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アナザーワールド  作者: 新倉 砂鉄
1/21

black bible

すみません。

一度投稿したのですが、変な投稿の仕方になってしまったので

もう一度投稿します。

かなりの長編ですが宜しくお願いします。


「本当にあのような人間に任せてよろしいのでしょうか?」

「うむ・・・・仕方あるまい。私が直接人間界に行く訳にはいかんからな」

「ですが、私としてはあのような人間に任せるのは納得いきませぬ」

「じゃあ、ミカエルよ・・・お前がルシファーと戦うか?お前は二代目の大天使長だが、初代だったルシファーはお前を超えるずば抜けた力を持っていたぞ。まぁ・・・その為に自分の力を過信し、神である私に戦いを挑んできたんだがな。」

「確かにおっしゃる通りです。神であるあなたに敗れたルシファーは、天を追放され堕天使となり、地獄の底へと叩き堕とされました。しかし、大天使長の頃とは比べ物にならないくらい力が落ちたはずでは・・・・?」

「うむ、確かにその通り。だがヤツも何もしてなかったわけじゃない。傷を癒した後、当時、地獄で最強と謳われていた「ベヘモド」を倒して喰ったそうだ。恐らくもっと力を付けてもう一度ここに来るだろう。」

「じゃ、「悪」には「悪」でいいんですね?誰に向かわせます?」

「死神の「キル」はどうだ?」

「・・・伝えておきます」


月明かりが照らす深い森の中・・・・

惨劇という名の幕が切って落とされた・・・・

漆黒の闇の中、口に粘着テープを貼られ、両腕を縛られた若い女の姿が・・・・。その瞳からは大量の涙が溢れ出し、何かを訴えているかのよう。

そして、そんな彼女の視線の先には、異様な笑みを浮かべたライラス・バートンの顔が、木々の間から差し込む月明かりに照らされて不気味に浮かんでいた。

短めのスカートから生える白い美脚を伝い、透明で暖かい液体がジョロジョロと流れ落ちる中、「ゴツッ・・・」という鈍い打突音が響き渡ると同時に、鼻から夥しい量の血液を流しながら湿った土の上に崩れ落ちた。

「この幻滅感がたまんねぇぜ・・・。あの綺麗な顔が一瞬で潰れちまった。なぁ・・・おい、聞いてんのか?」

地面に寝そべるそれにまたがり、ライラスはそう言うと、右拳を振り上げ、もう一度それを彼女の顔面に叩き込んだ。

小刻みに痙攣する彼女を見つめながら、嘲笑するかのよう軽く鼻で笑い、真っ赤に染まった粘着テープを一気に剥がした。

「最後になんか言えよ・・・・。」

「かはっ・・・かっ・・・・かかっ・・」

言葉にならないそれに耳を傾け、頷きながらライラスはこう続けた。

「なるほど・・・それは早く殺してくれって意味だな?」

そう放った言葉が闇に吸い込まれ、静寂が訪れた中、闇夜にキラリと浮かび上がる何かががライラスの左手で不気味な光を放ち、やがてそれが激しく上下した。

既にただの肉塊へと変貌したそれに鋭利な刃物を幾度と突き刺すライラスの表情は眼を見開き、エクスタシーを通り超え絶頂に達していた。

それからどれくらい経った頃だろう・・・・

激しく上下していた腕をダラリと下げ、赤い塊にまたがったまま黒色に染まる上空を呆然と見上げていたライラス。

荒く乱れた吐息を整えているのか、それとも快感という余韻に浸っているのか、呆然とするライラスの目に何かが映り込んだ。

まるで自分の眼を疑うように擦っては何度も見直しするその視線の先には梟が飛んでいるではないか・・・・・いや、飛んでいるのではない。翼を広げたまま止まっていたのだ。

気付けば、鳴り響いていた虫達の鳴き声もいつの間にか止んでいた。

そして、真の静寂が訪れたその時、今まで聞いた事も無い様な冷たく低い唸り声が聞えてくると、それが遠くから近く、さらに近く、そして、耳元で止まった。

とっさに目を閉じたライラス。そして今、目を開けて前を見れば、そこに「何か」が居ることは、分かっていた。

恐怖を感じながらも「何が」居るのかという好奇心でゆっくり目を開けた。

ライラスが見た物とは、いや・・・・見た生き物とは・・・・黒いボロを身に纏い、皮膚は腐り爛れ、腹からは腸の様な物が飛び出し、微かに見える顔には蛆が湧いている人間とは決して呼べない生き物が目の前に佇んでいた。

