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アナザーワールド  作者: 新倉 砂鉄
6/21

第6話

慌てて窓に近づくナパ。

「あ、あれ?動いてる・・・・。お、オイラがやっつけた時にはう、う、動かなかったのに・・・・。」

すると、髭面の男が説明を始めた。

「あれは、餓鬼といってな・・・まぁ、お前に言ってもわからんと思うが、地獄の一番最初にある階層に居る悪魔なんだよ。どういうわけかは知らんが、この地に迷い込み彷徨っているところを、娘が拾って連れてきてしまったんだ。殺そうと思ったんだが、別に悪さをする様子もないし、娘が可哀相だからって言うから、まぁ、門番ということにして、家に住まわしているってわけだ。もちろんそれなりに調教はしたぞ。大変だったがな。そしてそれから、家の庭を試しの間と名づけ、門番をさせているのだ。お前が生きてる証拠に、人は決して襲わない。その寸前で止めるように教え込んだからな。まぁ、そう言うわけで、お前が殺して動かなくなったのではなく、門番としての役割を果たしたというわけだ。」

「そ、そ、そうだったのか・・・。で、でも何でじゅ、術ってヤツを使ったり、化け物を置いたりして、何で人間を近づけさせないの?き、嫌いなの?人間が・・・。」

確かに・・・・。何故幼少の頃、リンがラズバクト一家を見たという時も、重要な処の記憶は消され、その部分を思い出そうとすると、記憶がループしたりとか、今回もラズバクト一家に関する念を持つ者が足を踏み入れると、先に進めないよう術を仕掛けたり、確かにナパが言うように、この一家は人間が嫌いなのか?そして、そんなナパの問に対し、妻と思われる女性が、

「私達はね、魔術師と言ってね、不思議な力を使うことが出来るの。そして、その力を代々伝えていかなくてはならないの。これからずっと・・・・・。でもね、この力を公の場で使ったり、又は、誰かに見られたりすると、見よう見まねで術を使う人達が出てくると思うの。まぁ、そんなに簡単に出来るものじゃないんだけど・・・・。一歩間違えれば命を落とすこともあるし、取り返しのつかなくなることもある。だから、それを防ぐ為にも、そして、悪用されることのない様、私達は人里から離れ、人に知られぬようひっそりと生きていかなくちゃならない。でもあなたは今、こう思ってるでしょう・・・?なんでそんな凄い力が使えるのに世のため人のために使っちゃいけないの?そして、何で何の使い道のない、意味のない力を伝えていくの・・・・?と。それはね・・・・・・」

妻と思われる女性が淡々と話を進めていると、バンッと、何かを叩いた様な大きな音が聞こえた。そして、その音が聞こえた方に目をやると、とても穏やかとは言えない表情の髭男がそこに居た。

「ソフィア・・・そこまで言う必要はないだろう・・・・。況してやこんな名も知らぬガキに。唯でさえお前は一度掟を破っているんだぞ・・・・。またそれを破るとでも言うのか?これ以上我が一族の顔に泥を塗るではない!まぁ・・・記憶を消してやれば何も問題は無いが・・・・。」

髭男が眉間にシワを寄せながら、渋い顔でそう言うと、異様な沈黙が流れた。

とても口を挟める空気ではない・・・・が、この静寂に包まれた空気を切り裂くかのように、小さな声が聞こえた。

「な、何か・・・・理由があって来たんでしょ?」

口を開いたのは、それまで黙って聞いていた娘と思われる若い女性だった。そして、それに合わせソフィアも、

「そ、そ、そうよね?あっ、そ、そうそう、名前・・・名前まだ聞いてなかったわよね?私はソフィア。で、私の隣に居るのが娘のタリア。そして、そこでプンプン怒っている人が夫のギザ・・・・。あなたは?」

