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アナザーワールド  作者: 新倉 砂鉄
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第2話

「さて・・・と、お話の時間は終わりだ。強くなりたいんだろ?まぁ、そうでなきゃ困るけど・・・これから調教の時間だ。」

「フッ」と、キルが一瞬で消え、ガブリエルの背後のその姿を現すと、硬く握った拳を振り落とした。

凄まじい衝撃音と共に地面に叩きつけられたガブリエル。

「おっと、失礼。ゆっくりやったつもりなんだが当たってしまったようだね。」

「テ・・・テメェ、な、何しやがる・・・」

驚いた表情でガブリエルがそう言うと、地面に這い蹲る惨めで無様なそれを見ながらキルがこう言った。

「口より体を動かしてくれないかな?キミに与えられた能力は想像して創造する事が出来る能力なんだよ。分かるかね・・・・弱虫君?」

カチンッときたガブリエル。

「うるせぇ!これでも喰らいやがれぇぇぇ!」

と、キルの方向に掌を翳した。

すると、ドォォォォォォンという音と共に衝撃波でキルが吹っ飛んだ。すかさず後を追い、今度は口元に手を当て、超至近距離からの衝撃波。

するとキルの腹が物凄い勢いで膨れ上がった。

「じゃぁ、汚い花火でも見せてもらおうか?このクソ死神め・・・・」

勝ち誇った顔でガブリエルが開いていた掌をギュッと硬く握ると、膨れ上がったキルの腹が更に膨れ上がり、

物凄い爆音を奏で、キルの体は木っ端微塵に吹っ飛んだ。

「ふはははっ!所詮お前は俺の・・・・・・」

パチパチパチ・・・・・・。

突然、後ろの方から拍手が聞こえ振り返ると、先ほど粉々に吹っ飛んだはずのキルが腕を組みながら、

「いやぁ、おめでとう・・・・、と言いたい所だがあまいな。キミが戦っていたのは、私の幻影だよ。それに、あんなほこりを撒き散らすだけの衝撃波で私を倒せるとでも思ったのか?仕方がない・・・・。想像して創造する、つまり、想像したことを実現化する・・・。己の身で覚えるがいい、これが想像して創造する・・・と言うことではないのかね?はぁぁぁぁぁぁっ。」

キルが目を閉じ、力を入れ始めると、「ブジュッ」と、ガブリエルの腹の内側から何かが飛び出してきた。なんと、その飛び出してきた物とはキルの右腕だった。そしてその右手がガブリエルの腹を突き破り、顔までぐいぐいと伸びてくると「さっきのお返し」だよと言わんばかりに衝撃波を顔面に何発も放ってきた。

「どうだい?気分のほうは?ふふふふっ・・・もっとおもしろい技を教えてあげよう。君の首から上だけに、そうだな・・・・、この世界でいう、2百㎏の重さをかけてみようか?」

と、顔面に衝撃波を放ちながら楽しげに笑い、カウントを始めた。

「じゃ、いくよ。3,2,1、・・・・」

「ゴキッ」と、鈍い音が響き渡ると、ガブリエルの首が異様な方向に曲がっていた。そしてそれでも止むことなく続く衝撃波。

「苦しいだろう。まさに生き地獄だな。この地獄から脱出するには時間を戻すことだ・・・・。私が術をかける前の時間に。と言ってもまず、クリエイティブ・ワールド(創造の世界)を創れない事には始まらないけど・・・・ね。」

「くっくそっ、こ、この、うざってぇ衝撃波さえなければ・・・こんな状況じゃ想像もなにも・・ちっちくしょぉぉぉ!おらぁぁ!!」

ガブリエルが己の腹から生えている、キルの腕を掴みながら怒声を上げると

ピキンッ・・・バリバリッと、そのうざったい腕が凍りつき、衝撃波は止んだ。

すると、キルが顎に手を当てながら「うんうん」と頷きこう言った。

「ほぉ・・そういう手があったか・・・・。じゃ、これならどうだ?ふふふふっ・・・三倍」

ミチミチ・・・・ガブリエルの首が更に異様な方向に捻じ曲がる。

「ぐっ、ぐおっ」

どうやらガブリエルの首に6百㎏の重さをかけたようだ。

「クッ、クソ、息が吸えねぇ・・・・こ、このままじゃ・・・・・。」

すると、そんなガブリエルを見ながらキルが、こんな事を言い始めたのだ。

「ねぇ、ところでさぁ、それ、本当に痛いの?だってさ、こんな言い方するのも変なんだけど、キミはもう普通じゃないんだよ。神に近い存在なのに痛さや苦しさなんて無いと思うんだけどさ・・・。」

