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アナザーワールド  作者: 新倉 砂鉄
15/21

第15話

「はっはっはっはっ・・・そういう事か。どうもおかしいとは思っていたが、お前はキルが創り出した分身ってわけだな?つまり、俺の中にお前を送り込んで外からキルが操っているわけだ。もう、おふざけはよせよ。分身自体、自分で消えることぐらい出来るだろ?」

「そんな事を言っておいて、薄々気付いているんじゃないの?僕が分身や幻影ではないって事・・・・。いや、最早そんな事はどうでもいい。僕が分身だろうと本物であろうと・・・・。さぁ、同情は要らん。早く終わらせてくれ。」

「フッ・・・。情だと?安心しろ。そんなもの俺には無い。殺る前に、なぜ右腕が無いのか?とか聞きたい事が幾つかあるが、まぁいいだろう。願いを叶えてやる。リクエストはあるか?」

「シンプル・・・イズ・・・ベスト・・・。」

キルがそう言い終えた頃、既にそれはもう終わっていた。

分厚い氷に覆われ、キルはその時の、その瞬間のまま、まるで人形の様に凍りついていたのだ。その表情はまだ何か続きを言いたげなようにも見え、ガブリエルはそんなキルを見ながらこう言った。

「シンプルでいいだろ・・・?そのまま俺の中で眠ってな。」

その直後、ガブリエルが振り返ると、そこには地面から新たに突き出た水晶のような六角柱が。そして、その中にはキルを氷づけにした内容の記憶が収められていた。が、それを見るや否やガブリエルはそれを蹴飛ばし、粉々に砕いてしまったのだ。

この行動は恐らく、表面上には現れない無意識の中だけの記憶だが、万が一何かのきっかけで、思い出すことのないように壊したのであろう。それは、キルに対する思いやりでそうしたのか、自分のせいでキルがこんな羽目になった事を思い出したくないのかは解らないが、ガブリエルの表情からは窺うことは出来ない。だが、これだけは言えよう・・・。顔つきその物は変わらないが、ガブリエルが誕生した頃の眼つき、いや、瞳を考えると、その奥からは、なんとなく優しさや温もりが感じられるのは間違いないだろう・・・。

そして、静寂な空間にガブリエルの声が響いた。

「在るべき所へ戻れ。」

無表情のまま、地面から突き出た凄まじい量の記憶を見渡しながらガブリエルがそう呟くと、それらはゆっくりと地面の中へと消えて行き、全てが戻った事を確認すると、キルの様に指をパチンッと弾いた。

そして、目の前に現れた一枚の白い扉に手を伸ばし、ドアノブにその手を掛けると、一度キルの方へ振り返るガブリエル。だが、何も言葉を掛けることなくそのままドアを開け、中へと消えて行ってしまったのだ。

ちょうどその頃、台の上で横たわるガブリエルの頬を、キルがパンパンッとガブリエルの名を呼びながら叩いていた。腐敗していた体はすっかり元通りになっていて、驚く事に、それは誘いの鏡に入ったキルが、長い階段を下り、その先にある扉の中に入ってから、つまりキルがガブリエルの意識の中に入って、一、二秒ぐらい経ってからの出来事だった。

これは恐らく、意識の中は時間の記憶は在っても、時間の流れは無いという事になるのだろう。

「うおぉぉぉっ・・・・テ、テメェ・・・何してんだよ・・・。」

突然ガブリエルが怒声を上げながら、横たわるその体を起こした。

一体、何が起きたというのだ・・・・?

