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第七十四話 「力を求めて」

 パチパチと薪の弾ける音が聞こえてくる。

 暗い海には月が浮かび、穏やかな波音が絶えることなく聞こえてくる。

 ぼぅっと火の粉が舞い上がる。


 キャンプファイアーの揺らめく炎をじっと眺めながら、話をはじめる頃合いを待っていた。

 すごくいい雰囲気なのだ。

 邪魔したくないなぁと思わせる空気が流れている。


 シャウナは書物を片手に尻尾を揺らしている。

 セリアは余興に持ってきていたヴァイオリンでまったりとした曲を弾いている。


 シギンは疲れてしまったのか毛布を掛けられて眠っている。

 傍らにライルが彫像のように控えていた。


 アウローラは愛用の剣を片手に、音もなく、月下に舞うように、美麗な剣舞を披露している。

 陽織は俺の肩に頭を乗せて星の空を眺めている。


 皆が静かな時間の流れを楽しんでいる。


 エイルが薪を足したとき、一際大きな音を立てて薪の割れる音がした。

 皆の視線が集まる。

 シギンがふにゃっと寝ぼけた声を漏らす。


「……皆、ちょっと聞いてほしい」


 すんなりと皆の注意がこちらを向く。


「嫌な話かもしれないけど……、機械人たちのことだ。彼らとは不戦の約束をしてあるけど、これから何が起こるかは誰にもわからないと思ってる。だから、もしものために力をつけたいと思っているんだ。……皆の意見を聞かせてほしい」

「それは、幅広い意見という意味かい? 戦う、戦わない、力をつける、力をつけない、も含めて?」

「うん。これからやりたいことでもいい」


 皆も思うところがあったのだろうか。

 口火を切ったのは陽織だ。


「……私は日本に戻ってお母さんに会っておきたいかな。落陽昇月流の技についても聞きたいことがあるしね」


 陽織の意見は賛成だ。

 俺も母さんに会いたい。

 生存報告とか、結婚とか、魔王国とか、話すことは尽きない。


 一番乗り気だったのは王姫たち。

 アウローラとセリアとシャウナは口々に宣う。


「余に異存はない。戦神姫の力をもってしても勇者に敗れたのは業腹であるからな……」

「わたくしも異議ありません。皆様と比べてもかなり力不足ですからね……、このままでは、悔しいですわ」

「それを言うなら私が一番弱いと思いますけど。強くなりたい気持ちは誰にも負けていないつもりですよ」


 フェミニュート勢も負けてはいない。


「あたしたちの技術水準が低いと思われたままなのは悔しいです。カイザー・ガイストがカイゼンリン・ガイストとやらに劣ったままであるとは認めません」

「違いないね。機械人の技術レベルが高いのはわかっているけど、いつまでも下に甘んじているのは怠慢だ」

「奴らには借りがあるからな。勝ち戦で逃げられては叶わん」


 皆が次々と意見を述べてくれる。

 少しほっとした。


 結婚をしている身でいまさら戦いなんて、とか。

 機械人との不戦を結んでいるのに相手を警戒させるようなことをするのは良くないんじゃないか、とか。

 非戦の空気が流れてしまうんじゃないかなと不安を感じていたのだ。


 好戦的な感情は困るけど、強くなりたいと思う気持ちを皆が持っているんだな。


 アウローラが砂浜にどさっと座り込む。

 やる気に満ちた獰猛な笑みを浮かべつつ問う。


「して、レイキはどのように力を得ようと考えている?」


「他の異世界の技術を探しに行こうと思ってる、……機械人のオメガが言っていたんだけど、この仮想世界は際限なく物理世界を取り込んでいるって言っていたから、強力な技術を持つ異世界も沢山あるはずだ。その力を集めたい」


 そこへ不安そうな声が掛けられる。


「玲樹よりも強い野蛮人たちがいたらどうしますの?」


 セリアだ。

 その懸念はある。

 機械人オメガは話の通じる相手だったけど、そうじゃない相手で力の強い者であった場合は全滅の危険がある。


 おお、魔王よ、死んでしまうとは情けない……。

 ドラ○エのように魔王城で復活できるわけじゃないので、強敵に出遭ってしまった場合は腹を括るしかないだろうな。


「そのときは皆を抱えて逃げることになるだろうね……、そうならないことを祈るよ」


 スッと手が上がる。

 シャウナが真面目そうな顔で尋ねてくる。


「異世界の探索となりますとかなりの長旅が予想されますけど、食料や旅の準備、それに魔王国はどうするんですか?」


 来ると思っていました、その質問。

 長旅の問題はセリアとエイルが解決策を持っている。


「それも考えてる。……転移魔術(テレポーション)施設を建設しながら移動すれば、どんな長旅もできるんだよな?」

「可能だよ。昼は冒険をして夜は魔王国に戻って休む、……なんて生活を想定しているからね」

「それは便利ですね――!」


 シャウナが驚くのも無理はない。

 寝物語にシャウナが冒険者であった頃の生活を聞かせてもらっていたが、旅と言うものは思った以上に辛い。

 野宿は危険だし、食料は不足すればたちまち飢えてしまうし、魔物はどこでも襲いかかってくるし、人里離れた街道には盗賊や人攫いが現れる。


 夜の間は安全な魔王国に戻ることができる旅なんてイージーモードここに極まれり。


「では、決まりだな。異世界を旅して新たな力を得る、……はじめはどこへ向かう?」

「手始めだからね。旅がどんなものかも考えて近場にしようと思うんだ」


 俺が提案した行き先。

 それは、日本だ。


「日本には神獣が二体いたはず。あいつらから力をもらえないかなって考えている」

「イルミンスールとフェニックスですか」


 イルミンスールは別れ際に約束があったはず。

 生き残ったら褒美をやるとか偉そうなことを言っていた。

 せいぜい踏んだくってやる。


 フェニックスはどんな性格なのか知らない。


「シャウナはフェニックスと会ったことがあるんだっけ?」

「はい、武器を打つのに特別な炎が必要だったもので……」

「歯切れが悪いな、面倒な奴なのか?」

「……え、ええ……、かなり本能に忠実と言いますか……。変わった性格ですから。レイキがいれば服従させることはできるはずですけどね」


 勇者みたいなタイプなのかも知れないな。

 あいつも本能に忠実なサディストだった。


 ああ、怖い怖い、嫁たちか傷物にされたら大変だ。

 俺が矢面に立って皆を守らなくては。


「無理な要求を突きつけてくるようなら、脅しでも何でもやってやるさ。シャウナはフォローに回ってくれ」

「……! それは、あ、……でも見てみたいような……、わかりました。レイキの覚悟、見せていただきます」


 異論はなさそうなので最初の目的地は日本に決まりだ。

 あとは魔王国の面々に説明をして、移動方法を検討して、転移魔術(テレポーション)施設の運搬方法をどうするか。


 明日から忙しくなりそうだ。

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