第九十一話 「パーティー編成」
俺は皆を離宮の中庭へと集めた。
皆とは、陽織、シャウナ、エイル、アウローラ、セリア、レギンレイヴ、ライル、だ。
大事な話をするならばラテラノとシギンがいてもおかしくない。
二人の空白が少しだけ寂しい。
寂しいと言えば、結婚生活の思い出が出来上がりつつあった離宮も、無惨な姿をさらしている。
離宮の中庭はリヴァイアサンの引き起こした大洪水でめちゃくちゃに荒らされている。
離宮も土台を残してほとんどの建物が流れてしまっている。
いま魔王城と市街地では職人さんたちが修繕を開始している。
トンカントンカンとリズムカルな木槌を叩く音と石材を運ぶ掛け声が遠くから聞こえてくる。
ちなみに離宮の修繕は魔術でやると伝えてあるのでそのままだ。
ここには俺たちしかいない。
呼び集められた皆はじっと俺の言葉を待っている。
まずは、ラテラノの事だ。
そして、魔王国の防衛。
終わりに、それぞれの仕事のメンバーを選ぶ。
俺は整理した方針を順番に語りはじめた。
「……神獣リヴァイアサンを追う。ラテラノを救出しよう」
いっしょに過ごした時間はまだ短いけれど、魔法を教えてくれたり、本物の良い遊び相手だったり、家族が増えたように感じた子だ。
見捨てるなんてことはありえなかった。
「あと、魔王国の防衛のために戦力を残すことにする。今回は、陽織とアウローラに残ってほしい」
「任せてちょうだい!」
陽織はドンと胸を張る。
「……ついていきたいと我儘を言いたいところだが……、此度は譲るとしよう」
アウローラはちらりとセリアとシャウナを横目で窺う。
不満がありそうだけど致し方なしと言った具合だ。
本当は神獣と戦うのに全力を尽くしたいのだが、また魔王国が攻められるようなことになると面倒だ。
現在、魔王国に襲いかかってきそうな存在と言えば、ミシュリーヌの神獣、魔空城アトランティスのマギア、……可能性は低いけどカイゼリン・ガイストも危ないよな……。
神獣の件が落ち着くまでは、嫁を誰かしら魔王国に置いておこうと思う。
「エイルは地球の転移魔術施設の作成を続けてほしい。今後、使うかもしれない」
「了解だよ、ご主人様」
エイルは当然と首肯する。
地球のロシアの向こう側にあると言う異世界。
神獣の件が落ち着いたら探索に行きたい。
そのためには安全な転移魔術施設が地球に必要だ。
設備管理は他の人に任せづらいのでエイル頼みになる。
「俺とシャウナとセリアはリヴァイアサンとシームルグを追う。レギンレイヴは移動を、ライルは……」
「私は外してもらおう。シギンの傍にいてやりたい」
俺の言葉をライルが遮った。
「ライル……! 大魔王殿の命令を私事で拒否するなど……、何様のつもりだ!」
「私は軍属ではない。乞われれば助太刀はするが、命令をされる謂れはない」
レギンレイヴが抗議するがガンと聞き入れない。
ライルの反応は予想していた。
彼の目的はシギンを守ることだから、あちこち引っ張りまわすのは難しいってのは理解している。
「いいんだ、レギンレイヴ。……皆にも言っておくけど、俺の指示は強制じゃない。別にやりたいことがあるなら優先して欲しい。あくまで出来る範囲で協力してもらえればいいんだ」
これで、我も我も、と離散していってしまうと困るんだけどね。
幸いにも他に離脱宣言をする者はいなかったのでほっとする。
「安心せよ、レイキ。世界のすべてが敵に回ろうとも、余は、いや……お前の嫁は最後までついていくだろう」
ウンウン、と嫁たちが頷く。
くそぅ、そういう不意打ちやめろよな。
「……ありがとう……」
小さな声で礼を言っておく。
コラ! そこ! ニヤニヤ笑わない。
居たたまれなくなって背を向けると、肘で突かれ、頬を人差し指でグリグリされ、散々に弄られる。
と、嫁たちの中で腑に落ちない顔をしている者がいた。
嫁たちの弄りから逃れつつ声を掛ける。
「どうしたんだ、シャウナ?」
「私がお供で大丈夫ですか? 正直に言いますと、神獣相手にお役に立てるとは……」
そんな心細い声を出さないでほしい。
勿論、適材適所を考えて配置をしているつもりだ。
「シャウナは戦闘ではなくサポートを頼む。リヴァイアサンとシームルグの動きを観察して、俺に警告を出して欲しい。魔法で攻撃されたらどうなるかわからないからね」
「サポートですか。それならどうにか、……どこまでできるかわかりませんがやってみます!」
シャウナは拳を固めて気合を入れる。
戦闘のサポート役はセリアにお願いするつもりだ。
以前、アウローラやラテラノと空中模擬戦をやっていたのを見たことがあるのだ。
「セリアは空中戦はできるよな?」
「ええ、竜王国では野良ドラゴンと戦うことが多かったので得意ですわ。ただ、長距離移動をするような空中移動はできませんよ?」
「そこまで言わないさ。神獣戦ではシームルグの抑えに回って欲しい。両方相手にするのは無理っぽい気がするからね……」
俺は空中戦に自信がない。
性転換魔術をして魔法を使えば飛ぶことはできるし、闘気推進闘術を使えば短距離飛行も可能だ。
しかし、自在に空を飛び回るシームルグ相手に通用するかどうか微妙なところだ。
それならば空中戦が得意なセリアに任せた方が勝利は硬いだろう。
「任せてくださいな。わたくしの槍技、御覧に入れますわ」
セリアは自信たっぷりに微笑む。
神獣戦は以上。
残るは追跡の足、移動はレギンレイヴ任せになる。
ヴィーンゴルヴ、魔王国、において最速は彼女以外にあり得ない。
だが、今回は探索ではなく戦闘だ。
レギンレイヴを戦場に連れ出しても大丈夫なんだろうか、戦闘をしている場面を見たことがないから少し不安だ。
「レギンレイヴ、今回は最高速で敵に追いつくのが任務だ。ライルがいないから周囲の護衛もいない状態なんだけど……大丈夫か?」
「問題ない、大魔王殿。しかし、護衛機がいないので探索機装備ではなく突撃戦装備に切り替えたいのだが、時間はあるだろうか? 恐らく換装に一時間ほど掛かるのだが……」
「安心してくれ。こっちも準備があるから時間はある」
一日では追いつけないかもしれないのだ。
ある程度の距離を飛行したら転移魔術施設を設置して、補給後にすぐさま追跡を開始することになる。
魔王国側に補給準備をしてくれる人の配置をお願いしなくてはいけない。
眩い夕日に目を細める。
準備が整って出発できるのは夜くらいだろうか。
時間の進みが早く感じる。
焦るな、落ち着け、と自分に言い聞かせる。
「急いで準備しよう」
俺は逸る心を抑えながら、皆に号令を掛けた。