そして、キルは何とも有り得ない事を口にした。

「い、いや・・・なかなか起きないから人工呼吸を・・・と思って。」

そう、ガブリエルが目覚めてその目を開けると、キルの唇がすぐそこに・・・・・。

「人工呼吸?ってか・・・・意味無いだろ・・・俺等には・・・。」

キョトンとした顔でガブリエルが言う。が、後に古びた手術室に二人の笑い声が響いた。

「フーッ・・・いや、それにしても変な夢を見ちまったよ。よくは覚えてないが、体中が腐敗してた俺に変な蟲が何匹も這いずり回っていて・・・・んで、キルが出てきたんだよ。とにかくその印象が強い夢だったな・・・・。あとは何かよく分かんねぇけど・・・・。なぁキル、俺等って夢を見るのか・・・・?」

表面上に薄っすらと残る、事実上の記憶を夢だと語るガブリエル。そして、そんなガブリエルを見つめながらその問に答えると、今度は逆にキルが訊ねた。

「夢か・・・・一度は見てみたいものだ。我々は見ることは出来ない。だが君は特別なようだね。で、その夢の続きなんだけど、その中に出て来た僕はどうなったんだい?」

事実を語ることなく、あくまでもガブリエルが言う「夢」の話に合わせるキル。だが、やはりどうしても気になるのであろう・・・。もう一人の自分の存在が。なにせ、禁術によって創り出した自分に全ての重荷を背負わせてしまったのだから。

しかし、そのキルの問にガブリエルから返ってくる答えは決まっているのだ。いや、もし何等かの奇跡で、無意識の中で起きた出来事を全て思い出したとしても、逆にガブリエルがこう訊ねるだろう・・・。

「いつ戻ったんだ?」と。

それに関する記憶はガブリエルが破壊してしまったのだから。そして、やはりガブリエルからの答えは

「・・・んなの忘れちまったよ。」

の一言で片付けられてしまった。

そして、そんな二人がインドに位置する首都デリーを飛び立とうとした頃、アゼザルは相変わらず白いスーツを身に纏う初老の姿のままで、バグダッド周辺の小さな郊外を何処で手に入れたかわからない真っ赤なフェラーリで、ドライブを楽しんでいた。しかも、その助手席には、持ち主と思われる中年の男の死体が目や耳、鼻から血を流して座っている。

「お前さんに子供は居るか?ワシには数日前に産んだばかりの子供が居たんだが、どうやら死んでしまったようじゃ・・・・。いや、なに・・・慰めの言葉は要らんよ。ウッシャシャシャ・・・。」

隣に座る死体にそう語りかけるアゼザル。だが、この内容とはもしや、ガブリエルに寄生させたウィルスの事なのだろうか?

そしてそんな頃、キルは天界へと戻り、ガブリエルはエジプトへと飛び立ったのだが、今のところ、一番目的に近いのは果たして、アゼザルなのであろうか?それとも、ルシファーは既にエジプト内に入り、サラ・ラズバクトという魔術師と接触しているのだろうか?


「ただいま。いやぁ、何だか疲れちゃったよ・・・・。あれ?ウリエルに・・・ラファエルじゃない。仕事はどうしたんだい?それにミカエルは?」

天界へと戻ったキルが、下界を見下ろせる神眼の間に居た二人に訊ねた。

「キル様、ご苦労様です。ミカエル様は只今、神とお話中にございます。よって我々が下界の様子を・・・・と申されまして。」

キルを見るや否やラファエルは片膝をつき、少し緊張気味に言った。

「へぇー・・・それはご苦労さん。じゃ、もしかして僕がここへ戻る途中、イフリートの処へ寄り道してたの見てた?」

キルがそう言うと、ラファエルは下界を監視し続けているウリエルの方をちらりと窺い、こう答えた。

「いや・・・・ちょうど私は・・・あの・・・その時、目を離していたものでその・・・・・。」

なぜか動揺するラファエル。すると、キルがわざとらしい咳払いをすると、今度はウリエルが下界を覗き込む顔をキルの方へと移し、こう答えた。

「いや・・・・私もちょうどその時は・・・・その・・・・み、見てません。」

「あのさぁ、君達・・・嘘、下手だね。まぁ、いいや。とにかくミカエルは見ていないだろ?」

「はい。」

なぜか返事だけは元気良く声を揃える二人。すると、それまで穏やかな表情のキルだったが、いきなり眉間にシワを寄せ、二人に歩み寄ると、

「君達が見た事は内緒だよ・・・。もしミカエルなんかに言ったりしたら・・・・死神が迎えにくるかもよ・・・・。」

「は・・・・・はい・・・。」

間違い無くこれは脅迫である。しかし、その寄り道した先とは一体?