ソフィアが、ギザの顔色を窺いながらナパに訊ねると、

「お、オイラ、ナパ。親友のルクや、み、みんなにた、た、頼まれて・・・え、えーと・・・お、王様が、ん、んーと・・・・・な、なんだっけな・・・・え、えーと・・・・」

事情を説明したいのだが言葉が出てこない。困り果てていると、そんなナパを見兼ねたのか、タリアが動きだした。

「ねぇ、ナパ・・・だっけ?喋らなくていいよ。見てみるから。ちょっと目を閉じててくれる?」

タリアの言われるがまま、顔を赤らめながら目を閉じると、タリアが小さな声で呪文らしき言葉をブツブツ唱え始めた。そして、その呪文のようなものを唱えながら、右手の人差し指で左手の掌に何かを描き始めた。

何も言わず、それをじっと見つめる父と母。そして、タリアの口が止まり、その後に手が止まった。と、その瞬間、何かを描いていた左手の掌をバチンッと床に叩きつけたのだ。

細い腕で叩いたにも拘らず、その衝撃はテーブルや、その上に置いてあった木製のコップが数センチ浮くほどだった。そして、何より驚いたのは、叩いた衝撃でそれらが浮いた事ではなく、浮いた状態でテーブルやコップが止まっていたのだ。そして、ナパの足元を見てみると、ナパを中心に赤く光る魔法陣が浮かび上がっていた。

「タリア・・・・。そんなものを見てもお父さんは協力しないぞ。」

「あなた、そんな言い方しなくてもいいじゃない・・・・。さぁ、タリア、映してみて。」

ギザはやっぱり協力しないようだ。それにしても、「映す」とは一体どういうことなのか?

ソフィアとタリアの目線を追うと、その先には・・・・なんと、ナパの頭上にスクリーンが有るかのように映像が浮かんでいるではないか。

しかも、その内容とは、アレキサンドラ王の言葉から始まり、ここへ来るまでの映像が流れていた。

「酷いわね・・・人間を道具扱いするなんて・・・・。」

タリアがソフィアの顔を見ながら言った。すると、ソフィアはギザのしかめっ面を見つめながら、

「あなた・・・私たちにも責任が・・・・・。」

と、何やら意味深なことを言い出した。そしてその言葉を聞いたタリアは我が耳を疑うようにこう訊ねた。

「お、お母さん・・・い、今、何て言ったの?」

「ん?あっ、ええ・・・な、何でもないわ・・・。さぁ、術を解いてあげなさい・・・・。」

さらりと流されてしまった。

とりあえず納得のいかぬままタリアは、左手の掌に「フッ」と息を吹きかけ、その手を握って拳を作り、何かを念じ始めると、ナパの足元にあった魔法陣が消え、宙に浮いていたテーブルなどが、ガタンッと音をたて本来在るべきところに戻り、タリアの左拳からは薄っすらと煙のようなものが出ていた。

「な、何かの力を感じた。何かの力が邪魔しようとしてた・・・・。」

自分の拳を見つめながら、タリアはボソッと呟いた。

「やっぱり・・・・あなた・・・・・。」

「ちっ、ジャイロの奴め・・・・・。」

ギザが言うジャイロとは一体誰なのか?

「も、も、もう、目をあ、あ、開けていいの?ま、まだ?」

すっかり忘れられていたナパ・・・・・。

「お父さん・・・・そのジャイロって誰なの?」

タリアがムッとした表情で訊ねる・・・がギザは話そうとしない。

「お父さんがそういう態度なら、もういい。私が一人で行くから。」

テーブルの角に片肘をついて聞いていたギザだったが、それを聞いたとたんガクッと肘が落ちた。

「ごめんね・・・・。」

すると突然、ソフィアがタリアに誤ってきた。だがそれを無視しするかのようにタリアが立ち上がろうとしたその時、声を震わせながらソフィアが語りだした。

「実はね、あなたには・・・・」

「ソ、ソフィア・・・・・。」

慌てて立ち上がるギザ・・・・。しかし、ソフィアは首を横に振り、タリアの方を見て、また語り始めた。そして、それに観念したのかギザは座り込み、タリアの目を見ることなく、下を向いたままソフィアの話に耳を傾け始めた。

