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第九十話 「帰還」

 魔王国の転移魔術(テレポーション)施設に到達すると、いきなり魔王軍兵士に取り囲まれた。

 一体何事だ。

 と、兵士を割ってエクスが飛び出してきた。


「レーキ、敵襲を受けたぜ……! リヴァイアサンとシームルグだ!」

「なんだって!? ……被害は、皆は無事なのか!」


「……ラテラノが捕えられて行方知れずだ。あと、シギンもやられた……、済まねえ……」

「馬鹿な! エクス、貴様……!」


 ライルがエクスにつかみ掛かる。

 あまりの勢いにエクスとライルはもみ合ったまま転移魔術(テレポーション)施設の壁に激突する。

 巨人と巨人(ライルとエクス)の衝突で壁に大きな亀裂ができあがる。


「お前とモ二―がいながら、どういうことだ! 何をやっていた!」

「済まねえ……、ライル」


 ライルが力任せに壁に叩きつけるものだから、エクスの胸部装甲がへこんでいる。

 慌てて二人の間に割って入った。


「おい! やめろよ、エクスがシギンのことで手を抜くわけないだろう!」


 巨人のようにでかい体格だ。

 止めると言うよりは引きはがしにかかる。

 英雄憑依霊術ヒロイックアクティベーションを駆使してどうにかライルを抑え込んだ。


「ぐ……、どこだ! シギンはどこにいる!」


 ライルは俺の腕を振りほどくと転移魔術(テレポーション)施設を飛び出して行ってしまう。


 しかし、タイミングが良すぎる。

 俺たちが魔王国を一斉に離れた頃合いを見て襲撃してくるとは監視をしていたという事だろうか。

 むしろ、そんな距離にいてセリアはどうして気が付かなかったのだろう。


「魔王国の周辺で神獣の気配はなかったのか?」


 セリアは首を振る。

 神獣の気配を感じなかった、もしくは隠していたのか。


「レイキ、神獣が潜伏していたかなど、どうでも良かろう。追撃するぞ、このまま逃がしてなるものか! 報いを受けさせてくれる!」

「待ちたまえ! まずはシギンに状況を確認した方がいいよ。ただの神獣なら遅れをとるはずがない」

「だが、このままでは逃げられる!」


 アウローラとエイルが押し問答しているのを、シャウナが肩を叩いて止める。


「二人とも落ち着きましょう。神獣の移動速度はレギンレイヴよりも遅い。遅れて出発しても巻き返しできるでしょう」


 俺が先にレギンレイヴと共に追撃して、シギンから情報収集した皆と合流すると言う手もあるけど。

 即追いついて戦闘になることも考えると話を聞いてからのほうが良いかもしれないな。

 魔王国に残って防衛を務めてもらう人物も考えないといけない。


 数秒の思考の後、シギンの話を聞いてから神獣を追いかけることに決めた。


「エクス、シギンはどこにいる?」

「ヴィーンゴルヴに搬送してある。かなり危険な状態だったんだが、持ち直して……いまは病室で寝ているはずだぜ」


 シギンは交戦の末、水の檻に閉じ込められてしまい、溺れて意識不明の重体になったそうだ。

 ヴィーンゴルヴの医術のおかげで意識は取り戻せたけれど、下手をすれば脳や肺に重大な障害が残ってもおかしくなかった。

 そんな状態で会えるのかと疑問を持ったが、安静を条件に面会は許可されているそうだ。


「わかった。案内を頼む」

「了解だぜ」


 道すがらエクスから神獣の様子を聞いておく。

 彼はスナイパーだったので神獣とシギンの会話は聞き取れなかったそうだが、戦闘力について詳しく説明をしてくれた。


 緒戦は優勢であった。

 魔術を使っていたリヴァイアサンはシギンとモ二―の攻撃を防ぐことができずに逃げ回っていた。

 しかし、リヴァイアサンが大量の水を発生させてから状況が一変。

 魔術を無効化できなくなったらしい。


「俺のライフル弾も水の障壁を貫通できなかった。リヴァイアサンの生み出した水に何かのからくりがあるんじゃねーかと思ってたんだが……」


 アウローラがポツリと呟く。


「リヴァイアサンが使っている力が、もし……魔法であったのなら、ガイストの能力で無効化できないかもしれぬな……」

「なんでわかるんだ?」

「レイキは覚えておらぬか? 余の技の特訓に付き合ってもらっていただろう。お前の障壁を突破した技、あれは魔法と闘術の融合技だ」


 以前、アウローラが魔法の特訓をやっている時にはなった技を思い出す。


 魔法剣、飛剣閃闘術(ソニックブラスター)


 アウローラの放った剣閃は、展開していた対消滅障壁魔術(シェルター)を貫通して、闘気障壁闘術(シールド)魔力障壁魔術(プロテクション)を砕いて、頬に傷を残した。


「もし無効化できるのであれば、余の剣閃で傷を負うことはなかったろう?」

「すると、リヴァイアサン、それとシームルグは魔法が使えるようになっているかもしれないってか?」

「そのように考えるべきであろうな」


 と、そこへシャウナが口を挟む。


「リヴァイアサンは雄ですからシームルグだけかと思います。魔法を使えるのは女性だけですから」


 リヴァイアサンが雄でシームルグが雌だと?