「あの・・・・ちょっといいですか?」

すると、下界を覗くウリエルがボソリと呟き、それに反応したキルが歩み寄ると、またウリエルが口を開いた。

「少し前からイスラエル方面を監視していたんですが、一人、妙な人間が居るんですけど、ちょっと確認してもらっていいですか?」

足元に広がる綿菓子のような地面には、幾つかの小さな水溜りがあるのだが、その中の一つを指差しながらウリエルが言うと、キルはその水溜りを覗き込んだ。

透き通る水面には覗き込むキルの姿が映し出されていたが、次第にそれは消え、牧師の格好をした一人の若い男が歩いている映像へと変わった。

そこはイスラエル、エルサレムの旧市街。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、様々な宗教がひしめく中、その若い男は聖書を片手に、キリスト教徒地区内にある教会の前を歩いていた。

すると、その男と同じ格好をした少し太り気味の牧師が、逆方向からこちらへ向かって教会方面へと歩いて来ると、すれ違いざまに男は、太った牧師を呼び止めた。

「やぁ・・・同志よ。君は主に使えてどれくらい経つ?」

その顔に似合わない低い声で男は訊ねると、太った牧師は軽くお辞儀をし、

「そうですなぁ・・・・六年とちょうど二ヶ月になりますかね。」

と、下がったメガネを直しながら言った。

すると、男は微笑を浮かべながら太った牧師の周りをゆっくり一周回り、また所定の位置に戻ると、その顔を太った牧師の顔の近づけ耳元でこう囁いた。

「それで・・・・・御利益はあったかね・・・?」

太った牧師はその驚愕の言葉に耳を疑い、額から胸、左肩から右肩

へと十字をきりながらゆっくりと後ろへ下がった。

「いや、これはすまない。悪気があって言ったわけじゃないんだ。ところで・・・・その手に持っている物はなんだね?私にはどう見てもポルノ誌にしか見えんのだが・・・・。」

更に若い牧師が、蔑むようないやらしい眼つきで、太った牧師が手に持っている聖書を見ながら言った。が、最早、返す言葉も無く、軽蔑の眼差しでその場を後にする太った牧師。

そして、教会の扉の前で立ち止まった太った牧師は、何気なく手に持つ聖書を開くと、全てのページが裸体の女の写真や、男女の淫らな行為が写る写真へと変わっていたのだ。

慌てて地面に叩きつけ、人目を憚らず叩きつけたそれを足で何度も踏みつける太った牧師。だが、その光景は聖書を教会の目の前で踏みつける異常な牧師にしか見られず、近くに居た別の牧師や信者に取り押さえられ、ボコボコにされた挙げ句、牢獄にぶち込まれてしまったのだ。

その後、言い訳を聞いた他の牧師が確認したが、もちろんそれはポルノ誌ではなく、普通の聖書だった。

異様な笑みを浮かべながらその光景を見ていた若い牧師は、小さく鼻歌を歌いながら人ごみの中へと消えていってしまった。

そして、天界からこれらを見ていたキルが首を傾げていた。

「確かにおかしいね・・・・。だがルシフェルではないだろう。それほどの魔力は感じられない。どんなに魔力を抑えていてもあの力は隠しきれないよ・・・・それがたとえ本体のほんの一部でもね。恐らくあれは低級な悪魔か何かが取り付いているだけだろう。」

キルがそう言うのならば間違いないだろう。だが、逆にそれほどの魔力を持つ者ならば、簡単に天界から探せるはずなのだが、なぜかその居場所を捉えることが出来ない。

一体ルシファーは何処で何をしているのだろうか・・・?