「実はね、あなたには、お兄ちゃんが居るの・・・・。名前はジャイロ。タリアは覚えていなのも無理ないわ・・・。だってあなたが生まれて間もない頃にジャイロはこの家を出て行ってしまったんだもの。毎日毎日修行の日々・・・・。食事と睡眠以外は。あなたもそうだったように・・・・。でもきっとそれが耐えられなかったんでしょうね。朝、目覚めたら居なくなってたの。もちろん探そうと思えば簡単に探せたんだけど、お父さんが探す必要はないって言うから・・・・。あいつはまだ、イロハの「イ」の字も知らない奴だから気にする必要はないって。でも、一応は魔術師の端くれ。多少の術は使いこなせる。もし、その術を自分の為だけに使い、自分の思うままの生活を手に入れられるとしたら・・・・・・そう、アレキサンドラ王に近寄り、王を操るか、又は、王に成り済ましているか・・・・・。」

「ま、まさか・・・・、そんな事・・・。」

タリアが苦笑いをする。が、ソフィアと、ギザの表情は真剣そのものだった。

「じゃ、お、お、王様は、た、タリアのお、お、お兄ちゃんなの?」

ナパが一瞬の間を見計らって口を挟んだ。

「わからないわ・・・・・。ただこれだけは言える。もし、そうだったとしたら、これは私達の責任。とりあえず一度行って、確かめなく・・・・・」

バンッ・・・

突然、ギザがテーブルを叩いた。と、急に立ち上がり大きなため息を吐きながら、

「はぁ・・・・まさか・・・行くつもりじゃないだろうな?」

と、ソフィアに睨みをきかせて言った。そして、そんなギザの態度にビクッとしながらも、

「ジャイロに好き勝手にやれって言うの?まだ、あの子の仕業と決まったわけじゃないけど、困ってる人達が大勢いるのよ。様子を見に・・・調べに行くぐらい、いいじゃない。私が行くから・・・。」

ソフィアがそう言うと、少し項垂れた様子を見せ、考え込むギザ。そして、それから数十秒経ち、もう一押ししようと、タリアが口を開こうとした瞬間、ギザが部屋の隅に架かっていた黒いマントを鷲掴みにし、少し乱暴に引っ張ると、

「俺が行く・・・・・。ソフィアとタリアはここで待ってなさい。」

と、言い残し、足早に表へ出て行ってしまった。慌ててギザを追うナパ。

「ま、ま、ま、待ってよ。お、オイラと一緒に行ってくれるの?」

ギザを追い越し、前に立ちはだかると、心配そうにナパが言った。

ギザは何も答えない。

「ね、ねぇ・・・。ど、どうして何も答えないの・・・・?」

「お前は・・・お前の心は汚れなく、清く美しい。あいつに、あいつに一番最初に教えるべき事はその「心」だったんだな・・・・。人間は心のあり方で人生が大きく変わっちまう。俺は、親として、師として失格だな。さぁ、ナパとやら、行くぞ。」

「あ、ありがとう・・・・。で、でも、ルク達が居る所まです、す、すごく遠いんだ。」

「知っているさ。だが安心しろ・・・・。」

ナパの不安げな言葉とは裏腹に、ギザがサラッとそう言うと、目を閉じて何かを念じ始めた。すると、風も無いのにギザの体を覆っている黒いマントがバサバサと揺れ始め、足元からは砂埃が巻き上がっている。そして、右足のつま先で、地面をチョンチョン、と軽く二回ほど叩くと、ゆっくりとギザの体が浮き始めた。

