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サイクリングストリート  作者: けろよん
新たな道へ

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姫子の大宣言

 学校に来た翼達を、悠真と葵は離れた場所から見ていた。


「姫子さん、来ているな。写真を撮っとこ」

「もっと近くから撮らないのか? 彼女だろう?」


 こそこそした様子の悠真に葵は気楽な声を掛ける。


「翼さんが一緒にいるんだぞ。行けないって」

「なんだ、悠真。年下のお嬢様なんかにびびっているのか」

「びびってないって。目立ちたくないだけだ」


 翼は人気者だ。そこに近づくということは注目を浴びるということだ。

 悠真は目立つつもりはなかった。葵は翼を見て言う。


「純星の鷹か。そんなに大した奴には見えないけどな」

「お前にとってはそうなんだろうな。翼さんは凄いお嬢様で人気者なんだぞ。ちょっと黙っててくれ、俺は姫子さんを撮らないと」


 その時、遠くから声が聞こえた。


「悠真さーーん」


 見ると姫子が手を振っていた。葵は親指でそちらを示した。


「彼女が呼んでいるぞ」

「姫子さん、また周りが見えなくなっているな。葵にも気づいてないみたいだ」


 姫子はいつもは恥ずかしがりやだが、今は悠真を見つけた嬉しさで周りが見えなくなっているようだ。

 姫子との付き合いがある悠真にはそれがよく分かっていた。

 翼と一緒にいて注目を集めるのもお構いなしで手を振っている。

 周りの目のことを教えてやったらきっと面白い反応が見られるだろうが、誰もそのことを指摘してやる気はないようだった。


「行ってこい。わたしは気を効かせて離れた場所から見ててやるからな」


 葵はからかう笑みを残してその場から離れていった。

 魂胆は分かっている。姫子をだしにして悠真の恥ずかしいシーンを撮ろうというつもりなのだ。後で大学に戻った時、きっとその話題で盛り上がることになるだろう。

 だが、今からそのことを気にしてもしょうがない。


「まったく、お前の思うようにはいかないからな」


 悠真はため息を吐きながらも、気を取り直して姫子のところに向かっていった。

 


 悠真が行くと、姫子は弾むように喜んでくれた。


「悠真さん、応援に来てくれたんですね」

「ああ、もちろんだよ」


 その笑顔はとても可愛くて、悠真は改めて照れてしまう。


「お兄ちゃん、来てたんだ」

「だから、来るって言っただろ」


 結菜は相変わらずだったが、さすがにこの舞台で緊張しているようだった。

 二人に続いて声を掛けてきたのは翼だった。


「あなたが姫子さんの彼氏の方ですわね。初めまして、姫子さんの学校の生徒会長をしております、大鷹翼と申します」

「あ、どうもよろしくお願いします」


 翼の態度は可愛いというよりはかっこよかった。

 さすがお嬢様の頂点と呼ばれているだけあって、実に堂々として様になっている。

 相手は結菜や姫子とそう変わらない高校生の年下の少女なのに、悠真も緊張して挨拶してしまう。

 相手が翼というのもあったが、悠真は周りも気にしていた。

 翼もそれに気づいたようだ。


「どうかされましたか?」

「いやあ、ね?」


 周囲から声が聞こえてくる。


「なれなれしい奴」

「あの人、翼さんとどういう関係なの?」

「うらやましい」

「ああー」


 翼は気が付いたようだった。気楽な調子で応えていた。


「気にしても始まりませんわよ」

「僕は気にするよ!」


 あまりにも気楽に言われたので悠真はつい叫んでしまった。

 それが面白かったのか、翼はおかしそうに笑っていた。悠真もつい目を奪われてしまうような素敵な笑顔だった。


「浮気現場いただき!」


 その写真はばっちりと葵の手に入った。離れた場所からだったので誰も気が付くことはなかったが。

 悠真の手を取る手があった。姫子の手だった。


「大丈夫です、悠真さん! わたしに任せてください!」

「え? なに?」


 姫子はやる気に満ちていた。誰もがこんな時にどうなるか予想していた。姫子は悠真の腕を自分の腕に絡めた。

 そして、誰も止める間もなく、みんなに向かって宣言した。


「悠真さんはわたしの彼氏です!! 翼さんとは何の関係もないので、どうかみんな安心してください!! ふん!」

「姫子サンハ何ヲ言ッテルンダーーー」


 余りの彼女の態度に、さすがの悠真も呆然として真っ白になっていた。

 今の姫子は緊張の舞台で悠真と会って、完全に飛んでいるようだった。

 それが戻った時、どうなるか。誰もが予想していたが、ここは彼氏がいるのだから任せておこうとみんな結論付けた。


「おめでとう」

「おめでとう」


 周囲からは祝福の拍手が上がっていた。

 姫子は赤くなりながらも興奮して上機嫌だ。

 注目を集める悠真は苦笑いするしかない。

 こうして悠真はいち早く町の有名人となったのだった。

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