これにはさすがのライラスも恐怖を覚えたのか、ガタガタと震えだすと、目の前のそれが口を開いた。

「私が醜いか?見る者の心が腐っているほど醜く映る。ん?どうだぁ?ふははははぁぁ・・・。」

と、蛆だらけの顔を近づけ不気味に笑うが、その口から放たれた口臭は生臭く、血や臓物の匂いに似ていた。

そして更に、その醜い生き物が顔を近づけ

「私は死神というやつでな・・・ん?その意味はわかるな?」

と低い声で耳元で囁いてきた。

ライラスは震える体を「グッ」と押さえ

「あぁ、お、俺を殺しに来たんだろ?」

と、顔を背けて言うと、死神と名乗る者がニヤリと不気味に笑いながら更にこう続けた。

「なかなか感が鋭いじゃないか・・・。しかし、そう焦る事は無い。

私も今日は例外という仕事を任されていてな・・・。何分にもお前を調べる間も無くここへ寄越されたもので、お前の情報を何も持っていない。悪いが少々時間を貰うぞ・・・。」

そう言い終えた死神は今にも折れてしまいそうな指を「パチンッ」と鳴らした。

すると、突然、大きな古びた本が「ボンッ」と現れ「どれどれ・・・」と言いながらページをめくり始めた。

「これは素晴らしい。既に五十三人も殺してきたのか・・・。ん?

いやいや・・・失礼。足元のそれを含めると五十四人か。まぁ、今更こう言うのもなんだが・・・殺し専門の私から言わせてもらうと

お前には美徳が足りないようだな。そう・・・殺しにも常に美を意識して実行した方が尚楽しいぞ。」

不敵な笑みを浮かべながらそう言い終えると、バタンッと本を閉じ、スーッと死神がライラスの胸に手を当ててきた。

すると、その手が「ジュルジュル」と音を立てながら吸い込まれる様に胸にめり込み、ライラスの心臓を掴んで取り出した。そして、尚も動き続けるその心臓をまるで林檎のように掌の上で「ポン・・ポン・・」と弾ませながら、死神がこんな事を言ってきた。

「先程お前を調べた結果だが・・・・この心臓を潰す事にした。まぁ、美に適おうが適うまいがそれは論外として、死に値する大罪を犯し続けてきた当然の結果だ。しかし、先程も言ったが、今回は例外というヤツでな・・・・。お前にチャンスを与える事が出来る。」

掌の上で、激しく鼓動するそれを見つめながら死神がそう言うと、ライラスが意外な事を口にした。

「上等じゃねぇか・・・・。早く殺せよ・・・。」

パチパチパチッ・・・・

すると突然、拍手が鳴り響いた。

「おぉぉぉっ・・・ワンダフル!それじゃリクエストにお答えして最高の死をプレゼントしようじゃないか!」

死神がまた指を「パチンッ」と弾くと、森だった風景が一変し、稲妻が迸る暗闇の世界に変わってしまった。

そこは、自分の手が何処にあるのかさえも分からない視界ゼロの闇の世界。

すると、そんな漆黒の闇に轟音と共に稲妻が走り抜けた。

目が眩む程の強烈な閃光が辺りを一瞬照らした中、ライラスの目に飛び込んできた光景は異常なものだった。

先程の死神がこちらを睨め付けながら、大量の蛇や蟲を口から吐き出しているではないか。

異様な寒気を覚えたライラスは慌ててその場を離れるが、何も見えない為、何処を走っているのか判らず、終いには転んでしまったのだ。そして、そんなライラスの顔に、何匹かの蟲がたかると、それらが鼻の穴や涙腺に潜り込み、更に尻の穴や耳の穴、とにかく穴という穴から何匹もの蛇が入り込みライラスを喰らい始めた。

