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第八十九話 「バックアタック 後編」

本章はシギンの視点で書かれています。

本物(シギン)とシギンでわかりづらくなっているかもしれません。

混乱したらごめんなさい。

  本物(シギン)と交代したシギンはすぐさま戦闘態勢に入る。


 潤滑魂(マナ)や魔力を利用した攻撃ダメージを無効化する体組織、ガイストハオトを活性化。

 全身の肌が褐色に変化する。


 粒子武器庫を起動させるとガトリング砲を生成する。

 一基は自分で装着、もう一基を生成するとモ二―に放り渡した。


「いよっと!」


 モ二―はガトリング砲を空中で華麗にキャッチする。

 シギンと背中合わせに着地した。


「息を合わせて、合・体・攻・撃! 名付けてフォーメーションクロスファイア、だぁ~!」

「ただの整列射撃です。変な技名を叫ばないでください」


 シギンとモ二―のガトリング砲が火を噴く。

 砲身が熱で真っ赤に焼ける。

 吐き出される弾雨にリヴァイアサンの土壁魔術(ストーンウォール)が粉々に砕け散った。


「ほぅ……!? 物理障壁は高威力の道具で破壊すると言うわけか。なかなか厄介だ」


 リヴァイアサンは使い捨てに土壁魔術(ストーンウォール)を発動させつつ離宮の中庭を逃げ回る。

 時折、エクスのライフル弾がリヴァイアサンを掠めていく。


 複数の波状攻撃に少しずつダメージが入っている。

 ミシュリーヌ最強生物だか何だか知らないが、神獣如きフェミニュートの敵ではない。


 しかし、本音を言わせてもらえばまどろっこしくてモヤモヤしている。

 本当は近接戦闘をしたくてうずうずしていた。

 フェミニュート時代はナイフを使った格闘術が得意だったのだが、今は借り物の体を使っているので仕方がない。

 近接戦闘をするとライルがうるさいのだ。


 このまま一気に片をつける。

 決定打を叩き込むべく更なる火力を求める。


「ラテラノ、援護してください」

「わかった」


 ラテラノがアニムス・オルガヌムを掲げる。

 一際まばゆい光を放ち、黄金のカードがパラパラと生まれていく。


顕現(コール)、――波動光」


 五枚のカードから無数の光芒が飛び出していく。

 天に放たれた光は大空を黄金色に輝かせる。

 そして、降り注ぐ陽光の如くリヴァイアサンへと殺到した。


 リヴァイアサンは動じない。

 恍惚とした表情で迫る光の雨を見仰ぐ。


「美しい技だな。礼に、我が技を披露しよう」


 リヴァイアサンの周囲に気泡が湧き上がった。

 何故、泡が沸くのか。

 水の中でなければ気泡などでるはずがない。


 じわりと肌に水滴が張り付いた。

 あっという間に全身がずぶ濡れになっていく。


「なに、これは……?」


 次の瞬間、怒涛の濁流に呑み込まれていた。

 何もない空気から鉄砲水が噴き出したかのようだ。


 シギンはバリア発生装置を起動。

 荒れ狂う水の圧力から身を守った。


 ガイストハオトは魔術を無効化する。

 しかし、どういうわけかリヴァイアサンの生み出した水は魔力への分解が働かない。


 水流に押し流されて離宮の壁に背中から叩きつけられる。


「ぐぅ……!」


 バリア発生装置がなければ背骨がへし折れているところだ。


 隣のモ二―がいない。

 どこかに流されて行ってしまったらしい。

 こんなことならカイザー・ガイスト装備を装着させておけば良かった。


 ラテラノはどこだろうか。

 そして、リヴァイアサンは?


