目的の違った旅行
大学2年の夏休みも中盤、熱い日差しに嫌気がさすような午後1時。駅の改札には俺と日笠さんしか来てなった。
「遅いね、みんな」
日笠さんは駅の改札向こうを見ながら呟いた。
「そうですね。みんな暑さにやられてまいってたりして」
一応同調しておく。日笠さんとはあまりしゃべったことがない。少し気まずかった。
その5分後には衛と草野がやってきて、最後に姫路さんが少し小走りでやってきた。
「遅れてすいません。大丈夫でしたか?」
申し訳なさそうに謝る姫路さんに、今回の旅行を提案した草野が慌てて言う。
「大丈夫です!時間は余裕もって組んでるから」
「早くいこうぜ。ここ暑い」
衛が少しだるそうに言う。正直、待ち合わせ時間10分前に来てる俺からすれば、その文句は俺が言うべきだがしかし、そこまで暑さを感じているような余裕はなかった。
「チャーターしたボートです」
草野が指さした先には、港に1つだけ浮いている船があった。ボートの種類とかはあまり詳しくないが、個人で買うような人は金持ちだろうな、と思う。今回の旅行は2泊3日の、離島にある貸別荘に行くというものだった。そんなお金がどこにあるのか、提案してきた草野があっという間に準備してしまった。これが小説なら、なんたるご都合主義。しかしこの状況は好都合だった。
ボートにみんなが乗り込む。
「スターンシートって言うんだったかな?」
日笠さんが姫路さんと、そんな会話をしている。俺もそのスターンシートというものに腰かけた。両膝の上に鞄を乗せる。ギュッと強く握った。風は気持ちよかったが、やはり緊張していた。
小一時間程で、目的地である離島についた。それなりに大きな島で、結構人も住んでいるらしい。さっきまでいた本州が水平線向こうに見えた。歩いて20分、ちょっとした崖の上に、今回の宿泊地である貸別荘があった。大きい。草野はお金持ちなんだな。
「すごーい!大きいですね」
姫路さんが喜んでいる横で、衛は少し疲れた様子。
「暑い。疲れた」
俺たち5人は感想もそこそこにそれぞれの部屋に入ることにした。1人1部屋。贅沢である。
今回の旅行はやはり好都合だった。この五人が集まったのも偶然といえる。大学に入ってからほとんど連絡も取っていなかった4人と、突然旅行に行くことになると、誰が予想しただろう。今日は夜までゆっくりしようということになっていた。やはり緊張する。当たり前だ。これからやろうとすることは少しでも失敗は許されない事だ。ばれないようにしなくては。俺はベッドの横にある鞄を開けた。そこに入っている包丁の柄の部分をしっかりと握った。