そして、その頃ガブリエルはというと・・・・

大きな翼を羽ばたかせ、遥か上空を飛んでいた。そのスピードは凄まじく、あっという間にインドとパキスタンの国境辺りまで来ていた。この調子で順調に行けばアゼザルを追い抜き、先に到着できるだろう。サラ・ラズバクトのもとに。

そして、更にそれから六時間あまりが経過した頃、日は沈み辺り一面が暗闇に覆われ、月明かりが照らす中、ガブリエルは順調に進んでいた。

眼下に広がる砂の海。そこはネフド砂漠。その遥か上空を行くガブリエルはなぜかここでスピードを落とし、低空飛行を続けたのだ。鋭く尖った耳をピクピクと動かし、鼻を利かせながら何かを探っているようだが・・・・。そして、それがしばらく続くとガブリエルの動きが止まった。

「何か臭ぇな・・・・。」

地面から三メートルほどの高さで宙に浮きながら頻りに匂いを嗅いでいるガブリエル。そして、ゆっくり地面に降り立とうとしたその時、砂の中から何者かが物凄い勢いでガブリエルに襲い掛かって来たのだ。だが、その力は歴然としていた。

多少驚いたガブリエルだが、虫を払う様に軽く振った腕がそれに当たると、一発で首が?げてしまった。

「だ、旦那・・・・旦那・・・。」

?ぎれた頭部が掠れた声でそう叫ぶと、ガブリエルは地面に転がるそれをグシャリと踏み潰した。

いきなり襲い掛かってきたそいつの名はグール。とても視力が弱く、体中が老人のようにしわくちゃで細い。こげ茶色の肌に覆われていて髪は生えていない。主に砂漠地帯に生息している低級な悪魔。

そして、ガブリエルがグールの頭を踏み潰してから数秒後、突然地面が激しく揺れだすと、一部分が陥没し、そこからまた別の何者かが現れた。

「なんだ貴様・・・。俺様の可愛いペットを殺しやがって。ここは俺の島だ。今すぐ立ち去れ。」

砂の中から現れたそいつの名はパズズ。どうやらグールが「旦那」と呼んでいたのはこいつらしい。ライオンの頭と腕、鷲の足とサソリの尾を持ち、背中には翼。地獄では名の知れた強大な悪魔のうちの一人らしい。

「何だって?ここがお前の島・・・?誰が決めたんだ?権利書を見せてみろよ。権利書を。」

何が目的かは分からないが、ガブリエルはパズズを煽るように言う。

すると、パズズは地面に転がるグールの腕を?ぎ取り、それをムシャムシャと喰いながら

「ずいぶんとでかい口を叩くじゃねぇか。まぁ、今のうちなら見逃してやる。さっさと帰んな・・・・。」

パズズはガブリエルを舐める様に下から上へと視線を流すと、軽く鼻で笑い、喰いかけたグールの腕をガブリエルに投げつけた。

だが、その時そこに居たはずのガブリエルの姿はなく、パズズが投げた腕が地面に落ちる前に、ガブリエルはいつの間にか後ろへと移動し、右拳がパズズの後頭部にめり込んでいたのだ。

しかし、それによって驚いたのはパズズではなく、ガブリエルの方だった。右拳がパズズの後頭部を捉えたのは確かなのだが、その衝撃によって飛び散ったのは砂だった。

そう・・・パズズの体は全て砂でできていたのだ。

そして、頭部を失ったパズズの体は、微かに吹く冷たい夜風に乗り、サラサラと徐々に崩れ、砂漠の砂の一部になってしまった。

「俺を見縊るなよ・・・・。」

何処からともなく声が聞えると、砂の中から、またパズズが現れた。しかも、それと同時に、異変を感じたガブリエルは自分の足元を見てみると、砂の中から生える、またパズズとは別の腕が両足首を掴んでいるではないか。