そしてそんな問に対しガブリエルは首に太い血管を浮かばせながら掠れた声で、

「な、何言ってやがる!くっ首が折れそうなのに痛くないはずない・・・・だろ!」

ガブリエルのそんな答えに対しキルは、少し呆れた表情で、

「あのねぇ、なんて言うかね、今キミが感じている痛みは人間だった頃にこうなったら痛いはず・・・こうなったら痛かったという記憶が創り出してる仮想の痛みだと思うんだよね。まぁ、とりあえずキミの世界を創らなきゃ、クリエイティブ・ワールドをね。ふふふふっ・・・・十倍」

「うおぉぉぉぉっ・・・・」


こうしてガブリエルが悪戦苦闘している中、アゼザルはそう遠くない小さな村で・・・・・

「ねぇ、ママ。あそこに変な人が立ってるよ。」

「え?どれどれ?」

「ほら、あそこ!」

「んー・・・ママには見えないわ。」

「だってジュリには見えるのにどうしてママには見えないの?」

「きっと気のせいよ。さ、お家に帰りましょ。」

「はーい。あーあ、ジュリには見えるのになぁ。」

親子が賑わう公園にアゼザルは居た。

「やはり子供には多少の霊感があるようじゃな。まぁ、いい。とりあえずあのガキの心臓でも喰らうとするか。ウッシャシャッシャッ。母親の泣き叫ぶ顔が楽しみじゃわい。そしてその悲しみを一生背負い生きていく・・・・これがワシからの最高のプレゼントだ。」

ニタリと笑うアゼザルが枯れ木の様な細い腕をシュッと横へ振ると、かまいたちが生じ、風の刃が物凄いスピードで少女ジュリへ飛んでいく。その刃を追うようにアゼザルも凄まじい速さで移動し、風の刃が背中に当たった瞬間、まるでメスを用いたかのようにパクッと開いた。

そして、その赤く開いた口にあの細い手を突っ込み、心臓を掴み取り出すと、その傷口に手を当てた。するとアゼザルの手が青白い光を放ちあっという間に傷口が修復されていった。

時間にすると、この間わずか0.二秒。悪魔の中でも上級(支配者)レベルの技だ。

「ウッシャッシャッシャッ。我ながら上出来だ。傷口が無いのに心臓がむしり取られている。これは病気でも、その他の何にでもない。そして人間共は我々の存在に気づき、これは悪魔だ、悪魔の仕業に違いない・・・・と、毎日怯え、恐怖を感じながら生きていかねばならない。母親の顔が見ものだな・・・。」

