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美少女戦士のマスコット  作者: テン
8/16

○○1-7 適正職○○


新田さんと田畑さんとあってから1週間。

再びヒーロー・ヒール協会へとやってきた。

それまでは毎日、バイト漬けの日々だった。


日に2つ以上のバイトを掛け持ち。時々、湖華音ちゃんと夕飯を食う。

そんな、数か月。何も変わらない日々。

何となく、そんなのが永遠と続いてゆくような気がしていた。


それが今朝。


「豪拿様。本日、ご足労をお運び頂きませんでしょうか。ご都合よろししければ、紹介したい方がいらっしゃるのです」


と、ヒーロー・ヒール協会から電話がかかってきた。

丁度、深夜のバイト明け。協会の朝は早い。

すぐさま「伺います」、と答えた。


そうしたらお相手は13時頃に協会に来るとの事。

あ……。今日、その時間はバイトが……。

今までの経験が頭を過ぎる。


顔を見た瞬間の拒絶。変身できないと言った後の拒絶。様々なパターン。

でも、もしかしたら。

万が一での可能性。


──それと、そんな可能性よりもバイトを休む事でのマイナス。


居心地のいい働き先を、「休みます」の一言で無くしたりしないか。

様々な考えが脳裏を過ぎり、携帯電話を握る手に力が入る。

意味の無い言葉を発した。

電話先のお姉さんも困ったように、「ご無理なようでしたら、またの機会に──」


「──いいえ。伺います」


と、俺の口は頭を通さず動いていた。


◇◆◇


バイト先に電話をした結果。

『休んでもいいよ』と、気軽に言われた。

おじいちゃん社長は『先のある仕事みらいを優先させた方がいい』と。

また、『普段頑張っているのを見ているから、偶にはね。みんなには内緒だけど』とも続けてくれた。

ありがたくて涙が出た。


その後少しの仮眠。

少しばかり良いスーツを着て、協会へ。

「豪拿様。お相手さまはこちらの部屋にいらっしゃいます」

気がつけば、その仲介してくれるという人がいる部屋の前に居た。

ドアノブをグッと握り、手に汗がすごい事に気づく。


……ヤバイ。すごく緊張してる。


俺は緊張すればするほど、無表情になる性質なのだ。

俺は普段から顔が怖い恐いと言われ続けているそんな男なのだ。

そんな俺がこのまま入室すれば、きっと断られる。

わかってる。何度もやった失敗だ。

大きく深呼吸。何度も深呼吸。

それでも緊張は収まらない。


「……大丈夫です。今回の方は豪拿様とは気が合うはずですから」


その言葉の後、そっと背中に小さな熱が生まれた。

声の方を見れば、受付のお姉さんが俺の背中に腕を伸ばしていた。

表情はとても優しい笑み。「大丈夫ですよ」


心を暖かくしてくれるそんな仕草に勇気をもらう。

多分、ぎこちないだろうけど。何とか笑顔を作る事ができた。


「ありがとうございます」


お礼も言えた。「がんばります」と告げて今度こそドアノブをひねった。


「失礼します」


入室すると、窓から入り込む朝日が部屋を包み込んでいた。

少し目がくらむ。

逆光の中、備えられたテーブルの向こう側に座る小さな影。

小学生高学年から中学生ぐらいの背の女の子。

ほとんど影になっているが、その柔らかいシルエットからそう判断した。


「本日はよろしくお願いします」


と、俺は自身ができるだけの優しい声で言った。

怖がらせてはいけないから。


「キモっ」


彼女から聞こえた声。それは怯えるようなものではなかった。

と、言うよりもどこかで聞いた覚えのあるような気がして違和感。

けれどそんなはずない。

彼女はどこかの大手企業で秘書を務めているはずだ。


「テツ先輩。なに恰好つけてんですか。似合わないんですけど」


まさか、と思いつつも目が慣れるまで待っていた。

違ってほしかった。

だというのに。

紛れもなく、テーブルの向こう側に座っていたのは大学の後輩 氷上 麗(25)だった。


……本日は俺の仕事のパートナーを紹介してもらえるはずではなかったのか。


俺はマスコット。

美『少女』戦士のマスコットであったはずだ。

では、何故に?

もしかして、氷上の仕掛けたドッキリか?


受付のお姉さんに視線を向けると、アルカイックスマイルを浮かべていた。


「氷上様が本日、当協会が仲介させて頂く方となります。豪拿様はお知り合いと伺っておりましたが……」

「はいハーイ。お知合いですよー。先輩とりあえず座ったらいいと思いますよー」


困ったような仕草の受付のお姉さんの言葉に、氷上はまるで挑戦するような口調で言った。

腑に落ちない。

だが、受付のお姉さんは確かに仲介する人物を氷上だと言った。

混乱している頭。

なにがなんだか判らないが、とりあえず氷上の体面にあった椅子に座る。


「それでは、私はこれで。何か御座いましたらお気軽にお声をかけてください。失礼します」


受付のお姉さんはそう言って、退出して行った。


「……で、オマエはなんでここに?」


一息ついてから、氷上に聞いた。

ドッキリでなければ何だと言うのか。


「嫌ですよー、先輩。私は今日、先輩の相棒となるべくここに参上したんですよぉー」


ニヤニヤと、いやらしい顔で氷上は言う。


「私ってほらー。美少女ですしー? 神様がほっとかなかったっていうかー?」

「──いや、少女ではないだろ。オマエは何を言っているんだ」


頭でもおかしくなったか。

お前は25歳だ。少女という年齢はとっくに越しているだろう。


「……ッ……くっ。──ま、まぁ美が付くことは認めてくれるんですねー。当たりまえですけどー」

「そんな事いいから、お前がここにいる理由を言え」


頭のおかしい氷上に付き合っていては、いつまでも話が進まない。

ダラダラとした会話をぶった切って、言った。

俺は大事なバイトを休んで来ているんだ。

茶番のような会話に付き合う気はない。


「ぐっ……! こ、今回。か、会社のっ、定期の職業更新に行ったんですっ!」


どこかキレ気味の氷上。

あまりの怒りから、言葉が詰まっているようだった。

顔真っ赤。額には漫画のように血管が怒りマークを作ってる。


「そ、そうしたらっ……! 出た、んですよっ! コレがっ……!」


言葉が言い終わるや否や、氷上はバンとテーブルの上に何かを叩き付けた。

見れば、それは適正職票。

……これを見ろ、と。

適正職業ライセンス:美少女戦士≫

マジマジと覗き込むと、その一行が目に入った。


「マジで?」

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