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サイクリングストリート  作者: けろよん
新たな道へ

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26/69

翼の懸念

 町の空は今日も平和だ。

 数日前のように町に不思議な光が立ち上って不可解な現象を起こすということはもうなかった。

 平和すぎてあの現象は何だったのかと思えるような高く澄み渡った青い空。

 結菜や美久達の暮らす高校からは遠く離れた高校の一室の窓から、そのいつもと変わらない何のへんてつもない空を見上げている少女がいた。

 彼女の瞳は鷹のように鋭く抜け目がない。その獲物を狙う強者の瞳をした少女が窓に浮かべている今の表情は困惑だった。


「解せませんわね」


 彼女が呟く。その焦りを感じさせる王者の声に答えたのは落ち着いた少女の声だった。


「翼様、まだあの事を気になさっておられるのですか?」


 翼と呼ばれた少女は振り返る。

 ここは町でもその名を知られたお嬢様学校の生徒会室。

 生徒会の仕事が手に付かない様子の会長の大鷹翼おおたか つばさに代わって、パソコンのキーボードを打っていた副会長の黒田叶恵くろだ かなえが、その手を止めて穏やかな微笑みを浮かべていた。

 翼は窓から離れて言った。


「わたくしの知らない所でこの町に不可解な事件が起こりましたのよ。あれはいったい何だったのです」

「それはわたしにも分かりません。でも、その調査結果が今日上がるんですよね?」


 叶恵の言う通り、調査を依頼した班から今日中には結果が上がると報告があった。だからこそ、今の翼は落ち着きがなかった。


「そうです。ですから、こうして今からそれを待ちわびているのですわ」


 落ち着いてくださいとは叶恵は言わなかった。黙って自分の仕事をこなしていく。

 翼の配下の調査班は優秀だ。町一番の権力者が動かしているのだから、それも当然といえるだろう。

 その実力を叶恵は疑ってはいなかった。


「あ、噂をすれば」


 パソコンを触る叶恵の目が届いたファイルに留まる。叶恵は綺麗な指を動かしてそれをすぐにクリックした。


「結果が来ましたよ、翼様」

「見ましょう」


 翼は椅子を引いてパソコンの前に移動した。叶恵は横に移動して正面を会長に譲った。

 叶恵からマウスを受け取って動かし、翼の目が資料に通されていく。その目が止まった。


「伝説の勇者? 魔王の野望を阻止した?」


 資料に挙がっていたのはそんな言葉だった。叶恵も隣でそれを見ていた。


「あの事件は魔王が起こしたもので伝説の勇者が解決したらしいですね」


 翼は考え込んでいた。


「解せませんわね」

「伝説の勇者と呼ばれる者が現れたことが……ですか?」

「そうではありません。続きを見てみましょう」


 翼は再びマウスを動かしていく。さらに資料の続きを読み進めていく。

 続くページにはこの事件に関わったとされる者達の写真が挙がっていた。

 それは魔王を追っている結菜や葵、情報の聞き込みをしている美久の友人達の姿まで映っていた。

 翼の配下の調査班はやはり優秀のようだった。

 写真を見つめていく翼の目がある写真で止まった。


「これは……うちの生徒ですわね」


 彼女がその写真に目を留めたのは、その写真に映っていた少女が自分達の通う学校の制服を着ていたからだった。

 その少女のことは叶恵が知っていた。


伊藤姫子いとう ひめこさんですね。前にわたしのところに相談に来ていただいた方でこのような事件に関わる方とは思えないのですが」

「どのような相談でしたの?」

「彼氏とよりを戻したいと」

「彼氏ぃ?」


 およそ事件とは関係の無さそうな言葉を聞いて翼は素っ頓狂な声を上げてしまった。こほんと咳払いして気分を落ち着けてから小声で訊く。


「それで、どうなりましたの?」

「上手く仲直りできたようですよ」

「そうですか」

「微笑ましい話ですね」

「そうですわね」


 資料を最後まで目を通し、翼は立ち上がった。叶恵は澄んだ瞳で会長を見上げた。


「翼様、どちらへ?」

「姫子さんに会いに行きます」

「行かれずとも、わたしがここへ呼んできますよ」

「結構ですわ。わたくしはもう待つのは飽きたのです」


 今日の翼は行動的だった。

 足早に廊下へと出て行く彼女を叶恵は急いでパソコンをシャットダウンして追いかけた。

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