「驚いたか・・・・?」

新たに現れたパズズが、身動きの取れないガブリエルに近づきながら、万遍の笑みで言う。が、それに対しガブリエルも、それに負けないくらいの笑みを浮かべながらこう返した。

「あぁ・・・・驚いたよ。あまりの芸の無さにね・・・。」

だが、パズズの表情は先程と変わらず、ニヤニヤと笑いながらガブリエルの目の前でその歩みを止めると、

「確かに・・・・だが芸は無くともお前に俺は倒せない。解るか?」

と、唇と唇が触れそうなほど顔を近づけながら言った。

それに対しガブリエルは言葉ではなく、不敵な笑みで返すと、目の前に居るパズズに軽く息を吹きかけたのだ。

すると、あっという間にパズズの体は凍りついてしまい、開いていた右手の掌をグッと握ると、ガチガチに固まったパズズの体は粉々に砕け散ってしまった・・・が、まだ地面から生える手は、しかっかりとガブリエルの両足首を握り締めているではないか。

「無駄だよ。だから言ったろ?お前には倒せないって・・・いや、誰も俺は倒せないの方が正しい言い方だな。言葉の綾ってヤツだ。」

そう豪語するパズズだが、その姿はまだ見受けられない。

「へっ・・・何だかんだ言ったって、さっきから逃げてるだけじゃねぇかよ。口だけのオカマ野郎か?」

辺りを見回しながらガブリエルが言うと、それは音も無く、静かに現れた。ガブリエルの背後の砂が盛り上がり、その中からパズズが現れると、右腕を天に高々と突き上げた。

「ぐおぉぉっ・・・。」

それと同時にガブリエルの表情が苦痛に変わり、それは一瞬で終わった。

パズズが右腕を天高く掲げた瞬間、足元に広がる砂から、先の尖った砂製の長い杭の様な物があらゆる方向から突き出し、ガブリエルの体を串刺しにしてしまったのだ。

苦痛に耐えながら、視線をゆっくり自分の体に移すガブリエル。そして、腹部から突き刺さり首の付け根へと貫通するそれを震える両腕で握り、砕こうとするがそれは鉄のように硬く、残された力では到底無理だった。

最早、自分の足では支える事すら出来ず、体に何本も突き刺さるそれに支えられ、ようやく立っている感じだが、とうとう限界が来てしまったようだ・・・・。最後の力を振り絞るかのよう、翼を大きく広げると、花が萎む様にガブリエルの背中でそれは小さく折りたたまれてピクリとも動かなくなってしまったのだ。

まだ復活して間もないガブリエル・・・・。アブソルート・ワールドはおろか、クリエイティブ・ワールドを使う間もなくやられてしまった。まさかアゼザルの他にこんな悪魔が地球上に存在していたとは・・・。

「何だもう終わりか?グールの代わりにお前を使ってやろうと思ったんだがこの様じゃなぁ・・・・使い物にならねぇよ。」

両腕をダラリと下げ、俯いたまま動かないガブリエルにパズズがそう言いながら、鋭い爪で軽く肩の辺りを触れた瞬間、何とガブリエルは砂のようにボロボロと崩れて跡形も無くなってしまった。

「はっはっはっはっ。ビビってんじゃねぇよ。このオカマ野郎が。

どうだ・・・?なかなかいい芝居だったろ?何だか誰かさんに似てきちまったような気がするが・・・・まぁいい。さてと、お遊びは終わりだ。時間が無いものでね。お前が目的ではない事が分かればさっさと始末するのみ。覚悟はいいか・・・・?」

