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美少女戦士のマスコット  作者: テン
15/16

○○2-2 営業と魔法少女○○


石田さんが届けてくれた書類は承認され、3日目で本格的なし仕事を始める事ができた。

協会は──というか、受付のお姉さん──は、書類が出来上がる前から仕事を探してくれていた。

本当に、有能な人物である。


今日は紹介されたディレクターとの面談。

書類を渡し、俺たちの動画を見てもらう。

こんな事ができますよ、と。


「……うーん。なるほど?」


俺は緊張して、氷上はダルそうに座る対面。

そこにディレクターの若い男性。遠野さんが座って困った顔をしていた。

年齢は俺より少し上。

物珍しい演出をすることで、最近、近隣で話題になっている人だ。


「少し、疑問があるんですが……これ、魔法戦士じゃ、無くないですか?」


「「え?」」


「いえ、これ……どうみても魔法……少女じゃないですか?」


「いや、あれ?」「──少々お待ちください」


俺が疑問の言葉を上げると、氷上が遮るように言う。

2人して視線を合わせ、しばらく。

プレゼンの為流している動画と、氷上についてまとめた資料を眺め。

宙を眺めていると、不意にストンと気持ちが落ち着く。

ああ。なるほど。


「「これ『魔法少女』だっ!?」」


俺と氷上が叫んだのは同時。

なんの偶然かしれないが、同じタイミングでだった。


「……ですよね。もしかして、気づいていませんでしたか?」


言われて、適正職票を取り出し、机の上に置いた。

横を見ると氷上も同じ行動をしていた。


『美少女戦士のマスコット』『美少女戦士』


何度見ても、やはりそう書いてある。

決して『魔法少女』とは書いていない。


いや、『美少女戦士』と『魔法少女』の違いなど俺には毛ほども判らないけども。


それよりも心配が。

今回の遠野さんとのプレゼンは『美少女戦士』という前提で行っている。

遠野さんもそのつもりでやってきているだろう。

せっかく、協会に紹介された人だ。

きっと、他にも頼み断られたに違いない。

ここで断られると、次のディレクターが現れるまでいつまでかかるかわからない。


「あの、それで……」


「大丈夫です。これで仕事を断るとかは致しませんから」


俺の表情から不安を読み取ったのだろうか。

遠野さんはカラカラと笑いながら、俺が心配していた事態を否定してくれた。


「むしろ、願ったりかなったりというか……僕の腕の見せ所、ってヤツですよ。──と言う訳で、今回の仕事。引き受けさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」