「さぁ・・・ナパ、俺の手を握れ・・・。」

「え、え?」

「早くしろ!」

何がなんだか分からないが、とりあえずギザの手を握る事に。

「う、うあぁぁぁぁっ。」

思わず悲鳴を上げてしまった。ギザの手を握った瞬間、今まで味わったことのない様な感覚に襲われた。そして、その何とも言えない感覚が数秒ほど続き、やがてそれから覚めると、ナパの体も地面から約五十センチくらい浮いていた。

「す、凄いや。お、オイラ、う、浮いてる・・・・。」

「よし、もう大丈夫だ。さぁ、手を離すぞ。」

「だ、駄目だよ、お、お、落ちちゃうよ。」

「はっはっはっ・・・俺が落ちない限り、お前が落ちることはねぇよ。まぁ、バランス感覚は必要だがな・・・・。」

そう言い、ギザがナパの手を離すと、ナパの体がだんだんと横向きになり、やがて、地面と平行になりつつあった。どうにか体勢を立て直そうと踏ん張るが、足も着かないし、?まる所も無い。足をジタバタさせ、もがけば、もがくほど凄い体勢に・・・・。その後、ギザがコツを教え、何度か練習をするが進歩ならず。結局、ギザがナパの手を取り、引張って行く事に・・・・。そして、ナパが3日かけて歩いてきた旅路を、わずか6時間たらずで到着した。

そして・・・・・・

「ナパか?本当にナパなのか?」

「そ、そうだよ。お、お、お帰り。」

「馬鹿、ただいま・・・だろ?はははっ、やっぱりナパだな。ん?そう言えば親父、親父は?」

「隣にい、い、居るよ。大丈夫。」

「ふぅー、よかった。助かったんだな。でもどうやって・・・・?」

ルクがナパを見上げてそう問うと、ナパは、にやけた顔でギザを指差した。

「ま、まさか・・・・。」

「えっへん。そ、そのまさかの、や、ヤズナル・・・じゃなくて、え、えーと・・・。」

ギザに目で訴えた。すると、ちょっと恥ずかしそうにギザが、

「ラ、ラズバクトだ・・・・。」

と、口籠りながら言った。

「ははははっ」久しぶりに笑い声が響き渡る。そして、今まで忘れ欠けていたナパの姿に気付いた人々達が、3人を取り囲むように集まって来た。希望を失いかけていた人々の瞳に輝きが戻り始め、自然と笑みが零れる。そんな大勢の民の中から、一人の男がナパに近寄ってきた。

「よぉ・・・。ナパ。待ってたんだぜ・・・。」

不適な笑みを浮かべ、その男が更に近づいてきた。

この男の名はビンズ。しかし、不思議な事に、今までナパとビンズは喋った事が無いはずなのだが、と、言うより、ビンズがナパを嫌っていたはずなのに、馴れ馴れしい態度でナパの肩に手を掛けようとしたその時、突然ギザが大声を上げた。

「離れろ!」

とっさに後ろへ下がるナパ。一体、どうしたと言うのだ?

「ぎ、ギザ、ど、どうしたの?」

急な出来事で、何が何だかわからないナパは、驚きと、不安を隠せない様子でそう訊ねると、ギザは思いもよらないことを口にした。

「ナパ、もっと離れろ。そいつは人間ではない・・・・・。」

大勢の民がどよめく中、ギザが放ったその言葉にビンズが反論する。

「何者かは知らんが、俺が人間ではないだと?一体どこにそんな証拠があるんだ?」

表情を変えることなく、冷静な口調でビンズが言うと、ルクが、ある異変に気付いた。

「あ、あの時と同じだ・・・。か、影が無い・・・。」

「その通り。そいつはビンズと言う男ではない。悪魔だ。」

ギザが両手で印を結び、片足で地面に何かを描きながらそう言うと、ビンズの姿をした悪魔が、

「バレた・・・か。仕方が無い。」

と、相変わらずの無表情で言うと、どこから出しているのかわからないが、今まで聞いた事がないくらいの甲高い音を出し始めた。そしてその音は、耳を塞いでも頭の奥深くまで轟き、それが原因で失神する者もいれば、気が狂い、暴れ始める者もいた。