凄まじい激痛のせいか、慟哭の様な奇声を上げてのたうち回るライラス・・・。

それからどれくらい経った頃だろう・・・・

遠のく意識の中で、微かにパチンッと指を弾く様な音が聞えると、

気が付けば先程の森の中に戻っていたのだ。

目を丸くし、息を荒くするライラスを前に、ほくそ笑みながら死神が静かにこう言ってきた。

「お前は死ぬだけでは済まされない。さっきは戻してやったが、本来ならば死ぬ間際になったらまた最初に逆戻り。その繰り返しを永遠に味わうのだ。」

すると、額に浮かぶ大量の汗を拭いながらライラスは荒く乱れた息と共にこう放った。

「はぁ・・・はぁ・・このクソ野郎・・・何がチャンスだ・・・これじゃ強制じゃねぇか・・・。」

「さっきのが嫌なら別のバージョンもあるぞ。そっちも試してから決めるか?」

震える拳を握り締め、何も答えないライラスの頭の中では既に答えは決まっているのであろうか・・・?そして、異様な沈黙の中、それを切り裂くように死神が口を開いた。

「本来ならば先程の様に、お前は私が創り出した死の世界で永遠に苦しむはずなのだが・・・・あるお方の命により、お前には生きてもらわなければならない。」

「誰だよ・・・そいつは?」

ライラスがようやく口を開くと死神が「ぐわっ」と目を見開き、

「神だ。とにかくお前に与えられた道は一つしかない。」

と、何やら袖の下から妙な液体が入ったビンを取り出し更にこう言った。

「これを飲め。まずはそれからだ・・・数日たったらまた来る。あぁ、それと、お前の心臓は預かっておくぞ。」

そう言い残し、死神はスゥゥゥッと静かに消えていったのだ。

バサバサバサッ・・・・

「・・・っとビビッた。さっきの梟か。それにしてもあのクソ死神め、一方的に話を進めやがって・・・。って言っても逆らえば死の世界で永遠なる苦痛・・・か。ムカつくが仕方ねぇ・・・こいつを飲むか。」

ゴクッゴクッゴクッ・・・


ジリリリリリリリィィィッ

「うぉっ・・あ、朝か。何だったんだよさっきの夢は・・・。って、おいおい、手と服が血まみれじゃねぇかよ・・・そうか、昨日あのメス豚をぶっ殺して、そんで変な野郎が現れて・・は?え?なに?ってことは、夢じゃないって事?いや、まさかそんな・・・まぁ、別にいっか。さて、今日はどんな狩りをしてやろうかなぁ?」

♪俺様は狩人〜、ララララ〜、早く殺りたいな〜♪

♪あなたの悲鳴がなによりの〜・・・♪ 

「ぐ・・ぐおぉぉ・・・な、なんだってんだ・・・。」

ドクンッ・・・ドクンッ・・・

「はっ・・はうっ・・む、胸が・・・・」

ドクンッ・・・ドクンッ・・・

突然、胸に激痛が走りあまりの痛さに転げ回り、ライラスは気を失ってしまった。

それからどれくらい経った頃だろう・・・?気が付くと床の上に転がっていた。

「いっ、いててっ、くそぉ、何だったんだ今のは・・・?」

立ち上がろうとしたその時、自分の体を見て愕然としたライラス。全身の肌が青白く、髪は銀髪で腰まで伸びており、肩幅、胸板、そして目線までもが「今まで」とは異なっていた。

