○○1-2 信託の受難○○
『253番のお客様、大変お待たせしました』
ポーンという軽快な音の後、呼び出しの機会音声がガヤガヤとした待合室に流れた。
自分の持つレシートに印字された文字、253番を確認して立ち上がる。
かれこれ1時間程度は待っていただろうか。体の動きが渋いような気がする。
「すいません、すいません」と手刀をふり頭を下げながら、他にも座り待っている人々の間を抜けてゆく。
ずらりと50席並んだカウンターの一つ、その中の人が手を上げていた。
一応番号を確認すれば、253の表示。間違いないようだ。
女性職員の前で「よろしくお願いします」と、言って座った。
職業安定票を差し出すと、カウンターの向こうの年若い女性は笑顔で「お預かりします。少々お待ちください」と、パソコンを操作し始めた。
「豪拿様、本日のご用件は?」ひとしきり操作を終えた女性は言う。
もう決まったパターン。
「職業の適正を調べて欲しいです」
いつも通り、何度言ったかわからない言葉を発する。
何よりも緊張の瞬間だ。一縷の希望に縋り、そしてもともと居た淵に戻されるのだ。
絶望なんて常すぎて、それが日常になりつつある。
「かしこまりました。少々お待ちください」
女性は立ち上がり、傍らに置いてあった玉ぐしを高々と掲げた。
この時、気がついたのだが、女性が羽織っていたのは白い和服調のカーディガン。赤いタイトなスカートを穿いていた。
なるほど、純粋な巫女系統か。
この前はシャーマン系だったから、今回は静かでいい。ほっとしながら、女性職員を待つ。
「掛まくも畏き~~……」
静かに独特の抑揚が長く長く続き、終わる。
終始頭を下げ、願う。適正を。適正の変更を。なんとしても。どうしても!
期待と不安、否、期待なんて無く、願望を切々と祈りながら待つ。
「終わりました」
その声を聞いて、顔を上げる。
女性は苦々しい顔をしていて、神の宣託を告げた。
「適正職業、能力共に変更ありませんね。……美少女戦士のマスコットです」
やはり、というか大学を卒業してからずっと言われてきたものに、落胆などせず、淡々と事実を受け入れる。
少し申し訳なさそうな顔をした女性職員に、礼を告げて立ち上がる。
安物の腕時計を見る。さて、ほぼ予定通りの時間だ。
近くの本屋を頭の中で考えながら出口に向かっていると、なにやらカウンターでぎゃぁぎゃぁ騒いでいる女性が居る。
後姿がちらりと見えた。
自分の望んでいなかった信託でも下ったのだろう。声に悲壮感が漂っている。
まだまだ。地獄はこれからだよ、と心の中で呟いてパスタについて考えた。