「あれ?ジュリちゃん?どうしたの急に転んじゃって、大丈夫?」

「・・・・・・。」

「ジュ、ジュリちゃん?」

「・・・・。」

「う・・・、うそでしょ?ねぇ・・・起きてよ!いい加減にしないと、マ、ママ怒るわよ?」

「・・・・・。」

「きゃぁぁぁっ!だっ誰か!きゅ救急車、救急車呼んでぇぇぇっ。」

母親がジュリを抱きかかえて大声で叫ぶと近くを通りかかった村の男が慌てて歩み寄ってきた。

「おっ!ありゃ、タナロスさんとこの・・・、お、おい!誰か救急車呼んでやれ!」

と、その時、何者かがボソボソ・・・と呟いた。

「そんなもの呼んだって無駄だよ・・・・。」

「な、何だと?こんな時に・・・んな事言う奴はだ・・・・テ、テメェは・・・インチキ魔術師のガ、ガラム!」

「いかにも。そのインチキは余計だけどね。」

すると、先程の村の男が

「てめぇの仕業か!」

と、怒声を上げ、それに続いて娘を抱きかかえる母親が言った。

「む、娘を、ジュリを返してちょうだい・・・・」

「なになに?まるで僕がやったていう言い方じゃない?それ。」

クスクスと微笑を浮かべながらガラムがそう言うと、いつの間にかにできていた人だかりの中から一人の男がボソボソと何かを言い始めた。

「お、俺は知ってるぜ・・・、3年前の・・・あの事件の事を。俺は見ちまったんだ・・・」

すると、リーダー格の男が、

「3年前の事件?・・・・、もしかしてジョ、ジョゼフ事件のことか?」

「ああぁ・・・・」と答えると、村人達が一斉にざわめき始めた。

「お、おいおい、ジョゼフ事件にガラムが関わっていたっていうのか?で・・でも、一度ジョゼフの遺体を見たがありゃ・・・」

すると、一人の女性が突然しゃがみ込み、

「やめて・・・!もうあの人の話はやめて!やっと・・・、やっと忘れられたのに・・・」

そう、彼女の名前はミラ・ジョゼフ3年前、何者かに殺害されたイワン・ジョゼフの妻だ。そして、その目撃したという男が、足をガクガクと震わせながらこう言った。

「ミラ・・・すまねぇ、あんたの気持ちは痛いほどわかる・・・、でも俺はあの時、見ちまったんだ。しかし、このままじゃあんたの旦那ジョゼフも、浮かばれねぇよ。3年前のあの時の犯人はそこに居るガラムだ!」

「クスクス・・・何を言い出すかと思ったらそんな事かい?そうだよ・・・たしかに僕だよ。でも実際に手を下したのは僕じゃないけどね。」

「じゃ、共犯者が居たってことか?」

と、村人の一人が言うと、先程の目撃したという者が、忌まわしい記憶をたどり、語りだした。

「いや・・・共犯者というより、俺もよくはわからないんだが・・・ガラムが奇妙な円の中に入り、どこの国の言葉だか知らねぇけど、とにかく聞いたことがない言葉をブツブツ言い始めたんだ。そしたらその円の中心から黒いモヤ(霧状)のものが出てきて、そいつがジョゼフの体を包み込み、ジョゼフの悲鳴と共にそのモヤが消えちまったんだ。そしたら・・・・あんな姿に・・・・」

すると一人の女性が、

「あんな姿って、一体どうなったの?」

「ああぁ・・そうか・・あの時、女達には・・・しかし・・・ミラが・・・」

すると、ミラが重い口を開いた。

「いいの・・・別に・・・いいから、もう3年も経つしね・・・」

「あっ、ごめん、ミラの気持ちも考えずに・・・・・」

「グスンッ、いっ、いいの。」

重い雰囲気の中、突然ガラムが口を開いた。

「なんだい、なんだい?この雰囲気は?じゃ、僕が教えてあげるよ。」

ガラムが腕を組み始め、楽しげに説明を始めた。

「まぁ、最初から説明させてもらうと、彼ってさ、この村のリーダー的存在だったじゃん?で、その彼が僕にね、この僕にだよ?この村から出て行けって言うんだよ。もちろん聞いたさ。理由を。そしたら皆がお前を気味悪がってんだよ・・・だってさ。ひどい話だよね。でもそれを聞いたらついつい笑っちゃってさ、それを見ていた彼がさらにやっぱりお前は狂ってる・・・力ずくでも追い出してやるからな!ってすごい形相で僕を睨んで立ち去っていったんだよね。んでさぁ、しばらくそこに突っ立って考えたんだ。五分・・・いや一〇分位だったかな?別に出て行っても良かったんだけどさ、こんなつまらない村・・・。でも力ずくでもって言われちゃったからこっちも力ずくでも居てやるって結論に達したわけ。結論が出たら即、行動。さっき誰か言ってたよね?奇妙な円って。それは魔法陣って言うんだけど、そいつをその場に描き、悪魔を呼び出す段取りをぶったわけ。まぁ、僕等魔術師の中では召喚って言ってるんだけどね・・・・・・。」

と、突然、組んでいた腕を解き、ため息をつき始めた。

「はぁぁぁぁっ・・・。こんなに長く喋るの久しぶりだからなんだか疲れちゃったよ。面倒くさいから段取りの所は省略して、まぁ、とにかくそこにジョゼフを呼んで僕が召喚した悪魔に殺されたってわけ。一瞬でね。で、その死体を見たら笑っちゃってさ、今思い出しても笑えるよ。だって首がねじれて顔が背中の方に向いてるし、両腕が?がれ、その腕がちょうど肩甲骨あたりに接合されているし、まるで翼のようにね。まさに芸術だよ。フフフフッ・・・。」

