただ二人が速く走っているだけにしか見えなかったが、葵にはいろいろ見えているようだった。

 結菜は麻希の応援をしながら二人の走りを見守った。

 出番が近づいて、姫子と西島がそれぞれのスタート地点へ向かっていく。

 姫子は西島の巨体にびびっていたが、悠真に励まされて戦う覚悟を決めたようだった。



 麻希と苺は道を走っていく。

 麻希にとって道とは懐かしい物だった。

 日々新しく出来ていく物もあれば、この道のようにずっと残り続けている物もある。

 麻希の先生が興味を持って調べているのも納得だった。

 道路の両脇では町の人々が並んで声援を送っている。

 背後からは苺が鬼気迫るスピードで追いかけてくる。

 麻希の口元には自然と笑みが湧いて出た。


「この追いかけられる感じ、懐かしいわね。だったら今度は……抜かせない!」


 苺はがむしゃらに自転車を漕いで追いかけるが、どうしても麻希の背中には追いつけなかった。


「こんなことありえない。自分から立候補して翼様に期待していただいたのに……」


 大差を付けて姫子に繋げるつもりだった。こんな結果は到底受け入れられるものではなかった。


「舐めるな!! ちくしょう!!」


 苺が驚異的な追い上げを見せてくる。その気迫に麻希の体も震えた。


「この時代の人達は本当にわたしを困らせてくれる!」


 力を入れてペダルを漕ぐ。

 距離が縮まらない。

 二人の驚異的なスピードに第一のゴールは瞬く間に近づいてきた。

 先にゴールを駆け抜けたのは麻希だった。その到着に合わせて五里呼が出発した。


「キャア!」


 素早いスタートで巨体の起こす突風に、隣にいた姫子は吹き飛ばされそうになってしまった。

 遅れて、苺がゴールに入る。


「姫ちゃん! 急いで!」

「う……うん!」


 友の叫びを受け、スタートから体勢を崩されながらも姫子は出発した。

 苺は自転車を降り、力なく地面に座り込んでしまった。


「このわたしが……最初から最後まで全く追いつけなかったなんて……ちくしょう!」


 アスファルトを叩く苺の目からは涙が零れていた。

 こんな屈辱を感じたのは随分と久しぶりのことだった。

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