 それどこ情報、どこ情報よー。


「シャウナはリヴァイアサンと会ったことあるのか?」

「神獣とは全員会ったことがあります。嫌な思い出しかありませんけどね」


 シャウナは鳥肌を立ててぶるりと体を震わせた。

 その話、詳しく。

 でも、その前に神獣の話を聞かせてもらおう。


「リヴァイアサンとシームルグはどんな奴なんだ?」

「リヴァイアサンは超大な海竜の魔物です。大きさは……、そうですね、ヴィーンゴルヴをぐるりと囲むくらいの大きさがあります。水の魔術を得意としていますが、魔王と同じくらい魔術に精通していますから使えない魔術はないはずです」


 ヴィーンゴルヴをぐるりと囲む大きさとなると、巨大な山を相手にするようなものだ。

 こちらは砂粒のような存在だろう。

 対消滅魔術(アナイアレイション)は強力だけど、そんな巨大な生物を一瞬にして滅殺することはできない。

 対消滅魔術(アナイアレイション)を大規模に放つ方法を考えておく必要があるな。


「シームルグは怪鳥の魔物です。大きさはさほどでもありませんが、レギンレイヴよりは大きいですね。風の魔術が得意で、姿を隠すのが得意だったと思います」


 姿を隠すのが得意な魔物と戦うのは初めてだ。

 魔法で不意打ちは喰らうとまずいな、それに姿を隠して逃げていた場合見つける方法がない。


 もし、リヴァイアサンが敵を引きつける前衛タイプで、シームルグが姿を隠しながら援護する後衛タイプだとすると、厄介な相手になりそうだ。


「ありがとう、シャウナ。……ちなみに、どんな嫌な思い出なのか聞いてもいいの?」

「……わざわざ聞きますか、それを」


 怒った顔も可愛いよ、なんて誤魔化してみるも、目を半眼にして睨んでくる。


 神獣を知っていますよって話だけなら聞かなかっただろうけどさ。

 余計な一言がくっついているんだもの。

 聞きたくなるのが人の気持ちと言うものだ。


「獣人の特徴を持つ魔族を見るのが珍しかったらしく遊ばれただけです。猫が鼠を嬲るようなものですね……」

「では、奴らにあったら精々可愛がってやるとしましょうか」


 可愛がると言っても、よしよしと頭を撫でたり、高い高いをしてあげることじゃないからな。

 シャウナは、わかっています!、と言うとぷいっとそっぽを向いてしまった。


 話をしているうちにヴィーンゴルヴの総合病院へと辿りついた。

 エクスに先導されながらエレベーターで病棟の上階へ向かう。


 『シギン・菫』の札が掛けられている病室をノックする。


 中から間延びした返事が聞こえてきた。

 どうやら起きているらしいので中へ入ってみるとする。


 プシューッと病室の扉が開く。

 病室に入るとベッドにはシギンが横たわり、窓際にモ二―、ベッドの横にはライルが座っていた。


 シギンは手術を受ける人が着るような白い患者服を着ている。

 顔がいつもよりも白い気がするけど思ったより元気そうに見える。


「皆揃ってお見舞いとは愛されていますね、本物(シギン)は」


 俺たちが来る前にライルとシギンの間で何かあったのだろう。

 ライルは本物(シギン)命だからな。


「捻くれるなよ。本物(シギン)だけじゃなくシギンのお見舞いもあるんだぞ」

「神獣の情報が聞きたいだけではないのですか?」

「それもあるけどね」


 ちょうど来客用の椅子が部屋の隅に積んであったので、人数分を並べていく。

 順次着席して落ち着いたところでアウローラが話を切り出した。


「ラテラノの救出のためにすぐにでも出発しなくてはならん。だが、神獣の力がどのようなものかを把握しておかねば危険だ。気づいたこと、すべて話してもらおう」

「そうですね。モ二―にはいくつか話しましたが改めて。まず……」


 シギンは一つ一つ丁寧に気づいた点を話していった。


 リヴァイアサンは神獣の力を結集させるつもりであること。

 フェニックスとイルミンスールは最後の魔法少女を追っていること。


 途中、魔法少女の一人、イシュトバーンなる人物は喰われて死んでしまっていることに触れると、皆の顔が一様に曇った。

 最悪の想像を思い浮かべるのを否定するように、シギンは頭を振った。


「安心してください。魔法の力を取り込むために食べるのであれば、あの場でラテラノを連れていくのはおかしいと思います」


 シギンはラテラノは情報源として生かしておくのではないかと推測していた。


「まず、アトランティス・ステルラについて詳細を知っているわけではないと思われます。完成させた後の起動方法などを聞き出すつもりかもしれません。それにリヴァイアサンは魔法を使えないので、魔法の知識も欲しいのではないかと」


「神獣は……、神獣に限らず一部の魔物もですが、食べた者の力を得られます。ただし、記憶や知識までを得られるわけではありません。ラテラノが情報源として連れていかれたと考えるのは間違いないでしょうね」


 シギンとシャウナの話を聞いて安心した。

 ラテラノの安否を確認してないから信じすぎてはいけないけど、少しだけ希望が持てた。


「あとはゆっくり休んでくれ。追撃と救出はこっちでやるよ」

「お願いします。本物(シギン)の体に負担を掛け過ぎてしまいましたから、しばらくお休みしようと思います」

「ああ、おやすみ」


 俺たちはシギンの病室を後にする。

 ライルはもう少し残りたそうな様子だったが、モ二―に羽交い絞めにされてズルズルと病室から引っ張り出されていった。

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