それを黙って聞いていた村人達の我慢の限界がきているのは言うまでもない。やはり、最初に口を開いたのは、ミラ・ジョゼフだった。

「だ、誰か、誰でもいいから・・・、そこに居る人間の皮をかぶった悪魔を・・・、殺して!殺して!」

彼女はしゃがみ込んだまま泣きじゃくり、精一杯の声で叫んだ。そして、そんなミラを見ていたリーダー格の男が「グッ」と拳を握り締めこう言った。

「大丈夫だよ・・・ミラ。このクソったれを今すぐ殺してやっからよ。きっと皆もそう思ってるはずだ。なぁ、そうだろ?みんな。」

その問には誰も答えず、その場に居たおよそ20人前後の男達が無言のまま、すごい形相で前に出てきた。

すると、さっきまで得意げに話していたガラムが、

「お、おい、ちょっ、ちょっと待てよ、ぼ、僕を殺したら、こ、この村は終わりだぜ?」

と、意味深長なことを言ってきた。

「フッ、最後に出てくる言葉がそれか・・・・。」

リーダー格の男があきれた顔でそう言いながらガラムに近づき、襟首を掴んでおもいっきりぶん殴った。

バコォォッン・・・

砂ぼこりを上げながら吹っ飛んだガラムは鼻から流れ落ちる鮮血を拭いながらこう言った。

「はひぃー、はひぃー、や、やめてくれ。お、お前ら、さっきタナロスんとこのガキが倒れるの見ただろ?あ、あれは悪魔の仕業なんだって・・・・。」

すると、これまでにない大きな怒声で、

「てめぇっ!まだ懲りねぇのか!ジョゼフの次は子供か!」

男がそう怒鳴り、ガラムにもう一発かまそうとしたその瞬間、

「ま、待て、ちっ、違うんだ、違うんだってば!ぼ、僕じゃないんだって!頼むから話を聞いてくれよ!」

ガラムがビクビク震えながらそう言いい終わると、しばらくの間ができた。

そして、その沈黙を破る様にリーダー格の男が口を開いた。

「五分だ、五分だけ喋らせてやる。その中で嘘だと気付いたら殺す。まぁ、嘘でも本当でもどっちにしろお前は死ぬ運命だがな。さて、説明してもらおうか?」

ガラムはゆっくり立ち上がり、埃まみれの服をパンパンと叩きながら喋り始めた。

「こ、この騒ぎが始まる前、食料を調達しようと外に出たんだ。でもその時、なんて言うか、嫌な予感がしたんだ。こんなにクソ暑いのにゾクゾクッて寒気がして。気のせいかと思いそのままサイモンの店にパンを買いに行ったんだ。嘘だと思ったらサイモンに聞いてみてよ・・・・。」

「サイモンのおっちゃん、本当にガラムの野郎が来たのかい?」

リーダー格の男がそう尋ねるとサイモンは、

「あぁ、確かにうちの店で買い物をしていたよ。それでちょうど勘定の時だったなぁ・・・外で誰かが悲鳴を上げていたのは・・・・」

するとガラムがまた喋りだし、

「そう、その悲鳴を聞いて外に飛び出したら、タナロスがガキを抱えて泣き叫んでいたんだよ。で、上の方に何かを感じ、そこに目をやると変な奴が宙に浮きながら心臓を喰ってたんだ。あれは間違いなく・・・・悪魔だよ。」

そう言い終わると、ガラムは皆の顔色を窺い、生ツバを飲み込んだ。

ジャリッ・・・ジャリッ・・・

男が近づいてきた。ガラムは「殺されるっ」と思い、とっさに目を閉じた。

すると男がガラムの前で立ち止まり、低い声で

「目を開けろ!」と言った。

透かさずガラムはこう返した。

「いや、このままやってくれ・・・」と。

村人達が固唾を飲む中、リーダー格の男が意外なことを口にした。

「その悪魔を退治する方法はないのか?」

それを聞いたガラムはゆっくり目を開け、

「前代未聞だが・・・・、無い事は無い。」

「で、その方法は・・・?」

と、男が返すとガラムはとんでもない事を口にした。

「・・・・・悪魔対悪魔・・・・・。」

「つまり、さっきの悪魔と僕が召喚した悪魔を戦わせる。」

「貴様!そんな事を言っといて、召喚した悪魔で俺達を皆殺しにするつもりじゃないだろうな?」

リーダー格の男がそう言うと、村人達がざわめき始めた。

「いや・・・、そんなつもりはないよ。それに僕自身、興味あるしね。悪魔が悪魔と戦うか・・・。どうする?」

男は考えた。

すると、村人達が一斉に、

「おいおい、ニコラス(リーダー格の男)なに考えてんだよ!そんなヤツの言う事を信じるつもりかよ!冗談じゃねぜ!ったく。絶対俺達を皆殺しにす・・・・・」

「うるせぇ!黙ってろ!!」

ニコラスが村人達の声をかき消した。

「・・・・・・・・。」

「俺はジョゼフみたいに皆をまとめ上げる器は持ってねぇ。でも、ジョゼフが居なくなってから俺は俺なりにまとめてきたつもりだ。確かに、こいつは・・・・ガラムは信用できねぇ・・・・だからってこのままビクビク怯えて毎日を過ごせって言うのか?くそっ!一体・・・、どうしたら・・・・・。」