しかし、驚くのはそんな事ではない。その甲高い音がピタリと止み、若干の間が空くと、ありとあらゆる影からあの兵隊達が現れたのだ。そう・・・さっきの音は、仲間を呼び出す為の音だったのだ。次から次へと出てくる。数にして30体は居るであろう兵隊達が、大勢の民の輪を取り囲むよう、輪に輪をかけて集まってきた。そして、その輪の中心に居るビンズの姿をした悪魔が静かに口を開いた。

「この中に・・・秩序を乱す者が居る。よってその道具を壊さねばならない。最初にも言ったはずだが、お前達は王の為に道具として働けばそれでいい。今更ながらもう一度言うが、使えない道具は道具ではない。秩序を乱すも、それと同義語。よって、壊さねばならない。さぁ・・・・壊せ。」

そう放たれたと同時に周りを囲む兵隊達がギザ目掛けて一斉に飛び掛ってきた。

「はぁーあ・・・。ったく面倒くせぇな。」

ビビる様子もなく、余裕の表情で既に描き終えた魔法陣の中に入ると、その中に書いてある、幾つもの不思議な文字の中からそのうちの一つを選び、その文字の上に手を当てたギザ。

「はぁぁぁぁぁっ」

首筋に太い血管を浮かばせギザが力を込めると、一斉に飛び掛ってきた10体くらいの悪魔が黒い炎に包まれ、一瞬で灰になってしまった。が、休む間も無く次から次へと襲い掛かってくる。それでもギザは余裕の笑みを浮かべ、今度は隣に書いてある違う文字に手を当て、先ほどと同様、力を込めると、悪魔達の体が瞬く間に凍りつき、やがてはぶ厚い氷に覆われて、ドスンッと大きな音を立てて地面に落ち、悪魔の体ごとバラバラに砕け散ってしまった。

「雑魚が・・・・。」

息を切らす事もなく、まるで、傲慢とも言える態度で少し乱れた黒いマントの襟を直しながらギザがそう言うと、ビンズの姿をした悪魔が逃げるように影の中に飛び込み、姿を消した。