すると突然、背後から何処かで聞き覚えのある声が・・・・

「くっくっくっ・・。おめでとう。新たな「キミ」の誕生だよ。」

「うっ・・テ、テメェ!」

いつの間にか、部屋の片隅にこの前の死神が立っているではないか。そして、その死神が腕を組みながらライラスを舐める様に見回すと不思議そうな顔で、

「あれれ?肝心な物がないなぁ。」

と、意味深な言葉を呟いた。

「うるせぇっ!てめぇ・・・俺に何しやがった!」

ライラスが怒鳴り散らすと、突然ガタガタガタッと部屋が激しく揺れ始め、周囲のガラスや鏡がバリンッと粉々に砕け散る中、

「止まれ・・・」

と死神の小さな声が聞えた。

すると、さっき粉々に吹っ飛んだガラスや鏡の破片が床には落ちずに空中でピタリと止まり、全ての物音が消えた。どうやら、時間を止めたようだ。

「こうでもしないと、話を聞いてもらえそうにもなかったんでねぇ。とりあえず体は動かなくとも、耳だけ聞こえるようにしといたから、そのまま聞いてくれない?ちなみに、ここはキミの部屋だと思っているようだけど、実際は私が創り出したキミの部屋に似せた部屋なのだよ。まぁ、クリエイティブワールドって言うんだけどね。キミも一度入ったことあるだろ?簡単に言うと、この空間の中では、私が思ったこと、創造したことが全て出来るんだよ。あっ・・別に自慢してる訳じゃないからね。で、本題に入りたいんだけど、キミが飲んだ液体は「神の血」なんだ。だからそれを飲んだキミは、最早神・・・!とまではいかないけど、それに近い力が使えるわけ。まぁ、と言っても、その力の使い方がよく分からないとは思うんだけど、ん・・・なんて言うか、実戦で覚えるしかないからさ。でもその前に死んだらどうする?って思ったかもしれないけど・・・・」

と、死神はニヤニヤ笑い、雪の結晶のようにキラキラ輝きながら空中に浮いている無数のガラスの破片を手にすくい、それを口元に当て「フゥーッ」と吹きかけてきた。

すると、そのキラキラと輝く破片がまるで散弾銃のように、物凄い勢いでライラス目掛けて飛んできた。

ブジュジュジュジュッ・・・・・

あっという間に、皮膚は剥がれ落ち、肉片が飛び散り、ライラスの体はただの赤い塊りになってしまった。声も出ず、ただただ痛みに耐えていると

「ジュクジュク、ジュル」と、音をたて、すぐさま新しい「肉」「筋肉」「皮膚」が再生された。

「この通り。キミの肉体は不死身なのだよ。大体分かってくれたかな?それとねぇ、キミの体には大事な物が一つ足りないんだよ。私がそれを出してあげるから、ちょっと我慢を・・・。」

死神がライラスの背後に立ち、両肩の、肩甲骨あたりに切れ目を入れると、そこに手を入れ始めた。

「何処だ何処だ?」

と、ライラスの背中の中を何やら探してるらしいが・・・・

「あった。いくぞ。引っ張り出すぞ。」

と言い、なにかを引っ張りだした。

背中が裂けた瞬間、その何かがバサッと勢いよく飛び出してきた。

その、何かとは、まるで鴉のような真っ黒い翼だった。そして死神は、そのライラスの変わり果てた体をマジマジと見つめながら、

「いやぁ・・・男前になったじゃない。ちなみにこの姿じゃ表に出られないなんて心配は無用。普通の人間には見えないし、鏡にも映らない。つまり、私が心臓を持ち去った時から君は既に普通の存在ではない・・・。そして、そんな君に大仕事を成してもらいたい。

報酬は心臓を返し、君が犯し続けてきた罪をゼロにする・・・・。

いい話だろ?私が創り出した死の世界で永遠の苦痛を味わうはずが、

一からスタート出来るなんて・・・。まぁ、余談はそこまでにして

そろそろ本題に入る。君に与えられた仕事とは、ルシファーという名の悪魔の野望を阻止する事。まぁ・・・つまりはその悪魔を葬り去ってくれって事であり、その為にその身体を与えた訳。そしてこの世にはライラス・バートンという名の人間はもう存在しない。今この時から君の名はガブリエル・・・・そして、これから私をキルと呼びたまえ。すまないが私もいろいろと忙しい身でね・・・詳しい話はまた次回で・・・。それでは失礼するよ。」

「パチンッ」

指を弾く音と共に現実の世界に戻り、死神も消えていた。

「チッ・・・相変わらず一方的だな・・・。しかもガブリエルなんて変な名前を付けやがって・・・。まぁ、これも一時の屈辱か。要するにルシファーって悪魔をぶっ殺せば、永遠の苦痛とこの屈辱から開放されるんだ。簡単な話だぜ・・・って、おいおい・・・この広い地球上でどうやって探すんだっての?たった一体の悪魔を。」