そう言いながらパズズの様に砂の中から現れたのはガブリエルだ。

驚愕の色を隠せないパズズを尻目に、肩に積もる砂を払い終えると、右腕でまるで窓を開ける様な仕草を見せた。すると、その右腕の動きに合わせて風景が物凄いスピードでスライドし、何処が床で何処が天井なのかも解らない、全てが真っ白の空間に一変したのだ。

「どうだ?お前のつまらない芸とはレベルが違うだろ?ちなみにお前のその体を構成するそれは最早、砂ではない。見た目はそうに見えるが・・・・俗に言う砂鉄というヤツに変えてやったよ。だから転ばないほうがいいぜ。床は磁石だからな・・・。」

「へっ・・・だから足が動かないわけだな?だがこれくらいどうって事ないぜ。」

窮地に追い込まれたはずのパズズだが、なぜかその表情には余裕が残っているように見えた。

すると、風も無く、音も無いこの空間に「サァァァッ・・・」という奇妙な音が聞えると、パズズの頭部から、それはまるで煙の様に砂が舞い、やがては足首の辺りを残して原形をとどめない大量の砂が白い空間に漂い、残る足首の部分は磁力によって吸い寄せられる砂鉄特有の刺々しい形状のまま残っていた。

「このくらい造作も無いことよ・・・。俺に喧嘩を売ったのが間違いだったな。まぁ、もう遅いが・・・。」

不気味にパズズの声が響き渡る。と、その瞬間、宙を漂う大量の砂がガブリエルめがけて飛んでいったのだ。

あっという間にガブリエルの体を包み込んでしまったパズズ。一体、これから何が起きるというのだ?

ガチャッ・・・

すると、何やら扉が開くような音が聞えたが・・・・。

その方向に目をやると、目を凝らさなければ見えないような、白い空間に佇む白い扉が・・・。しかもドアノブまで白いではないか。

ギィィィィィッ・・・・

歯切れの悪い異様な音と共に、ゆっくりと開くその扉の向こうは暗闇だ。そして、暗闇の奥からカツッ・・・カツッ・・と足音が近づいてくる。

「よぉ・・・一人でなに遊んでんだ?」

そう言いながら暗闇の奥から現れたのはガブリエルだ。

バタンッと扉を閉めると、その扉をしばし見つめるガブリエル。

「チッ・・・俺としたことが色を加えるのを忘れちまったぜ。まぁ、どうでもいいか。ところで一つ言い忘れていたが、お前が纏わり付くそれも磁力を帯びる物質でね・・・・」

白い扉からゆっくり視線を移すガブリエル。その右手には激しく燃え盛る紫色の炎。そして、その先にはガブリエルに纏わり付いたはずのパズズが、離れようにも離れられない無様な姿でもがいていた。

ガブリエルを象ったオブジェとも言えるそれに、びっしりと隙間無く砂で覆ったパズズは、顔の部分に砂模様で自らの顔を作ると

「クソッ・・・・俺の負けだ。あんたを見縊っていたよ・・・。」

と、どこか悔しそうな表情で言った。が、ガブリエルは右手の掌で燃え盛る紫色の炎を更に大きく、激しいものにすると、無表情のままでこう言った。

「だからどうした?残念ながら俺には情というものが無くてね。」

パズズの顔に紫色の炎を近づけ、冷たい声が白い空間に響き渡った。

「ま、待て待て待て待て、ちょっと待ってくれよ・・・・。頼むから勘弁してくれ。大体喧嘩を売ってきたのはあんただろ?それに目的じゃなかったとか何とか言ってたじゃねぇかよ・・・。あんたの目的が俺じゃないなら別にいいだろ?その目的ってヤツは一体何なんだよ?それについて俺が知ってる情報なら幾らでも教えてやるからよ。とにかく落ち着けって・・・・。」