「な、な、何だったんだ・・・い、今のは・・・。」

あまりの凄さに言葉を失い、口をポカンと開けたままギザを見つめる人々・・・。


そしてその頃、アレキサンドラ王の居る宮殿では・・・・・・

「何やら外が騒がしいようだが・・・・・?」

大きな椅子にその身を置き、肉を頬張りながらアレキサンドラ王が一人の男にボソボソと口を開いた。

「心配は無用です。さっ、引き続き食事をいたたぎましょう・・・。」

多くの美女に囲まれながら男がそう返すと、王は一旦、肉を口に運ぶのを止め、一度咳払いをした。

「どうされました?」

隣にいた美女が王に訊ねると、王は、もう一度咳払いをした。

一度目は気付かなかったものの、二度目でようやく気付いた美女達は、何も言わず、その場から席を外し奥の部屋へと足早に消えていった。

「のぉ・・・ジャイロ、お前がこんな贅沢な暮らしを手に入れられたのはなぜだ?」

「はっ・・・それは王のお蔭でございます・・・・。」

少し緊張気味にジャイロが答える中、アレキサンドラ王はゆっくり立ち上がり、、部屋をうろうろ歩き回ると、もう一度ジャイロに質問をした。

「そうではない。なぜ私の目に留まり、ここに居られると思う?」

ジャイロはゴクリと生唾を飲み込んだ。

「わ、私は・・・・。」

ジャイロが言いかけた途端、伸びたテーブルの影から、先ほど逃げ出してきた悪魔がニョキニョキと姿を現した。

「ジャイロ様・・・・。妙な人間が現れたのですが、その野郎、まるでジャイロ様のような術を使うんです・・・。とても我々の手には・・・・。」

ジャイロの目つきが変わった。拳を震わせ、その悪魔を睨むと、

「貴様、手に負えんだと・・・?お前の主人は誰だ?言ってみろ!」

「ジャ、ジャイロ様です。」

「そうだ、俺が主人だ。なら言うことは聞けるよな?その為に召喚したんだ。さぁ、行って来い。」

「し、しかし・・・・・。」

「俺の、俺の言う事が聞けんのか・・・・?」

凄い形相でジャイロが睨み据えると、身の危険を感じたのか、悪魔は影の中に逃げ込もうとした。が、そんな事はお見通しのジャイロ。悪魔の足元に呪符を貼り付け動けないようにしてしまったのだ。そして、人差し指を出し、空中に網の目の様な模様を描き、呪文を唱えると、さっき空中に描いた網の目の模様が緑色に光り、浮かび上がってきたのだ。

「役立たずが・・・・。」

静かにジャイロがそう言うと、先程創り上げた宙を漂い緑色に浮かび上がる模様に息を吹きかけた。

すると、その緑色に輝く網の目状の模様がゆっくり空中を漂い、悪魔の方へと進みだした。三メートル、二メートル、どんどん近づいてくる。そして、その途中に石製のぶ厚いテーブルがあるのだが、網の目状の模様がテーブルに触れると、そのテーブルがまるで豆腐で出来ているかのようにスパスパと切れていく。あと二十センチ・・・・十センチ・・・・。

「ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁっ」

体中が升目状に切断され、ドス黒い肉がボロボロと音を立て悪臭を放ちながら、床に転がり落ちた。

「お見苦しい所を申し訳ありません・・・。新たに違う悪魔を召喚しますので・・・・。」

「いや・・・結構。幾ら召喚しても無駄だという事はお前が一番わかっているのではないのか?」

「・・・・・・・・・・。」

「行け!」

アレキサンドラ王のその言葉の後、少しの間があったが、ジャイロは王の命令通りに黙って外へと消えて行った。恐らく知っていたのであろう・・・相手が父親のギザだという事を。

そしてついに・・・・・

「・・・・・親父!」

ギザ達からおよそ、三十メートルほど離れた小高い丘の上からジャイロが叫んだ。

「ジャ、ジャイロ・・・・。やっぱり・・・・お前か。」

憎しみと言うより、悲しみに満ちた声でギザが我が子であり、弟子であるジャイロを見つめながら言うと、周りに居る大勢の民達を非難させるよう、ナパに指示を出した。

「やれやれ、少しばかり叱ってやるか・・・・。」

ブツブツ言いながら重い足取りでジャイロの方に歩いていくと、砂の下から見るからに人間の手ではない、何者かの手がズボッと出てきて、ギザの足を掴むと、砂に覆われた地面の中にいっきに引きずり込んだ。

「くっくっくっ・・・油断しやがったな親父め・・・。そいつは強いぞ。さっき戦っていた上層部のB級クラスの悪魔と違い、そいつは、中層部のS級クラスの悪魔だからな。あんまり俺を見縊るなよ・・・・。」

腕を組み、高みの見物といったところか、ジャイロが余裕の笑みを浮かべて言った。

ギザが地面の中に引きずり込まれてから数分経ったが、今だ何の反応もない。静けさに包まれたままだ。かなり苦戦しているのだろうか?S級といえば、その階層の中で、最強を誇るレベル。もしかしたら・・・・。ナパや、ルクの頭に不安がよぎる。と、そんな時、突然大きな爆音と共に、地面に大蛇の如く亀裂が走り抜けると、ヒビ割れた地面の隙間から眩いばかりの光が溢れだしてきた。

するとその直後、凄まじい爆風と共に一部分の地面が吹っ飛んだ。ポッカリと口を開けるように出来た穴から、モクモクと大量の黒煙が立ち上る中、誰かがこちらへ向かってくるではないか。しかし、黒煙に包まれていて誰だか良く見えない。が、ジャイロは微かに笑った。も、もしや・・・・・。