不安げにそう言いながらもガブリエルは黒く大きな翼を広げ、大空へと飛び立って行ったのだ。

そして、初めてその身体を操っているとは思えないほど、軽快に大空を飛び回るガブリエルの表情は先程の不安げなそれとは打って変わり、不敵な笑みが浮かべられていた。

「こいつはいい・・・・。どれ・・・少し試してみるか・・・。」

空中で翼を休め、そう言うガブリエルの視線の先は人通りの多い大きな街を見据えていた。

物凄いスピードで急降下し、着地したその場所は大きな交差点のど真ん中。

大小様々な車がガブリエルをすり抜け、猛スピードで走り抜ける中、

異様な笑みを浮かべるガブリエルは自分の右手の掌を見つめ、それを軽く地面にそえると、その掌を中心に交差点一体のアスファルトが凍りついてしまったのだ。

もちろん悲惨な結果は免れる事無く、数人の死者が出た事は言うまでもない。

「スゲェ・・・。ふははははっ・・・・俺を選んだのが間違いだったな。死神のキルよ・・・人が死んだぞ!早く迎えに来てやれよ。」

高々と笑い声を上げそう言うと、翼を広げたガブリエルは大空の彼方へと消えていってしまったのだ。

一方で悪魔が追って来ているとも知らずに・・・・。


その頃、天界では

「キルよ・・・お前が持ってきたヤツの心臓、潰したらどうだ・・・?」

ミカエルが目を瞑り、少し俯き加減でそう言うと、キルが口を尖らせながらこう言った。

「そんなの自分でやればいいじゃん。それに、これは神の命令だし。大体ミカエルとルシファーの関係が・・・・・」

そう続けるキルだが、途中でミカエルが怒鳴る様に口を挟んできた。

「黙れ!それ以上言うな・・・・。とりあえず、さっきガブリエルが殺した人間達の魂を黄泉まで案内しろとラファエルに伝えておけ・・・!」

異様な沈黙を挟み、ミカエルは休息の間の方へと消えて行ってしまった。そして、さすがのキルもこれには少し驚いた様子で、

「はいはい。分かりましたよ・・・・大天使長ミカエル様。」

と、一言。

その頃、ガブリエルはというと・・・・

「・・・って言うか、ルシファーって野郎の居場所知らねぇのか?

死神のキルは・・・。」

と、そんなことを思いながら空中で翼を休めていた。

しかし、そんなガブリエルの前に、先程から追い続けていた悪魔が突如姿を現したのだ。

そいつの顔は異様にでかく、黒い衣を纏い、髪はボサボサで手足は折れてしまいそうなほど異常に細く、気味は悪いがとても強そうには見えない姿だった。

そして、そんな見た目もあるせいか、目の前に突如現れたにも拘らずガブリエルは驚くどころか、意外にも冷静にこう言ったのだ。

「なんだテメェは・・・?おっ・・・?こいつは探す手間がはぶけたってやつだな・・・。お前ルシファーだろ?」

ニヤリと笑いながらそう訊ねると、その何者かが、

「なぜその名を知っている?お前も我等と同類、悪魔か?」

と、逆に訊ねてきたのだ。

だが、その言葉から察するに、目の前に居るその何者かは悪魔に間違いないらしい。

両者とも不敵な笑みを浮かべる中、ガブリエルが口を開こうとした瞬間、それよりも若干早くその悪魔が口を開いた。

「ワシの名はアゼザルじゃ。言っておくが、お前さんの探すルシファーよりも先に存在していた古代の悪魔じゃよ・・・ワシは。ところで小僧・・・・お前の様な青二才が一体ルシファーに逢ってどうするつもりじゃ?」

そう放たれた言葉の何処かにチクリと刺さるトゲがあったのか、ガブリエルの表情が一変し、眉間にシワを寄せながらアゼザルを睨め付けこう言ったのだ。

「俺が青二才だと・・・?未熟だと言っているのか?」

「ウッシャッシャッシャッ。ワシが何か間違った事を言ったか?」

独特の奇妙な笑い声を上げながらアゼザルがそう言うと、ガブリエルの険しい表情がなぜか一瞬緩んだ。

「殺す。」

それは、唇が微かに動く程度に、今にも消えてしまいそうな小さな声でガブリエルがそう呟いた瞬間、右腕に激しく渦巻く深紅の炎が現れると、目の前で不敵に笑うアゼザルの顔面へとそれを叩き込んだのだ。