 シギンは戦況を把握すべく行動に移る。

 粒子武器庫から飛行装置を生成、勢い衰えぬ水の流れから飛び出した。 


 濁流は轟々と渦を巻いて魔王城を呑み込んでいる。

 城内は一階部分が水没をはじめており、一部が市街地に流れ込んでいくのが見える。

 魔王城からは人の騒ぐ声が聞こえてきている。


 本来なら避難誘導なり敵勢力の規模なりを連絡しなければならないけど後回しだ。

 ひとまず緊急時の信号弾だけ空に向かって打ち上げた。


 黒い光が魔王城の上空に緩やかな弧を描く。

 黒の信号弾は危険度の高い敵が侵攻してきた意味を為す、魔王国やヴィーンゴルヴでは市民の避難がはじまるはずだ。


 飛行機械の横へラテラノが舞い降りてくる。

 どうやら宙に逃れることで濁流を回避したようだ。


「シギン、助けられなくてごめん」

「気にしないでください。狙われているのはあなたです。自分の身を守ることを最優先でお願いします」


 リヴァイアサンはどんな手品を使っているのか水上に立っている。


「如何かな、我が水の威力は。なかなか壮観ではないか? 続けていくぞ」


 リヴァイアサンが次なる一手を繰り出す。

 濁流が螺旋を描いて立ち上がる。

 まるで濁流の蛇だ。

 濁流の蛇は全身をくねらせて襲いかかってきた。


 シギンは左へ、ラテラノは右へ。

 濁流の蛇は二手に分かれると追いかけてきた。


 粒子武器庫から取り出したロケットランチャーで濁流の蛇を撃墜する。

 しかし、破壊はできるがすぐに元に戻ってしまう。

 牽制とばかりにリヴァイアサンに向けてロケットランチャーを発射するが、これもまた水の壁に相殺された。


 ロケットランチャーの弾にもガイストの魔術無効化が仕込まれている。

 相殺ではなく貫通できるはずなのに。

 リヴァイアサンの魔術を無効化できない理由がわからない。


 水だ。

 この水は何かがおかしい。


「不思議だな、魔術が無効化できないのか。どうしてだと思う?」


 リヴァイアサンは楽しそうに語りだす。

 シギンとラテラノはひたすら回避に努めるが逃げ場はだんだんと少なくなっていく。


「お前が我が魔術を見破る力があったのなら対抗もできたかもしれない。……超魔術、念力魔術(サイコキネシス)で、魔法によって産み出された水を操作しているだけ、とな」


 リヴァイアサンは男だ。

 魔法は使えないはず。


 ……つまり、敵は二人いる。


 シギンは遅まきながら気がついた。

 ラテラノよりも早くに気がついたからこそ叫んだ。


「ラテラノ、後ろです!」

「……!?」


 ラテラノの背後に女がいた。

 女はラテラノを青白い電撃の鞭で打ちすえた。


 ラテラノの体が激しく痙攣する。

 意識を失ったラテラノはそのまま力なく落下していく。

 女はラテラノを空中で抱き止めるとリヴァイアサンの横へと飛んでいった。


「よくやった、シームルグ。これで二つ揃ったようだ。次へ行こう」

「仰せのままに」


 シギンは唇を噛む。

 やられた、神獣ははじめから二匹いたのだ。

 リヴァイアサンの影からシームルグがずっと隙をうかがっていたということだ。


 ラテラノが拐われる。

 逃がすわけには行かない、両腕に武器を展開する。


 ハンドミサイルをロックオン。

 ロケットランチャーを装填する。


「いかせるものですか……!」

「いかんな。余所見をしていると、捕まるぞ」


 背後から迫る濁流の蛇を注意しているんだろう、そんなこと、百も承知だ。

 捕らわれる前に一撃を入れる――!


 四基のミサイルとロケット弾を発射、寸秒遅れてシギンの体は濁流の蛇に呑まれた。

 濁流の蛇は姿を変えると真球の水の檻になる。


 水の檻から着弾を見守る。

 噴出炎を棚引かせて四基のミサイルとロケット弾はリヴァイアサンに直撃した。


「惜しい。残念だったな」


 リヴァイアサンは健在だ。

 水の壁に阻まれてダメージを与えられなかった。


 ラテラノを抱える女、シームルグが告げる。


「水の檻を固定しました。流動する水にはできない芸当ですけれど、座標が一定ならば可能です。回避を選択しなかったのは悪手でしたね」


 水の檻をロケットランチャーで撃ってみる。

 びくともしない。

 脱出ができない。


 つまり、……このまま溺れて死ぬしかないと言うことだ。


「運よく生き残れたら大魔王に伝えてくれたまえ。……フェニックスとイルミンスールは最後の魔法少女を追っている。完全復活を成したらまた会おうではないか、では、さらばだ……」


 リヴァイアサンとシームルグは悠々と魔王城を後にする。

 シギンは情けなくもその後ろ姿を見送るより他なかった。


 苦しい。

 無駄とわかっていても水の檻に超振動ナイフを突き立てる。

 バキンッとナイフの先端が折れた。


 ……助けられなくてごめんなさい。

 薄れていく意識のなかシギンは本物(シギン)に謝った。

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