遠野さんは立ち上がり、机の向かいに座る俺に向けて手を伸ばしてきた。

俺も慌てて立ち上がり、その手を両手でがっしりとつかむ。


「ありがごうとざいます。本当に……。どうぞこちらこそよろしくお願いします」


遠野さんは氷上とも握手をする。

氷上はすました顔。

背が小さいので、つま先立ちでプルプルとしていたが。


「それでは改めて。今回、考えている仕事先について説明させていただきます」


遠野さんは資料を2部、俺と氷上の前に出すと言った。

聞くと、遠野さん──の会社──は数件、仕事を抱えているらしい。

その内の1件。

協会の近くの商店街でのヒーローショー、そこでの仕事を俺たちの舞台としたい。とのことだった。


「どうですか?」


俺としては全然かまわない。

初仕事の条件としても悪くないし、近くなので交通の事もあまり考えなくてもいい。


むしろトントン拍子に物事が進んで、戸惑うばかりだ。

氷上は、どうだろうと顔を横に向けると、顔をしかめていた。


「どうし……「氷上さんはどうですか?」


何事かと氷上に聞こうとすると、遠野さんも同じように思ったらしい。

俺にかぶせ気味で言い、あっ、と申し訳なさそうに視線を向けてきた。

さすが、新進気鋭の方である。気遣いがハンパない。


「……ええっと。申し訳ありません。近場の仕事と言うのは少し……。知り合いに見られるかもしれない、と言うのは……」


気が引ける、と。

確かに氷上は何かにつけ、変身する姿を見られるのを嫌がっていた。

だが、それには納得しているものだと思っていた。


「──なるほど。しかし、そうなると仕事としては限られた条件でしかできませんよ?」


「……ええ。理解しております。ですが……」

「氷上さん。これはチャンスなのです。近隣の知り合いが見に来てくれる。それだけで、あなた方の認知度とスポンサーの満足度を足すことができる」


「……え、えぇ……」

「すると単純に、単純な話ですよ。コレにつながるんですよ」


遠野さんはじっとりとした笑顔で、親指と人差し指で丸い形を作りこちらに見せてきた。

"お金"と言う意味の形だ。


「やはり、初心の方には知り合いというのは……大事ですよ。たくさん来ていただかなければ」


力強い、どこか胡散臭い笑顔で遠野さんはそう続けた。

表情からは、我が強い──自分の意見は絶対に間違っていない、と言う自信がにじみ出ていた。

その雰囲気は圧迫に近く、断りにくいもの。

意識しているのか、いないのか。遠野さんはそんな空気を作り上げていた。


氷上は意気消沈気味に、「……はい」と、逃げたさそうに答えるばかり。

遠野さんが語るヒーローショーの展開について、明確に返事を返さない。

そして困った顔で、俺を見てくる。


「……遠野さん、少し時間頂いても?」


「え……あ、はい。大丈夫ですよ」


 ◇◆◇


遠野さんの了承をもらい、協会のオープンカフェへ連れ出す。


「氷上、オマエどうしたい?」


コーヒーを前に、氷上に問う。

俺としてはぜひとも、受けたい仕事ではあるが、相棒である氷上がどうしても嫌だというのなら、断ってもいい。


「うーん……、正直ー、あんまり乗る気にはなれないですねー」


「……別に、オマエが本当に嫌だったら、断っても構わないぞ」


正直なところを氷上に言うと、目を丸くしてこちらを見た。


「てつ先輩。……先輩は、それでいいんですか?」


「構わない」


本当の所としては早く仕事をしてみたい、と言うのはあるのだが、それ以上に、コンビを組んでくれた氷上に感謝している。

その氷上がどうしても嫌だというのなら、乗る気ににはなれないのだ。


「んー。いえ、少しは良いかな、とは思うんですけどー。なんて言うかー……覚悟が決まってないんでしょうねー」


その気持ちは分からないでも無い。

俺だって、この街を基盤として今まで生活してきた。

生活をして行く上で、知り合った人間もたくさんいる。

その人たちに、舞台の上に上がる俺を見て欲しいか、と言われるとそんな事はない。


どちらかと言えば、俺はひっそりと無難に生きていきたい人間なのだ。

だが、氷上と違い大学を卒業後、ずっとこの職業を神託されてきてある程度の覚悟は、腹は決めさせられているのだ。


「んー……。わかりました。決めました。良いです。先輩。私、やりますー」


俺が言葉を発しないでいると、氷上がそんな事を言った。


「無理はしなくてもいいんだぞ?」


俺を気遣っての言葉だと、わかる。

だからこそ、その言葉を素直に、楽観的に受け入れるわけにはいかない。


「いえ、いいんです。私、決めましたから!」


念を押せば、氷上は悪い顔をしてそう答えた。


 ◇◆◇


「良かった! もし話が流れたらどうしようかと思っていたところです」


遠野さんに了承の意を伝えれば、そんな言葉が返ってきた。

なぜ?

頭に浮かぶのはそんな疑問だ。

遠野さんの言い方は、まるで俺たちのキャストが決まる事が前提だったかのようだ。


「姿を見た時から、もう色々と思いついてしまいましてね。とても面白そうになりそうだ、と。ほかの人は思いつきません」


素直に疑問をぶつけると、そんな言葉が返ってきた。

そこまで言ってくれる遠野さんに、俺は感動する。


「つきましては、もう一度。握手を」


笑顔で手を差し出す遠野さん。

俺も遅れて手を差し出すと、グイと引っ張られハグをされる。

背中に回された手が、俺の背中をバンバンと叩く。


「……いや、すいません。何だかこみあげてくるモノがあって」


遠野さんの行動に戸惑っていると、離れた彼からはそんな言葉が返ってきた。

他にもプロデュースしている方々がいると言うのに、ずいぶんと入れ込んでもらえているらしい。

有難さも一入だ。


「いえ、いいんです」


「氷上さんも、握手を──。……ああ、大丈夫ですよ。女性に抱き着いたりしませんから」


遠野さんは氷上にも手を差し出すが、戸惑う氷上にそう言って笑った。

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