○○1-9 ポンコツマスコット○○
データを見るとPCで閲覧して頂いている方が多いんですねー。正直、意外でした。
私はスマホで見る機会が多いので。
つたない作品ですが、閲覧していただいている方に感謝です!
「え?」
「え? お前、俺を紹介されたときに資料もらわなかった?」
まさかと思いつつも、聞いた。
協会から仲介を受ける場合には、相手の個人情報を除いた大概の資料が渡される。
相手がどんな人物かだとか、能力をもっているだとか。
俺も、今回の場合 氷上の情報を貰っていた。
ただ、俺の場合どうせ今回もダメだろうと、投げやりの気分もあったので、性格などざっと読み流しただけだった。
氷上の場合、名前や年齢が伏せてあったので、あったときは驚いた。
「ああ、あの冊子……。なんか、規約とか面倒な事が書いてあったんでー」
「つまり、読んでいない?」
「そうですねー」
あ、これはちょっとヤバい。
……契約打ち切られるかも。
折角の初契約が、1時間も持たずに切られる未来が脳裏にリアルに描かれた。
「で、先輩は変身見せてくれないんですかー?」
そんな俺の心情を知らずニヤニヤと、氷上は厭らしい笑い方で言う。
本来であれば、マスコットとは愛らしい動物やらに変身する。
予想するに、俺がそんな姿になったのを馬鹿にするつもりなのだろう。
「いや……あの、さ……」
「もー。先輩。私だって恥ずかしい思いをしているんですからお互いさまでしょー。早くー」
「……できません」
「え?」
先延ばしにしていても、契約破棄は決定的だ。
もったいぶらずに言うと、一瞬、氷上は呆けた顔──の後に、再び厭らしい子憎たらしい笑みを浮かべた。
「ほら、恥ずかしがってないでー。大丈夫ですよー。私、笑いませんからー」
どうやら、氷上の中では俺が恥ずかしがって変身を躊躇っていると思っているらしい。
ちがう、そうじゃない。
「だから、できない」
適正職票を取り出し、氷上に見せた。
何度も見た、≪特記事項:変身能力 無/●≫の項目を目立つように。
「何ですかー……。はぁ?」
「この通りだ。俺は変身できない」
「いやイヤいや……え? ちょっと、え。マジっすか」
何度も氷上は俺の適正職票を見ては、俺をみて困惑している様子だった。
気持ちはわかる。
何より俺自身が信じたくない。
これはダメかな、と諦観の気持ちがジワジワと心を占めてくる。
「いやいや、冗談でしょー? 冗談ですよねー? そんなハズないないですもんねー」
乾いた笑いを上げる氷上。
これ以上ない証拠を目の前に提示しているといのに、信じようとしない。
肩身の狭さを実感する。
やはり、変身できないというのはこれ以上ないデメリットだった。
判ってはいたが、知り合いに言われると、情けなさが増した気がした。
「すまないが、真実だ。……どうする、やはり契約はやめておくか?」
出た声は自分で思っているよりも力のないものだった。
遣る瀬無いが、仕方がない。
これは俺一人の問題ではなく、氷上の問題でもある。
が、「んー別にー。いいですよー。貸しにしておきますよー」と、氷上。
「本当か!?」
思わず、大きな声が出てしまった。
ありえない。今までの経験上、ありえない展開だった。
マスコットと存在は重要度が極めて高い。
容姿がよければ、マスコット単体でも十分に食っていける──いや、高額所得だってできるのだ。
だからこそ、今まで俺はマスコットとして落第どころか嫌悪される存在であった。
まして、隣にいるのが『美少女』となればその存在意義は大変大きい。
可愛らしい少女と、愛らしいマスコット。
この組み合わせだけで人目を引くことができるし、子供から大きなお友達までのファンをつかめるのだ。
ファンを多く獲得するというのは、それすなわちスポンサーへの影響力である。
注目度を高めることによって、俺たちは収入をより高いものへとするのだ。
「まぁ、仕方ない結果ですからねー。……あ、貸しは絶対に返してくださいよ。約束してください」
その位ならばお安い御用だ。やけに拘る氷上に二つ返事で了承の意を伝えた。
「しかしねー……。先輩、変身できないとかー。道理で今まで正規採用がないわけですねー。意外と先輩高性能なのに」
うるさい。器用貧乏なだけだ。
大概のことは一通りできる自信はあるが、正社員となると話は別なのだ。
やはり、適正職票を持っていなければ会社として拍がつかないし、後のスキル会得の機会が得られない。
適正職業外の正社員は狭き門なのだ。
「でしょうねー。……しかし、変身できないとかー。もうそれ、マスコットの意味なくないですかー? ポンコツってレベルじゃないですよー」
「お前は傷つくことを平気で言うなぁ……。それはこの数年、重々理解させられたから知ってる。それより、氷上。ありがとう」
俺の適正職票を指でつつく氷上に頭を下げる。
俺が生きてきた中でこれほど心から感謝したことがないというぐらい、気持ちを込めて。
「あははー。私に惚れないでくださいよー」
正直、それはない。




