第八十話 閑話 「魔法の食べ物」
第八十話を書き直していたときの残骸です。
魔法少女ラテラノが持ち込んだ魔法の力。
自分の想像したイメージを具現化する力は非常に強力なものだった。
陽織は魔法の力を使ってある挑戦を試みていた。
ある日の夕食後。
陽織から、デザートがあるの、と告げられた。
聞けば魔王国で販売する新しいお菓子の試作品を作っているのだとか。
「もうすぐできるから待っててね」
俺たちは談笑に耽りつつ返事をする。
座って待つのは、俺、シャウナ、アウローラ、セリア、エイル、ラテラノ、それにお呼ばれされたシギン。
訳があって俺は性転換魔術を発動させている。
理由はあとで話す。
オーブンからは甘い香りが漂ってくる。
厨房はチョコレートやら牛乳やら卵やらが並べられていて散らかっていた。
準備は夕食と並行してやっていたようで下準備の終えたお菓子を焼くだけの状態にしておいたらしい。
しばらくして陽織の元気な声が聞こえてきた。
「おまたせ~~~!」
陽織が甘い香りを棚引かせて厨房からやってくる。
白いお皿がテーブルの上に置かれた。
異世界の面々は見たことのないお菓子に興味津々だ。
「質素な見た目ですがとても良い香りですわ」
と、セリアが評する。
「こちらの物は生クリームが添えられているのですね。舌に残りそうです……」
と、シャウナは甘さが気になるようだ。
ふっくらと焼き上がったスポンジからチョコレートの香りが立ち上る。
このお菓子は、……チョコレートシフォンケーキだ。
俺と陽織は別の意味で興味津々だ。
と言うのも、ある特別な材料を使っているので食べると特別な効果が現れるはずなのだ。
「これで、身体能力が上がれば成功なんだっけ?」
「そうだよ。前回の試食ではうまくいったから問題ないはずなんだけどね」
特別な材料とは、アニムス・オルガヌムを使って生み出されたカカオのチョコレートだ。
アウローラと言い、陽織と言い、我が家の女性陣は魔法をあっさりと修得できている。
ちょっと羨ましい。
切り分けられたチョコレートシフォンケーキを口に運ぶ。
うむ、旨い。
ホロリと崩れる食感。
ビターテイストな味は、甘い飲み物といっしょに食べるとちょうど良い。
さらに英雄憑依霊術ほどではないにせよ、身体が動かしやすくなった気がする。
身体能力を向上させるチョコレートシフォンケーキ。
これは魔王国の特産品になる。
皆の反応も上々だ。
「おいしい」
「美味」
と、食べるのに忙しい本物とラテラノ。
よほど気に入ったのか二切れ目に手を伸ばそうとしている。
「次は余も菓子造りに挑戦してみるか」
「そのときは手伝うわよ」
「ありがたい。宜しく頼む」
と、アウローラと陽織は次なる菓子の挑戦へと意気投合している。
さて。
和やかなムードであるが、俺には試さねばならないことが残っている。
おもむろに性転換魔術を解除してみた。
すると、フワフワと自身を取り巻いていた力が消えてしまった。
くそぅ、やはりダメか。
「……このケーキは、……アニムスに作用している。……女性にしか、……効果がない」
モグモグしているラテラノが指摘する。
言われた通り、男に戻った途端に効果が切れてしまった。
女性のみ有効とは不便すぎる。
がっかりとしているとラテラノから在り難いお言葉を賜った。
「ナガレは女として生きればいい。最適解」
「ぜんぜん最適じゃないからな!?」
試食会を経て、チョコレートシフォンケーキ(身体能力強化)は魔王国の国営店で販売された。
女性の冒険者が買ってくれるのに加えて、街の女性にも人気があり、魔王国で目玉商品となる売れ行きとなった。
冒険者はわかるけど何故、街の女性にも売れたんだ?
なんでだろうな、と首を傾げていたのだが、その理由を俺は夜に思い知ることになった。
……英雄憑依霊術は俺の専売特許ではなくなってしまったという事だ。