「ゴホッ、ゴホッ・・・おえっ。」

出てきたのは、煤にまみれ、むせ返るギザだった。

「ゴホッ、あーあ・・・。こんなに汚しちまって、これじゃ母さんに叱られちまうじゃねぇか・・・。」

怪我一つ無く、汚れを気にしている余裕の父親を見たジャイロは、自分の目を疑い、驚愕の表情で、

「う、嘘だろ・・・・?中層部のS級クラスの悪魔を相手に・・・ば、化け物かあいつは・・・?」

「ジャイロ!お遊びは終わりだ。さぁ、こっちに来なさい。」

煤を払いながらギザが言った。が、その言葉は耳には入らず、圧倒的な力の差を見せ付けられたジャイロは呆然と立ち尽くしていた。まるで魂の無い人形の様に・・・・。

「はぁー。駄目だな、ありゃ・・・・。」

見かねたギザが呆然と立ち尽くすジャイロに歩み寄ると、肩にポンと手を当て、

「母さんや、タリアが待っているぞ・・・。さぁ、家へ帰ろう。」

怒りを忘れ、優しく言葉をかけたギザ。そして、ジャイロがゆっくりと口を開いた。

「それで・・・・いい女が抱けるのか?毎日ご馳走が食えるのか?なぁ、親父、答えてくれよ・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

黙り込むギザ。ジャイロの口から飛び出してきたその言葉はあまりにも意外だったのだ。

「なぁ・・・答えろよ!何とか言ってみろよ!」

答えを急かすように問い詰めるジャイロ。それに対し、ギザはようやく口を開いた。

「それがお前の答えか・・・・。だがな、ラズバクト家に生を受けた以上、お前も知っているよな?この力を代々受け継がせねばならん。俺から、ジャイロやタリアへ、そして、お前達の子から子へ。当然そんな贅沢な暮らしを求めていたら今まで代々続いてきた我々の力が途絶えてしまう。まぁ、お前が俺を憎む気持ちは痛いほどわかる。今だから言うが、俺もそういう時期があったんだよ・・・。親父が憎くて、憎くてどうしようもない時が。そして、自分の人生を恨んだよ。どうしてこんな家に産まれて来たんだろうって。でも、それを受け入れるしかないんだよ。ラズバクト家にとって父親は憎まれ者。いずれ、お前も父親になった時にわかるだろう・・・・。俺を恨むなとは言わん。むしろ、もっと憎め、恨め。そして俺を超えろ・・・・・。」

ギザのその言葉に胸打たれたのか、ジャイロは泣き崩れ、

「ごめん・・・。ごめんよ親父・・・・、ごめん・・・。」

ホッと胸を撫で下ろし、ギザが、泣き崩れる我が子を大きな体で包み込みながら、

「いや・・・・分かってくれればそれでいいんだ。」

と、耳元で小さく囁いた。すると、ジャイロの体が小刻みに震えだし、とんでもない事実を口走ろうとしていた。

「ち、違うんだ。違うんだ・・・・。」

「何がだ?」

「違うんだ・・・・・。違うんだよ・・・・。」

「それじゃわからん!ちゃんと説明するんだ!」

ギザがジャイロの両肩を握り、グイグイ揺さぶりながら少々怒鳴り気味に言った。が、ジャイロは震えるばかりで口を開こうとしない。イラ立ちと、妙な胸騒ぎを抑え、一先ずジャイロを落ち着かせようと、言葉をかけるその時だった・・・・。

「お、俺の中に・・・・居るんだ・・・・。」

唇が微かに動く程度に、風の音に今にもかき消されそうな程の小さな声でジャイロは言った。

「ま、まさか・・・・お前・・・・。」

ギザの表情が一瞬、強張った。そして、ジャイロはゆっくり頷き、こう言った。

「退化召喚・・・・術。」


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