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第八十七話 「追跡準備」

 翌朝、朝食の席で魔王国に戻ることを詩乃と紫園に告げた。


 神獣を追いかけることは伏せておいた。

 心配の種になるだろうし、死ぬような目に遭いに行くなんて話はしたくないものだ。


「じゃあ、行ってくるよ」


 自宅の前で詩乃と紫園に別れを告げる。

 今生の別れを惜しむ様なものでなく、ちょいと学校へ行ってくるよと言った気楽さで手を振る。


 どうせいつでも戻ってこれるのだ。

 流家と神水流家の地下に転移魔術(テレポーション)施設を設置させてもらっている。

 魔王国からもすぐに救援に駆けつけることができるし、危険が迫れば魔王国へ逃げることもできる。


 俺が手を振ると、詩乃と紫園も手を振り返してくれる。


「気をつけていってらっしゃい。玲樹ちゃんのことだから、どうせ危ないことするんでしょうけど、お嫁さんを悲しませるようなことだけはしちゃダメよ」

「気をつけるよ……」


 相変わらず宇宙人じみた直感で俺の行動を読んでくる。

 安心してくれ。

 乙女座の男のような生き様にはならんさ。


「そっちこそ。危ないときは魔王国に逃げてくれよ。迎えは寄越すようにするからさ」

「だ~いじょうぶよっ、お母さんたちは平気よ」


 危機感の薄い詩乃を見ておいてほしいなあと期待を込めて紫園に視線を移す。

 紫園は小さく頷く。


「安心しなさい。私も詩乃も悪運だけは強いから。玲樹君は自分のやりたいことを頑張って」

「ありがとうございます。定期的に連絡はしますので」


 俺はぺこりとお辞儀をする。

 紫園は俺の横に立つ陽織へと向き直る。


「陽織も玲樹君をよろしくね。落陽昇月流の教えられることはすべて教えたから、あとは研鑽を積みなさい」

「はい、……ありがとう、お母さん」


 どうやら俺とセリアがイチャコラしていた深夜。

 陽織と紫園は落陽昇月流の修行の真っ最中だったらしい。

 技が決まるかはともかく技術的な指導はすべて伝授してもらったのだとか。


 最後に、シャウナ、アウローラ、セリア、との挨拶を終えて俺たちは旅立つ。

 家屋の陰に姿が隠れるまで詩乃と紫園は俺たちを見送ってくれた。


 別れの余韻が消える頃、アウローラが尋ねてくる。


「して、どうするのだ? 神獣を追うのだろう。どのように奴らを探すつもりだ」

「まずはレギンレイヴとライルに合流しないといけないんだけど、流れだけ簡単に説明するよ」


 まずは、日本に居たフェニックスとイルミンスールを追う。

 姿を消して移動したわけでないのなら飛び去った方角の目撃情報があるはずだと睨んでいる。


 すでにエイルに連絡して情報収集をお願いしている。

 レギンレイヴに地球のコンピューターネットワークにアクセスする機器を導入して、各地のニュースやSNS情報を精査する作業に入っているとのことだ。


 俺たちが戻る頃には情報を集めておくよ、と胸を叩いていたので期待しておこう。


「フェニックスとイルミンスールの移動した方角が分かれば追跡開始だ。ただ、ちょいと問題がある」

「問題とは何でしょう?」

「他国の領空侵犯と転移魔術(テレポーション)施設の設置場所かな」


 レギンレイヴとライルをミシュリーヌ側の転移魔術(テレポーション)施設に置いてきたのも、迂闊に日本に上陸した場合に自衛隊の戦闘機が飛んでくるのが怖かったからだ。

 復興がはじまっているなら着陸する場所もなさそうだし、人目もつく。

 余計な騒ぎに巻き込まれて身動きが取れなくなるのは困る。


 また、日本から移動するときに中国やらロシアやらアメリカの上空を飛ばなければならないと来れば、優秀な戦闘機部隊が緊急発進(スクランブル)してくるであろう。

 通してくださいとお願いして、どうぞどうぞと招き入れてくれることはあり得ない。


転移魔術(テレポーション)施設の設置場所もそこらへんに適当で建てておいたら人が来るかもしれない。地球の周囲には衛星が飛び回っているから監視されていない地域はないし、どこの国にも属さないフリーの土地はないからね」

「ではどうしますの?」


「宇宙か海中かな……」


 エイルの代替案は、大気圏外か深海に拠点を建設すること。

 人類がおいそれと侵入して来れない場所に拠点を作ってしまえば、発見されても即座に破壊されることもないし、調査団がやってくるまでに時間もかかる。


 まずは、合流だ。

 俺達は列車を乗り継いで相模湾へと移動。

 レギンレイヴに拾ってもらい、エイルとの合流を果たした。


 開口一番。

 レギンレイヴが喚きだす。


「大魔王殿! あの女をどうにかしてくれ! 体が重たくて仕方がない。重量オーバーだ」


 あの女とはエイルのことである。


「やあ、御主人様(マスター)。調べ事はあらかたまとまっているよ」


 艦内放送で響き渡る文句はどこ吹く風と聞き流す、エイル。

 彼女はメイド服姿のままキーボードを叩いている。


「こりゃまた……だいぶ詰め込んだな」


 レギンレイヴの中はぎっちりと機械が設置されていた。

 床が見えないほどに重ねられたケーブルがとぐろを巻いている。

 壁にはモニターが何枚も設置され、足りないものは床に固定されたアームに固定されている。

 黒い画面には白文字の英字が凄まじい速度で流れ落ちていく。


 ベットルームもキッチンもすべて機械に埋め尽くされ、俺たちが落ち着けるような場所はない。

 仕方がないので適当な配線を押し退けて床を掘り出す。


「それで、ゆくえは掴めたか?」

「現在位置は不明だけど、フェニックスと思われる光る鳥の姿が目撃されているよ。ニホンからチュウゴクへ上陸、北上してロシアを抜けたあと別の異世界に抜けたみたいだ」


「ロシアの上は異世界なのか?」

「情報ではね。ロシア軍の戦闘を見る限り、ミシュリーヌとは別の魔物がいる異世界のようだ」


「異世界か。……わかった。ありがとうな」

「どういたしまして」


 新しい異世界か。

 追跡開始の前に、地球に安全な転移魔術(テレポーション)施設を建設しておきたいな。


「エイル、度重なるお願いで悪いんだけどさ……」

「わかっているよ。拠点はいま建設中なのさ、もう少し時間が欲しい」

「早いな!? ありがたいけど、無理はしないようにな」

「最近は研究ばかりだからね、いい気分転換さ」


 エイルは爽やかな笑みを浮かべる。

 善意と好意の溢れている。

 申し訳ないので、今度ご褒美は何が良いか聞いておこう。


 地球の拠点ができるまで、少々暇ができてしまったな。

 さて、どうするか。


 悩んでいると、シャウナが手を上げた。


「時間があるのでしたら、ミシュリーヌにいるはずの神獣たちを探しにいくのはどうでしょうか?」

「……なるほど、合体するならそっちも押さえておかないといけないんだよな」


 ミシュリーヌにいるはずの神獣は。リヴァイアサンとシームルグだ。


 俺たちは一度、魔王国に戻ることになった。

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