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第七十七話 「基地設営」

 カイゼリン・ガイストと戦っていた少女は昏々と眠り続けた。


 正直、焦った。

 俺の魔術のせいで意識不明にでもなってしまったら大変なことだ。

 再生魔術(リジェネレイト)を使ってみたり、状態異常かと思い解毒魔術(ポイズンリカバリー)を掛けてみたりした。


 が、目を覚まさない。

 これは一回トドメを差してから蘇生魔術(リザレクション)を使ったほうが良いのではないかと危ない考えに支配されようとしたところ、レギンレイヴ曰く、身体的・精神的疲労のため眠りが深いことも予想されるとのコメントを頂いていた。


 もっと早く言って欲しい。

 決して俺の魔術による後遺症ではないと思う、思いたい、思わせてください。


「大魔王殿、そろそろ転移魔術(テレポーション)施設の設営場所を検討するため着陸します。宜しいですか?」

「ん、もうそんな時間か」


 ベッドルームは窓がないので時間間隔が薄れる。

 コクピットルームへ移動してモニター越しの外を確認してみる。


 雲海の彼方に浮かぶ太陽はオレンジ色に輝き半分隠れようとしている。

 夕暮れだ。

 もう数時間も経てば地上は夜闇に包まれることだろう。


「この下はなんだ?」

「直下はいまだにミシュリーヌと思われます。広大な森林地帯が続いており、人工物および人口熱源はなし。付近に文明は存在しておりません」


 森林地帯か。

 セリアから設置する場所の注意は受けている。


 近くに川がないこと。

 魔物の巣がないこと。

 地盤が固いこと。


 設置する前に周囲一○○メートルは整地すること。

 転移魔術(テレポーション)施設を設置した後は、セリアに作成してもらった防衛用ゴーレムを配置すればお仕事終了だ。


「……急いで着陸しよう。暗くなったら作業がしづらいしな」

「承知しました。降下開始。ライル、地上の警戒を頼む」

「了解だ。先行する」


 雲海を抜けて地上へと向かうライルとレギンレイヴ。

 眼下には地平線まで続く黒々とした密林が広がっていた。

 あちこちにテーブルマウンテンが点在しており、流れ落ちる細い滝が霧となって全容を覆い隠していた。


 どこがいいものか。

 セリアの条件に当てはまりそうな地形をじっと探し続ける。


「レーキ、あの地面が隆起している高台はどうだ?」


 ライルが目星をつけた場所を転送してくる。

 モニターに大写しにされたのは密林地帯にぽっかりとあるテーブルマウンテンの一つだ。

 周囲のテーブルマウンテンより小さく背が低いので魔物が潜んでいる様子もない。


「いいね、ライルが言った場所に降りてくれ。レギンレイヴ、女の子は任せた。起きたら教えてくれ」

「承知しました」


 レギンレイヴの着陸に合わせて格納庫へ。

 格納庫のスロープが下ろされると外へと歩き出した。


 地上へ降り立つ。

 空の上はまだまだ明るかったのに、地上はすでに薄闇が広がっている。

 テーブルマウンテンの下の密林からは得体のしれない獣の唸り声と茂みをかき分ける音が聞こえてくる。


 サクッと転移魔術(テレポーション)施設を設置しよう。

 こんな薄気味悪いところはおさらばだ。


 テーブルマウンテンの頂上は硬い岩盤のため大地噴出魔術(アーススプレッド)では地盤が緩くなる危険がある。

 そこで、対消滅霊術(アナイアレイション)を使って水平に削り取ることにした。

 これで平らな岩盤の完成だ。


 収納魔術(インベントリ)から転移魔術(テレポーション)施設を物質化させる。


 転移魔術(テレポーション)施設は開閉式になっており、起動すると最大で五十メートルまで設備が展開するようになっている。

 展開した設備のシステムが転移魔術(テレポーション)に反応して、転移フィールドを展開、転移先施設とリンクして巨大な物でも通過できるようになるトンネルを作ってくれるんだそうな。


 詳細な説明はエイルにでも聞いてくれ。

 要するに、俺とライルとレギンレイヴは本日は魔王国に戻ってゆっくり休んで、明日またここに戻ってくるってことだ。


 最後にセリアから渡されたゴーレムを均等に配置する。


 いちおうゴーレムが動作することを確認しておく。

 ん、問題なさそうだ。

 これで本日のお仕事は完了である。


 ようやく魔王城へ帰れる。

 ……もう帰ってきたの? とか言われて冷たい目で見られたりしないよね。

 倦怠期はまだのはずだ。


 今はまだないけど、嫁たちともいずれ喧嘩する日もくるのかな。

 仲直りができるといいけど。


 喧嘩と言えば、ライルとレギンレイヴはひどかったな。

 顔を合わせると罵り合いを始める人たちは初めて見た。

 いったい過去に何があったんだろう、下世話だけどちょっと気になる。


 そこへ偵察を終えたライルが戻ってくる。

 この位置ならレギンレイヴには聞こえない。

 少し聞いてみるか。


 俺はライルに声を掛けた。


「なあ、なんでレギンレイヴと仲が悪いんだ?」

「……藪から棒だな。気になるのか?」

「そりゃあ。あんなにあからさまじゃあね」


 ライルは黙って首を振る。


「悪いが話せない。彼女の尊厳にかかわることだ」

「だけど仲が悪いままだと作戦中とか、大丈夫なのか……?」

「シギンとエイルは問題ないと判断した。気になるのなら俺を外せばいい、……俺から話すことはない」

「そうかい、変な事効いて悪かったな」


 気にするな、と一言。

 ライルは足早にレギンレイヴのほうへと歩いて行ってしまう。


 直球で聞いてみたけどダメでした。

 ライルは真面目な性格だから口が堅いだけかもしれないけど、頑なに話そうとしないということは根の深い話なのかもしれない。


 しかし、重要なことを聞いた。

 喧嘩の原因は、レギンレイヴの尊厳にかかわること、だそうな。


 今日一日を共に過ごしてみて思う感想。

 レギンレイヴは仕事に真面目で実直な性格で悪人ではない。

 そんな人物が、尊厳にかかわる一大事を引き起こしたのか?


 ……今は考えてもわからんか。


「大魔王殿。少女が目を覚ましました、……言語コミュニケーションが取れないため混乱しているようです。至急、いらして下さい」

「すぐ行く」


 俺は急ぎレギンレイヴへと戻った。

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