○○1-8 美少女戦士(25)○○
「……」
「黙っていないで何か言ったらどうですか」
衝撃的な、それこそ『マスコット 変身能力 無』ぐらいの衝撃。
25歳の女性が、少女を名乗る事を神様に認められいるなんて。
果たして『少女』、とは何なのか。
思わず、哲学的に何度も頭の中で思考する。
「だ・まっ・て・な・い・で、何・か・言・えっ!」
バンバンとテーブルを勢いよく叩く音を立て、氷上は怒りを隠そうともしない声で言った。
ハッと気が付く。
……何か。
何か、とは。何を言えばいい?
25歳にして、『美少女戦士』を名乗らなければいけない女性に対して。
本人はあからさまに不本意だと態度を隠さない、人に対して。
仕事上、自ら『美少女戦士』を名乗り、皆の前でショーをやらなければならない妙齢な女性に対し て。
しかも、明らかに収入は下がるだろう女性に対して。
……俺は何も言えない。
否。いっそのこと、『このまま求職状態になって次の更新に期待をかければ良いのでは』と言って しまいたい。
だが、氷上はこの場にいる。
相当、嫌々ながらも『美少女戦士』になろうとしている。
なぜ、そこまでするのか。理由はわからない。
だから「これから、よろしく頼む」と言って、氷上の目を見た。
他の言葉なぞ、ついに思いつかなかった。
慰める言葉も、氷上のプライドを傷つける結果となるだろう。
ならば、この言葉しか思いつかなった。
と、言うか何を言っても地雷のようなきがした。
「……先輩に気が利く言葉が言える訳ないでした。ま、いいです。契約してあげますよー」
と、氷上は大きくため息を吐くと言った。
「本当に良のか?」
思わず聞いた。
言っては何だが、俺はマスコットとしてはポンコツである。
俺自身が変身できないし、特殊な能力を持っていない。
その所為で、今までパートナーができなかった。
そんな俺と契約してくれる──どう考えても、ババを引くようなものである。
俺自身がそう思ってしまうのだ。
「いいですー。気に入らなかったら別の人にすぐ頼みますしー」
だというのに、氷上は特に気にした様子を見せずに言う。
仲介をしてもらった時点で、協会から俺の情報が行っているはずだ。
ならば、俺からは何も言うことはない。
◇◆◇
契約は簡単に行うことができる。
協会の祈祷師に頼み、神様へ報告するだけだ。
これだけで、お互いの名前を適正職票にパートナーが書き込こまれる。
神に認められ、俺はやっとパートナーに『変身能力』を使う事が出来る。
さくりと手続きを進め、再び会議室に。
正直、かなりドキドキしている。
なにせ俺の初めての契約なのだ。
『変身能力』で、パートナーがどんな格好になるのかを今まで知るすべが無かった。
「……で、変身の呪文とかあるんですか、先輩ー?」
だというのに、氷上は堂々としたものだった。
何時も通りの調子で、これから自分がどんな風に変身するかなどきにしていない。
「ああ……。変身したいと思ったときに、その言葉が勝手に出るらしいぞ」
「ええー。なんか適当ですねー。まぁ、いいですけどー」
ムムム……と、氷上は唸り始めた。
「──あ、なんか来ました」
5分ほどそうしていただろうか、氷上は何かに気づいたようだった。
なるほどなるど。などと呟き、ついにその言葉を言う。
「行きますよー。『世界の奇跡よ、私に力を貸してっ! 愛と正義の執行者、美少女戦士レイ こ こに参上っ!』」
言葉を言い終えると、氷上の姿はシルエット姿に。
なにやら、25歳が素面でやるとこっ恥ずかしいポーズを何度か。
最後に腰を引いた状態で、上半身を倒し、顔の前で右手を横ピース。
左手にはなにやら、棒状のステッキらしきものを持っていた。
服装はピンクを多用したゴシックロリータ調。
やたらと、フリフリを多用している一品であった。
この手にありがちな、スカートは短め。
ハイソックスに、ローファー?(革靴みたいなの)を履いていた。
……正直、ドン引きである。
『……うわぁ』と言う声を出さなかった俺を褒めてやりたいぐらいだった。
気分は、本人も隠していた知り合いの、飛んでもない趣味の現場を何も知らずに発見してしまったような気持ちである。
「うぁ……」
変身ポーズを数秒とっていた氷上であったが、変な声を出して俺を一瞥。
一瞬で顔が真っ赤になり、慌てて顔を隠してしゃがみこんだ。
パンツが丸見え。
緑のシマシマだった。
どれ程、その体勢であったろうか。
俺は何も言えず。
氷上もしゃがみ込んだまま身動きもせず。
すこぶる心地の悪い時間。重苦しい空気。
さすがにどうにかしようと俺が考えた時、氷上がスッと立ち上がった。
「──ど、どうでしたかっ! ちゃんと変身できましたでしょう!?」
顔は真っ赤のまま。いつもはおっとりと話す言葉は早口で、言った。
視線は俺を睨みつけ、変な事を言ったら『殺す』という態度がありありと見える。
ヘタな事は言えない、とあせる俺。
普段からあまり上手い事は言えないと自覚のある俺は「──と、とっても似合ってる」的な事を、 ドモリながら、けれども視線をそらさずに言った。
「──クッ……。そ、そうだ。先輩の、先輩の変身の姿、見せてくださいよっ! 私のだけ見るな んてズルいですっ!」
「……え?」