ニコラスが苦悶の表情を浮かべる中、突然人だかりの中の一人の老人が倒れ、もがき苦しみだした。

「ぐぐぐぐぐぇぇっ・・・、のの喉が・・や、焼ける・・・うぅぅぅっ。」

血の涙を流し、あまりの苦しみに地面に爪を立てガリガリッと引っかきまわす。そして、まるで枯れ木のように茶褐色に染まった、細く、脆い指の先端からベリベリッと爪が剥がれる音がした。そして、その老人は「ひゅぅぅ、ひゅぅぅっ」と小さく呼吸をし、まるで汚れたオイルのようなドス黒い血を吐き出し息絶えてしまった。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!あっ、悪魔だ、悪魔が疫病をばら撒いたんだ!」

「きゃぁぁぁぁ!」

まさにその通り。アゼザルがジュリを殺したすぐ後、自分の腕を?ぎ取り、それを徐に地面に置くと、その腕があっという間に腐り爛れ、その腐蝕した肉から未知なるウィルスがばら撒かれ空気中を漂い、それを吸い込むことにより感染したのだ。

そして、先ほどの老人のように抵抗力が無い者は、わずか三十分程度で死に至る。

パニックに陥った村人達を見回すと、急いで家に入る者、荷物をまとめている者、呆然と立っている者、と、様々だが一人だけ不思議な行動をしているヤツが居た。

ガラムだ。そして、そんなガラムにニコラスが怒鳴る様に言う。

「お、おい、ガラム!なにやってんだよ!こんな時に!」

「・・・・・・・・。」

ガラムは何も答えず、ただひたすら地面に何かを描いていた。

それは、まるで魔法陣にも似たような、半径1メートルぐらいの丸い円で、その中に不思議な文字が描かれており、ガラムが

「よし、出来た。」

と言って、その奇妙な円に入ると、円の中心に、銀の指輪をはめた人差し指をブスッと刺し、これまた聞いたことがない言葉をブツブツと唱えると、円の外周から淡い緑色のオーラの様な物が出てきた。

「ニコラス!なにボーッとしてんだよ、早くこの円の中に入って!」

「き、貴様!何をするつもりだ!まさかジョゼフの様に俺を殺すのか?」

ニコラスが後ずさりをしながらそう聞くとガラムが、

「何言ってんだよ、これは結界だよ。この中なら悪魔にも攻撃されないし、ウィルスも入ってこれない。死にたくなければ早く入って!」

ニコラスは慌てて結界の中に走り込み、こう言った。

「お前が言うように、本当にこの中が安全ならば早く皆も入れてあげないと・・・。」

するとガラムは唾を飛ばしながら、凄い剣幕で、

「な、何言ってんだよ!よく考えてみろよ!すでに感染してる奴をこの中に入れろってのか?そしたら僕達まで感染しちまうだろ?それに、こんな小さい結界に全員入れると思うか?」

冷静なガラムに対し、それを失ったニコラスは、ガラムの襟首を掴みながら怒声を浴びせる。

「てめぇぇっ!皆を見殺しにしろってのか?だったらもっとでけぇ結界作れよ!」

「・・・・・・・・・。」

少しの間が出来た。そしてガラムはそのうざったい手を払いのけ、静かにこう言った。

「これが・・・・、僕の限界なんだよ。まぁ、当然だよね、僕は魔術師の中でもD級と言う、下から3番目のランクなんだ。要するに下っ端って事。でも今回ばかりは僕の言う通りにしてもらうよ。まず、感染してる者は入れない。それが例え家族でも。第2に、老人は入れない。なぜなら、我々に比べ抵抗力が劣る彼らは、感染している可能性が高いため。そして最後に、そうだな、人数にして9人~12人、さっき僕が言った者以外の人、つまりこの結界に入れる人を、ニコラス、君が選ぶんだ。早く選ばないと、皆、感染してしまうよ。」