その衝撃は凄まじく、炎を纏った拳が顔面を捉えるや否や、アゼザルの小さな身体は巨大な炎に包まれて吹っ飛んでいってしまった。

「ウォーミングアップにもなりゃしねぇな。」

遥か彼方で灰になり燃え尽きたアゼザルを眺めながらガブリエルが

そう言い、翼を広げ飛び立とうとしたその瞬間それは起こった。

ガブリエルの口の中から見た事も無い様な一匹の黒い蟲が現れると、それに続き、大量の蟲がガブリエルの口の中から湧いて出てきた。

そして、それらがキュルキュルと異様な音を立てながらあっという間に全身を包み込み、ガブリエルの身体は黒色に染まってしまった。

もがく事はおろか、声も出せずにそんな状態がしばらく続くと、ガブリエルを覆う黒い小さな蟲達が徐々に離れ始め、一箇所に集まると、そこから先程のアゼザルが形成された。

だが、なぜかガブリエルの身体には何の変化も見受けられない。

「ワシと同等に戦えぬ者が、その程度のレヴェルでルシファーに会ってどうするつもりじゃ?せっかくだ、一ついい事を教えてやろう。ルシファーの魔力は今のワシの数十倍。そして地獄にいるサタンはその倍の魔力を持っているんだぞ。」

再び現れたアゼザルがそう言う中、何も出来なかった自分に愕然とし、言葉を失うガブリエル。そして、そんな彼を尻目にアゼザルは屈辱的な言葉を放った。

「人間をからかうのはもう飽きたわい。お前はいい暇つぶしじゃ。もっと強くなってワシの前に来い。それまで天災を起こし、疫病をばらまいて遊んでてやる。ウッシャッシャッシャッ・・・」

不気味な笑い声を残し、その場から消えてしまったアゼザル。

そして一人残されたガブリエルは、自分の無力さにイラ立ち、天に向かってこう叫んだ。

「あ・・・あんな雑魚に・・・。俺は神の力が使えるんじゃなかったのか?一体どうなってんだよ?キルゥゥゥゥゥゥ・・・。」

すると突然、黒いマント姿の男が現れ、

「そんなに大声出さなくても聞こえてるから・・・・」

と、ガブリエルの後ろでボソボソと言ってきた。

「テ、テメェ・・・誰だよ?」

と、ガブリエルが睨めつけて言うと

「いや・・・、キミが呼んだんじゃない?」

と、マントの男が返した。

「俺が呼んだのは、死神のキルだよ・・・テメェみたいな美男子じゃねぇから。顔が蛆だらけで、皮膚がくさっ・・・・」

ガブリエルが言いかけると、マントの男がムッとした表情で、

「いやいや、だから私がキルだよ。これが本当の姿ってわけ。」

「・・・・・・・・・・?」

「うそ?マジで・・・?メチャメチャかっこいいな・・・お前。」

「で?ご用件のほうは?」

本来の姿で現れたキルが、長い黒髪をかき上げそう言うと、それに続いて思い出したかのようにガブリエルが口を開こうとするが、人差し指を横に振りながらそれよりも早くキルが口を開いた。

「ガブリエル・・・・キミは勘違いをしているみたいだね。あんな雑魚と言ったけどアゼザルは、まだサタンが現れる前からいた古代の悪魔。当時、地獄を支配していたべヘモドの側近として常に近くに居た存在・・・・・サタンが現れるまでわね。」

驚愕の事実を口にしたキルの前に、困惑の表情を隠せないガブリエルがこう訊ねた。

「あのおっさん・・・・そんなに凄いヤツだったのか?って言うか

意味分かんねぇよ・・・?一体サタンってのは誰なんだ?」

すると、唖然とした表情でキルがこう言った。

「あれ?言ってなかったっけ?ルシファーとサタンは・・・・・同一人物。ルシファーが地獄に堕とされる時、この地球上に羽を一枚落としていったんだ。計画的にね。そして長い年月を経て、その羽から生まれたのがルシファーなのだよ。で、本体は地獄に叩き落されたサタン。地獄ではそう名乗っているらしい。だが、なぜ地上に自分の分身を残したかと言うと、自分を召喚できるほどの力をもった術師を探すため。地獄から地上に出る方法はただ一つ。召喚なんだ。強大な悪魔を呼び出すには、それ相当の力を持つ術師がやらないと体が滅びてしまう。」

すると、ガブリエルが不思議そうな顔でこう訊ねた。

「はぁ?馬鹿じゃねぇの?ルシファーがサタンを召喚すれば終わりじゃねぇか?」

「悪魔同士では召喚できない。それがルールなんだよ。」

そう返すキルだが、どうも様子がおかしい・・・・。さっきまでニヤニヤと薄気味の悪い笑みを浮かべていたはずなのに、眉間にシワを寄せながらこちらへ歩み寄って来るではないか。


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