パズズの怒号にも似た声が響き渡ると、しばしの間が空いた。

「ほう・・・・・取引ってヤツか・・・?」

パズズに近づける炎を離し、ガブリエルがボソリと呟いた。

「わ、分かるじゃねぇか。まぁ、そんなところだ。」

「では早速質問しよう。だが、もしくだらない答えが返ってきたらその時点で取引は不成立だ。それを頭に入れ、よく考えて答えを出すんだな・・・・。それでは質問させてもらうぞ。ある魔術師を探しているんだが、それについて何か知っているか?」

「ああ・・・・知っているとも。何を隠そう俺は奴等に召喚されたんでね。まったく迷惑な奴等だよ。だが奴等には銀の指輪があるからさすがの俺も逆らうことは出来ねぇ。お前さんも知ってるよな?左手の中指にはめてあるそれをわざとチラつかせやがる。まぁしかし奴等の願いを叶えてやった代わりに俺はこうして・・・・・」

パズズが得意げに話を進めていると、突然ガブリエルの右手に燃え盛る紫色の炎が・・・・・

「てめぇ・・・話を聞いてなかったのか?そんな事はどうでもいいんだよ。今度くだらねぇ話をしたらマジで焼き殺すぞ・・・んで、お前を召喚したヤツの名前は?」

「す、すまねぇ。つい興奮しちまってよ。で・・・あ、そうそう名前か。俺を召喚した人間個人の名前は知らねぇが確か、ペンタクル教団って名前の結社の中の一人だったよ。俺が召喚された時は、六、七人くらい居たな・・・魔術師が。場所はエジプトにあるベニスエフって町だ。だが、何の用があるんだか知らねぇが、奴等には手を出さないほうがいいぜ。まぁ、嘘か本当か分からねぇが、最近風の噂で聞いちまってよ・・・・。そのペンタクル教団で一番権力を握ってるダニスって野郎が、あのアスタロトを味方につけたらしいぜ。俺も地獄で一度だけ会ったが、あいつはレベルが違うよ。なんたってサタンの右腕って話だからな。まぁ、その噂が本当ならアスタロトを操るつもりが逆にいいように使われるのが落ちだがな。」

すると、ここでガブリエルがボソリと呟いた。

「その何とか教団の中に、サラ・ラズバクトという名の魔術師は居たか?」

「いや・・・・知らねぇな。だが、もしそいつが凄腕の魔術師ならペンタクル教団に居る可能性は高いぜ。なんでもダニスって野郎が凄腕の魔術師を探しまくっては勧誘してるって話だからな。まぁ、勧誘というか、そこに居る連中はほとんどがダニスの特殊な魔術で洗脳されているって話だが、どこまで本当なのかは分からねぇ。」

パズズがそう言い終えると、眉間にシワを寄せ何やら考えている様子のガブリエル。どこか腑に落ちない点でもあったのだろうか?

しばらく静寂な時が流れると、渋い顔から一変、ニヤリと笑いながらガブリエルが口を開いた。

「なるほど・・・・そういう事か。まだルシファーは魔術師を見つけちゃいねぇ・・・。それどころか必死になって探し回ってるってわけだ。まず、俺様の推測からいくとサラ・ラズバクトという魔術師は、その何とか教団には入っていないはずだ・・・。んで、アスタロトってヤツは自分が人間に召喚されるよう、何等かの方法で人間とコンタクトを交わし、それが現実のものになった。だがそれはアスタロト本人の意思ではなく、地獄に居るルシファー本体の命令でね。そして、地上に召喚されたアスタロトは召喚者を操り、ラズバクト家の血を引く者を探し出せって仕事を与えた。だからその教団の奴等は貴様らの様な多少名の知れた悪魔を召喚しては有利な魔術を教えてもらい、未だに血眼になって探している。だが、どうも腑に落ちない点が一つだけあるんだよな・・・・・。キルの話だとサラ・ラズバクトという魔術師は業界で右に出る者は居ないってくらいの半端じゃねぇ力の持ち主らしいが、それだけ名前が売れているのならば、見つけるのは容易なはず・・・・。」


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