「な、何?俺が選べってのか?そ、そんな事出来るわけねぇだろ!」

「じゃ、僕達以外、皆死ぬことになるね。まぁ、僕は構わないけど・・・。」

ガラムがニコラスから少し視線をずらし、そう言うと、ニコラスは拳をギュッと握り、

「くっ、くそっ、くそっ、くそぉぉっ!皆、よく聞け!老若男女問わず、と言いたいところだが、そうも行かなくなっちまった。この村の存亡を賭ける為だ。どうか、どうか、俺の言うことを聞いてくれ!い、今から・・・、今から呼ばれた者は・・・、この円の中に入ってくれ。いいな!一度しか言わないぞ!ミラ、ロワード、ジェシカ、ゼス、ランス、ウィルソン、タナロス、ウィル、サイファー、ハロルド、それから・・・俺の弟、ハイド!」

ニコラスが名前を呼び終えると、我先に、とばかりに人ごみを掻き分けて走ってきた。

「以上、11名、この中に入ってくれ・・・・、理由は・・・、あとで話す。」

先ほどニコラスに呼ばれた者たちが順番に結界へ入っていく中、いきなりガラムが一人の人間を止めた。

「待て!君は入れないよ・・・・ハイド・・・・。」

「ちょっ、ちょっと待てよ!ふざけんなよ!いくら俺の事が嫌いでもそれはねぇだろ?」

ニコラスが声を震わせながらそう言うと、ガラムはハイドの目の辺りを指し、こう言った。

「彼は・・・・、感染してるよ。目の周りが赤くなってるだろ?それが証拠だよ。」

ニコラスはガクンッと腰を落とし、涙目でそんな弟を見ながら、

「す、砂が・・・砂が目に入って・・・擦ったんだよな?そ、そうだろ?そうだって言えよ!大体・・・、大体よ、なんで目の周りが赤いからって感染してるって決め付けるんだよ!」

すると、それまで冷静さを保っていたガラムが急に怒鳴りだした。

「さっきのじーさんを見ていなかったのか?よく見てみろよ!目の周りが赤く腫れ上がってんだろ!しっかりしろよニコラス!大体最初に言ったはずだろ?例えそれが家族でもって。しかも・・・・、周りを見ろよ。憎しみの目で僕達を見る人達、症状が出始めて苦しんでる人達、仲間同士で殴りあってる人達。もし、僕等だけが生き残っても、この地獄の様な光景を黒い思い出として胸に仕舞い込んで生きていかなくちゃならない。結局、君等にとっては、生きるも死ぬも一緒って事だよ。」

ガラムがそう言い終えると、ニコラスはゆっくりと立ち上がった。

「そんなの・・・、そんなの知るか。ハイドは、まだ・・・9歳なんだぞ。俺の・・・、唯一の家族なんだ・・・。さぁ、ハイド・・・あんな奴の言う事なんか気にしないで、早くこっちへおいで・・・。」

「に、兄ちゃん・・・・。」

「ん?どうした?」

「兄ちゃんの・・・・。」

「な、なんなんだよ?いいから早く・・・・。」

「ばか・・・。」

「え?」

「兄ちゃんのばかぁぁっ!」

「な、なに言ってんだよ・・・、ハイド。」

ハイドは涙と鼻水でグショグショになった顔で、一歩、二歩、と後ろへ下がり、

「兄ちゃん、もう・・・、やめてよ、僕は大丈夫だから・・・、それに、それに・・・僕、知ってるんだ・・・・、僕と兄ちゃん、本当の兄弟じゃないんだよね?そ、それに・・・・、うっ、ゴホッ、ゴホッ・・・。」

突然、ハイドが咳き込みだし、押さえた右手には、薄っすらと血のようなものが付着していた。

「ハイドッ!喋るな、そんなもん・・・・、兄ちゃんが、兄ちゃんが、な、治してや・・・。」

その時すでにハイドの体は、ウィルスに蝕まれていた。涙腺から薄紅色の涙が流れ、鼻からは出血が見られていた。

「ハ、ハイドォォ!」

「に、にい・・・ちゃ・・ん、ご、ごめんね・・・。ゴホッ、約束したのに・・・、僕、野球選手になって・・・、兄ちゃんを・・・、楽させるって言ったのに・・・。これじゃ、無理だね?ごめんね。それとね・・・、僕、カーブ投げられるように・・・、なったんだ。へへへ・・・。」

「ハイド?」

「・・・・・・・。」

「ハイド?」

「・・・・・・・。」

「ハイドォォォォォォォォォォッ!」


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