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四つの季節の物語

作者: 雪宮ゆき

 昔々、この世界は四つの大陸にわかれていました。四つの大陸はそれぞれ四人の女王が統治していました。


 春の女王が治める大陸は常に春であり、美しい春の草花で溢れていました。そこに住む人々は夏の暑さも冬の寒さも知りませんし雪を見た事がある者は誰もいませんでした。


 夏の女王が治める大陸では常に夏であり、生命に溢れていました。彼らは暑さに強かったものの様々な病気が存在していたため医学が発展しました。冬の寒さを知りませんし、雪を見た事のある者は誰もいませんでした。


 秋の女王が治める大陸では常に秋であり、様々な植物が実りの季節を迎えていました。食べ物の溢れ、夏の暑さも吹い寒さも知りませんし、雪を見たことがある者は誰もいませんでした。


 冬の女王が治める大陸では常に冬であり、生命の色は薄いものの寒さに強い生き物が多く存在していました。病気になる者はあまりなく、雪の中で生きる術に長けていました。彼らは春の草花の淡い色も夏の濃い緑も暑さも秋の色鮮やかな野山も知りません。


 他の大陸に行く人はあまりおらず、人は生まれた大陸で一生を過ごしていました。それは四季を愛する神にとって悲しいことでしたね。そこで神は四つの大陸を一つにしました。

 まだ大陸が四つだった頃、すべての大陸を旅し、神と同じく四季を愛した男を国王とし大陸を治めさせます。大陸に訪れる季節は城の隣にある塔へと、女王が入ることで決まるようにと神は定めました。


「誰がどのように入るのかは皆で話し合い決めなさい。」


 神はそう言うと、また姿をお隠しになりました。


 四季を司る四人の女王は最初、誰の季節を国にもたらすかを言い争いました。この世界の一年は12ヶ月でありましたから平等に四等分しその期間をそれぞれが司ればいいと冬の女王は主張しました。しかし他の三人の女王は冬の寒さを好む者は少なく、生命を育めない冬など必要ないと言いのけました。

 冬など要らないと言い、冬の女王以外の三人で三等分すべきだという女王もいました。


 冬の女王は大変悲しくなりました。


 国王は言い争う四人の女王の間を取り持つためにこう言いました。


「三ヶ月ずつ四人で担当して国民に是非を問うのはいかがでしょう?私はどの季節も愛していますから、四つの季節が平等に訪れればそれほど幸せなことはありません。」


 四季を愛する国王は国王でありながら敬意をもって丁寧に四人へと語りかけます。


 国王の言葉に四人は、国民が選ぶのであればと争いを止めました。



 一番初めに塔へと入ったのは春の女王でした。

 春の女王が治める大陸に住んでいた人たちは春を愛していましたから大変喜びました。

 他の大陸にあった人たちも色とりどりの草花が咲き乱れる美しさに感動を覚えました。

 夏の大陸に住んでいた人たちにとっては少し肌寒い気候ではありましたが過ごしやすい春を気に入りました。もちろん他の季節の人たちもです。


 次に塔へと入ったのは夏の女王でした。

 夏の大陸に住んでいた人たちは大変喜びました。最初は湖や海へと泳ぎに行く人を不思議そうに見ていた春と秋と冬の大陸に住んでいた人たちは夏の暑さに真似をするようになりました。暑い中で泳ぐことはとても楽しく、人々は夏を気に入りました。

 ただ、冬の大陸に住んでいた人たちは夏の暑さにバテ気味ではありましたが。


 次に塔へと入ったのは秋の女王でした。秋の大陸に住んでいた人たちは大変喜びました。青々と茂っていた木々は赤や黄色を纏いました。その姿は春や夏とは違った美しさを持っていましたし、今まで食べたことのない食べ物に舌鼓を打ちました。春同様に夏の人たちにとってはやや肌寒い気候ではありましたがそれでも秋を気に入りました。もちろん、他の季節の人たちもです。


 最後に塔へと入ったのは冬の女王でした。冬の大陸に住んでいた人たちは大変喜びました。春、夏、秋も大変素晴らしい季節でしたが冬の静けさや雪の白、寒さから外出が減り家で家族で過ごす時間が増えることへの喜びがありました。しかし、春、夏、秋の大陸に住んでいた人たちは冬の寒さに凍えてしまいました。彼らの持っていた服では冬の寒さは耐えられないものでした。冬の大陸に住んでいた人たちは春、夏、秋の大陸に住んでいた人たちに冬の過ごし方を教えましたし、服の注意点も教えました。暖かな衣も分けてあげましたが冬を気に入ってくれる人はあまりいませんでした。

 雪の白と枯れた木々の茶色しかないことも、寒く外へと出るのが叶わないことが多いことも不満でした。


 そんな人たちの様子を見ていた春の女王によって三ヶ月経たないうちに冬の女王を塔から追い出してしまいました。


「まだ私の時間のはずでしょう?」


 冬の女王は怒ります。


「最後までやる必要なんてないわ。みんなが冬を嫌ってるんですもの。投票するまでもないわね。」


 春の女王はそう言いました。

 そしてそれから、冬の女王以外の三人は平等に同じ期間塔へと入りましたが冬の女王だけは三人よりも短い期間だけしか塔へと入らせてもらえなくなりました。冬の女王はとても悲しみました。


