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第八十一話 「日本到着」

 日本国。

 東アジアに位置する四つの列島と大小の島々からなる島国。

 日本人なら誰もが知る我が祖国と言うやつだ。


 魔王国を旅立ってから二週間、ついに、日本列島を発見することができた。

 しかし、俺が創造していた日本の姿はすでになかった。


 俺が創造していた日本は、神獣イルミンスールの居座る魔物が溢れた関東地方だ。

 目の前に広がるのは、赤と白の巨大クレーンが立ち並ぶ造りかけのビル群とブルーシートの掛けられた家々。

 そして、疲れ果ててはいるものの精力的に働く日本人の姿である。


 俺が今立つのは京浜急行電鉄、横須賀駅前。

 日本は復興の道を歩みはじめていた。


「どういうことかしらね?」


 半壊した横須賀駅のホームから街を眺めていると、陽織がやってきた。

 ……アイスクリーム食べながら。


 胡乱げな視線を向ける。

 すると、食べていたアイスクリームをにゅっと差し出して、食べる? と聞いてくる。


 異変が起きていると言うのにマイペースな陽織だ。

 アイスクリームは食べたいので一口頂いておく。

 甘い。

 久しぶりのキャラメル味だ。


 そんな俺たちの前に立つのは、アウローラとシャウナとセリアだ。

 いつも(ミシュリーヌ)の服装では目立つので、三人には日本の学生っぽい私服に着替えてもらっている。


「……師よ、神獣共がこの地に居たことは間違いないのか?」

「ええ、姿を確認できているのはイルミンスールだけですが。間違いありません」

「すでに何者かに倒されたということかしら……?」


 アウローラが疑問視する通り、日本に陣取っていた神獣はどこにもなかった。


 神獣イルミンスールと神獣フェニックス。

 彼らが忽然と消え失せたことで狐につままれたような有様であったが、脅威がなくなったのであれば復興をしなくてはならない。

 日本はアメリカ第七艦隊と自衛隊による関東地方奪還作戦を展開。

 関東地方にいる魔物の駆逐に成功したのが、いまから二か月前の話だそうな。

 関東地方は魔物の脅威から解放されたおかげで復興作業に入れていた。


 ちょうど快速列車がホームに滑りこんできた。

 服の裾を引っ張って三人を後ろに下がらせる。


 きょとんとした顔を見せる三人に、危険だから電車を待つ時は白線の内側に下がるんだと教えてやった。


 危険なのは列車だけど。

 ……うっかり通過列車に接触したら電車を弾き飛ばしてしまう気がする。


 いまは本数を減らした状態で、横須賀から品川間の快速と普通の運行しかしていないようだから、列車はやたら混みあっていた。


 電車には自衛隊員らしき迷彩服を着た人も多い。

 空を見上げればアメリカ軍か自衛隊かわからないけどヘリコプターが飛んでいるのが見える。

 レギンレイヴとライルを転移魔術(テレポーション)施設に待機させてきたのは正解だった。


「レイキ、これからどこへ向かうのだ?」

「まずは、実家かな。君たちを紹介しないといけないからね」


 全員に緊張が奔る。


 俺だって緊張している。

 嫁を四人も連れて行ったらと思うと反応がどうなるのか、普通の反応ではないだろうことは予想される。

 陽織に至っては紫園さん(ひおりママ)もいるしな……。


 まずは八王子の家に行ってみて、いなければ新潟の祖父母の家に向かう。


 しばらく列車が走り続けると、建物がまばらになっていく。

 やがて延々と更地になった。


「この辺り、かすかな神気を感じますわ」

「ここは俺と陽織が通っていた学校があった。神獣イルミンスールがいた場所だ」


 学校が建っていた丘は綺麗になにもない。

 すり鉢状にはなった更地には大型トラックが何台も駆けずり回っている。

 地面に空いた大穴を埋める作業を行っている。


「神獣たちはどこへいったのでしょうね」

「……嫌な予感はする。警戒は怠らぬようにせねばな」


 横浜駅で京浜東北線に乗り換え、東神奈川駅で横浜線に乗り換えて八王子を目指す。


 そして、八王子駅に到着した。

 変わらぬ街並みを前にして陽織が驚きの声をあげる。


「街がある。意外と被害がすくなかったのかしら?」

「イルミンスールの開花の外側だったんだろ。魔物の被害だけならこんなものじゃないのか?」


 駅前から自宅までの道を歩くのもずいぶんと久しぶりだ。

 学校でのサバイバル生活をしていたのが懐かしい。

 シャウナと出会ったときからは半年以上経っているわけだ。


 あの角を曲がれば、……我が家が見える。

 陽織の家も見えるはずだ。


 母は戻って来ているだろうか?

 いや、最悪を考えると新潟にたどり着く前に……。


 角を曲がる。

 心臓が跳ねた。


 家の前に誰かが立っている。

 四○代くらいの女性だ。

 ガラクタを積み上げると、肩に掛けたタオルで額を拭う。


 足早であった歩調はいつしかはや歩きになり、気付けは走り出していた。


「母さん……?」


 走りよった女性に声を掛ける。

 女性の後ろ姿がびくりと震えた。


 ぱっと振り返る。


「玲樹ちゃん……」


 流 詩乃(ながれ しの)

 我が家の前に佇むのは、俺の母親に間違いなかった。

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