 何年それが続いたでしょうか。

 大陸が四つに分かれていたことがおとぎ話となった頃、冬の女王の我慢はついに限界がきました。

 冬の女王は塔のドアを氷で鎖し、塔へと閉じ籠ってしまいました。


人々は春が来ないことを不思議に思いました。いつもであれば冬はとっくに終わっている頃でしたし、いままではここまで雪が積もることも湖が凍ることもありませんでした。家の屋根から氷柱が垂れていることも滅多にありませんでしたからどうしたのだろうと思っていました。


その頃、お城ではどうすべきか悩む国王の姿がありました。


王は冬の女王が悲しんでいたことも我慢していたことも知っていました。しかしこのまま冬が続けばいずれ食糧の備蓄も薪の備蓄も底をついてしまいます。かつての冬の女王が治める大陸であれば問題はありませんがここは四季に対応した植物、生物しかおりません。

あの頃であれば耐えられた人々もいましたが今では冬は短いものであり人々は寒さに弱くなってしまっています。


王は悩んだ末に国民へと一つのお触れを出すことにしました。





「国王様からのお触れである。皆よく聴け。」


村や町を巡り人々へと王の言葉を伝える。



「長きにわたり冬が続いている。それは冬の女王様がが塔から出てこないからである。そこで王はおっしゃった。『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。

ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

季節を廻らせることを妨げてはならない。』と。誰でも良い。冬の女王様に塔から出てきていただく自信のあるもがいれば直ぐさま塔へと向かえ。塔の扉は氷で固く閉ざされており、開けることもできない。」




人々はそのお触れを聴くやいなやどうすれば塔から出てきてくれるのかを考えました。


お触れが出た次の日にはもう塔へと人々の列が出ていました。


氷を溶かそうと火を燃やせば雪が襲いました。

氷を削ろうとすれば道具が折れました。

どんなに言葉を尽くし、春を願っても一言もありません。

人々が何をしての塔の窓からですら冬の女王は顔を見せてはくれません。何をしても無反応なのです。本当に塔の中にいるのかすら怪しくなるほどに音がありませんでした。


人々は何をしてもどうにもならない現状に大変悩みます。



ある村に、かつて冬の女王が治めていた大陸に住んでいた人の子孫である可愛らしい少女がいました。少女はずっと冬だけが短いことを不思議に思っていましたからきっとそのせいで冬の女王が塔へと閉じ籠ってしまったのだと思いました。

少女は最初に秋の女王の元へと行きます。


「秋の女王さま、秋の女王さま、どうして冬のきせつだけみじかいのですか?私は冬が大好きです。かぞくとくっついていられるから。一緒のじかんがふえるから。もちろん秋もカラフルで美味しいものも多くて大好きです。でも冬だけがみじかいのはふこうへいだと思います。どうして冬だけがみじかいのですか?」


女童(めのわらわ)よ、そなたが生まれるはるか前に決まったことよ。その時、冬を望む声がなかったとして春の女王が決めたのだ。しかし、冬を望む声を直接聞けば確かに不公平であった。それぞれの季節を平等にすることに異存はない。」


「秋の女王さま、ありがとうございます。」


少女は笑顔でお礼を言いなした。


次に夏の女王の元へと行きました。


「夏の女王さま、夏の女王さま。どうして冬のきせつだけみじかいのですか?わたしは冬が大好きです。お母さんがギュってしてくれて、くっついていてもおこられないからです。お家にみんながいるじかんがいっぱいで幸せです。もちろん夏も大好きです。だって夏は海におよぎに行けて、のはらで遊べるから。お花も木も生き生きしててきれいです。でも、冬がみじかくていいってことじゃありません。冬だけみじかいのはふこうへいだと思います。」


「幼子よ、それも確かにそうである。冬が好きという声を直接聞くのは初めてだ。私も平等であるべきだと思っていた。それぞれの季節を平等にすることに異存はない。だが、春のは何と言うか。冬を短くと決めたのは春である。あれを納得させられるか?」


「ずっと冬はこまるからがんばります。」


少女は笑顔で答えます。お礼を言うと次に春の女王の元へと行きました。


「春の女王さま、春の女王。どうして冬のきせつだけみじかいのですか。わたしは冬が大好きです。お父さんがお家にいるじかんがふえます。かぞくでぎゅってしてられます。雪もきれいです。しもばしらをふむのもたのしいです。もちろん春も大好きです。お花きれいでちょうちょもとんでてたのしいです。でも冬がみじかくていいってわけじゃありません。」


「冬が好きか。だがな、これはお主が生まれるずっと前より決められたこと。」


「冬の女王さまがかわいそうです。それに、おばあちゃんが言ってました。さむさにたえたお花のがきれいにさくって。」


少女の言葉に春の女王は確かに、冬の寒さが強かった年は、草花がより一層美しかったことを思い出しました。


「ふむ。」


「冬も同じだけの長さがほしいです。」


「いいだろう。」


少女は塔へと向かいました。



「冬の女王さま、冬の女王さま。わたしは冬が大好きです。春の女王さまも夏の女王さまも秋の女王さまも冬がみじかいのはふびょうどうだってみとめてくれました。これからは冬も同じだけの長さでいいって。」


少女がそう言うと塔の扉を閉ざしていた氷が解けました。冬の女王は塔から出てきて少女を抱きしめます。

少女は笑顔で冬の女王を抱きしめ返しました。




こうして長く続いた冬は終わり春がやってきました。




王はこれに喜び少女へと褒美を与えました。少女は褒美として、四季を司る女王に自由に会う権利をもらいました。

少女は四季を司る女王の元へと暇さえあれば遊びに行きました。女王たちは大層喜び、少女と友情を育みましたとさ。





そして四季はそれぞれ3ヶ月ごとに移り変わるようになったのです。

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